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【五木寛之 心に沁み入る不滅の言葉】 第7回

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之講演集


 五木寛之さんの『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』から心に沁み入る不滅の言葉をご紹介します。

 五木さんは戦時中から特異な体験をしています。
 「五木さんは生まれて間もなく家族と共に朝鮮半島に渡り、幼少時代を過ごしました。そこで迎えた終戦。五木さんたちは必死の思いで日本に引き揚げたそうです」(「捨てない生活も悪くない」 五木寛之さんインタビューから)


 今年9月に90歳になるそうです。今日に至るまで数多の体験と多くの人々との関わりを掛け替えのない宝物のように感じている、と思っています。

 五木さんは広く知られた超一流の作家ですが、随筆家としても、講演者としても超一流だと、私は思っています。

 一般論ですが、もの書きは話すのがあまり得意ではないという傾向があります。しかし、五木さんは当てはまらないと思います。 



「『慈』と『悲』」から

五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 1 (19)

 
 人間が生きていくなかでは、頑張ってもどうしようもないことはある。頑張ってもどうしようもない、そのような局面の人間に働きかける力を持っている感情こそ、この「カルナー」、「悲」というものではないか、と私は思います。
「悲」というのは、「頑張れ」とは言わない、「希望を持て」とも言わない、なにも言わない。そういうことではないか。

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之         




「『慈』と『悲』」から

五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 2 (20)

 
 「慈」というのは近代的で大変わかりやすく、ヒューマンな、明るい感じがします。一方で、「悲」というのはどこか古風で、前近代的で、そしてウエットな感じがして、しかも暗い。
 私たちは「慈」というものにたいして非常に共感を寄せますが、「悲」という感情、「カルナー」というものには、なかなか自分で近づきにくいところがあるのではないかと思ったりもします。

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之         



「『慈』と『悲』」から

五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 3 (21)

 
 相手の痛みを自分の痛みのように感じ、ジッと耐えながら相手の顔を見つめている、そして深い溜め息をつく。
 このような「悲」の感情こそ、いま私たちが一番大事にしなければならないものではないかと思います。
 そんな受け身の「悲」というものが、人間を少しでも救うことができるのか、人の心の痛みをいやすことができるのか、と言われますが、私はできるような気がするのです。

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之         


出典元

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編 五木寛之講演集』から
2015年10月15日 初版第1刷発行
実業之日本社




✒ 編集後記

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編 五木寛之講演集』は、講演集ということになっていますが、巻末を読むと、「2011年8月東京書籍刊『生かされる命をみつめて』『朝顔は闇の底に咲く』『歓ぶこと悲しむこと』に加筆の上、再構成、再編集したものです」と記載されています。

裏表紙を見ると、「50年近くかけて語った講演」と記されています。それだけの実績があります。

🔷 「慈」と「悲」について独自の解釈を加えて、語っています。

私たちは、「慈悲」という一つの言葉で理解しています。
しかし、もともとは「慈」と「悲」は独立した存在であったという話を初めて知り、「慈悲」と、「慈」と「悲」はかなり異なる概念であることを認識しました。

他人の痛みを自分の痛みと感じることは難しいことです。
瞬間的に共感できたとしても、持続性は乏しいと思っています。
結局は他人事ひとごとだからでしょう。

「自分事のように考えよう」と言うことは容易いことですが、実体験がないと、心底から実感することはできないでしょう。


🔶 五木寛之さんの言葉は、軽妙洒脱という言葉が相応しいかもしれません。軽々に断定することはできませんが。

五木さんの言葉を読むと、心に響くという言うよりも、心に沁み入る言葉の方が適切だと思いました。

しかも、不滅の言葉と言ってもよいでしょう。



著者略歴

五木寛之ひつき・ひろゆき

1932年福岡県出身。早稲田大学露文科中退。67年、直木賞受賞。

76年、吉川英治文学賞受賞。

主な小説作品に『戒厳令の夜』『風の王国』『晴れた日には鏡をわすれて』ほか。

エッセイ、批評書に『大河の一滴』『ゆるやかな生き方』『余命』など。

02年、菊池寛賞を受賞。

10年、『親鸞』で毎日出版文化賞特別賞受賞。

各文学賞選考委員も務める。






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