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【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉】 Vol.23
大人の流儀
伊集院 静さんの『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。
時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院さんはこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。
帯に自筆で「ちゃんとした大人になりたければこの本を読みなさい」と記しています。
ご存知のように、伊集院さんは小説家ですが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。
「愛する人との別れ~妻・夏目雅子と暮らした日々」から
伊集院 静の言葉 1 (67)
私は学生時代の後半、横浜で沖仲仕なんかをやってましたからドヤ街の近くの焼鳥屋や立ち飲みの酒場や鮨屋に一緒に行きました。誰にでも気さくで天真爛漫でしたね。人を分けへだてすることがない。そういうことを知らないんだと思うんです。しかしそういうつき合いも長くは続きませんからね……。
マスコミに発覚して、クライアントが制作会社に事の真相をただしてきました。会社に迷惑があってはと、その日に私は辞表を出して辞めました。マスコミにはひとつの記事でしかないでしょうが、人間一人職を失うこともあるんですね。しかしその会社は退社後も一年給与をくれました。犠牲にしてしまったという気持ちもあったのでしょうが、いい社長さんで有難かったです。
「愛する人との別れ~妻・夏目雅子と暮らした日々」から
伊集院 静の言葉 2 (68)
今はもうありませんが、逗子の海に面した真ん中辺りに”なぎさホテル”という古いホテルがありました。そこの支配人のIさんという人とめぐり逢って、私はホテルの隅にあるちいさな部屋で居候をはじめたんです。仕事もしていませんでしたから部屋代も払えやしません。I支配人はそれでも「出世払いでいいから好きなだけ居なさい」と言ってくれてとうとうホテルが失くなるまでの八年余り、そこで暮らしました。離婚もしていましたし、独りで気楽な生活でした。
「愛する人との別れ~妻・夏目雅子と暮らした日々」から
伊集院 静の言葉 3 (69)
そこに彼女が仕事が終ると来るようになりました。ご両親は私のような男が相手だと嫌だったでしょうね。何しろ無職の上に酒は浴びるほど飲むし、ギャンブルはやるし、喧嘩をするし、いいとこなんかひとつもありませんから。それでも彼女は休みになると遊びに来ていました。ホテルの従業員の人と遊んだり、茅ヶ崎、鎌倉へよく出かけました。由比ヶ浜にあるお鮨屋さんの御夫婦と知り合い大変世話になりました。このご夫婦には後に結婚する時に仲人までしていただきました。恩人ですね。
出典元
『大人の流儀 1』
2011年3月18日第1刷発行
2011年7月14日第11刷発行
講談社
✒ 編集後記
『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。
伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。
伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます。
🔷 『大人の流儀 1』の最後の章「愛する人との別れ~妻・夏目雅子と暮らした日々」についてお伝えします。
しばらく続きます。
伊集院氏は潔いですね。必ずしも自ら辞表を出して辞めることが正しいこととは思いませんが、何とかなるという自信があったから即断即決できたのでしょう。
そんな伊集院氏を夏目さんは大好きだったのでしょう。
「無職の上に酒は浴びるほど飲むし、ギャンブルはやるし、喧嘩をするし、いいとこなんかひとつも」ないと謙遜している男の人に心惹かれたのだろうと推測できます。
一方で、夏目さんはお嬢様でしたが、「誰にでも気さくで天真爛漫で、人を分けへだてすることがない」人柄に伊集院氏はグッときていたのではと推測しています。
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🔶 伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。
<著者略歴 『大人の流儀』から>
1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。
91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。
作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。
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