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【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉】 Vol.73

大人の流儀

 伊集院 静氏の『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。

 時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院氏はこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。

 『大人の流儀3 別れる力』をご紹介します。

 ご存知のように、伊集院氏は小説家ですが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。


第一章                   別れて始まる人生がある


「父の思い、母の優しさ」から

伊集院 静の言葉 1 (216)

 私は幼い頃、わからないことはすべて母に問うた。一度たりとも母は答えを返さないことはなかった。
 たとえば私の父の故郷の男たちが家にやってきて朝鮮(韓国でもかまわないが)の言葉を酒に酔って話しはじめると、子供の耳にはそれがほとんど喧嘩をしているようにしか聞こえなかった。
「母さん、父さんたちは喧嘩をしているの?」
 幼い私は心配になって訊いた。
 母は笑って言った。
「そうじゃなくて父さんの国訛りがあんなふうに聞こえるのよ」
 後日、母は韓国の学者の家に私を連れて行き、静かに語る韓国語の朗読を聞かせた。   

   大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静                               



「父の思い、母の優しさ」から

伊集院 静の言葉 2 (217)

 父は私が初めて韓国の、父や母の親戚を訪ねて行く時、大きな家系図を見せて言った。
「わたしの家は元々、趙家と言ってたいした家だったからな」
 訪韓して、父の元生家の跡を見たし、父の兄(すでに亡くなっていた)の息子と話をしたが、名家でもなんでもなかった。
 面白いもので、私の家は何でもありませんから、と言った母の家の方がたいした家で、坊さんから母の家の祖父が災害の時に田畑を売った話を聞かされた。
 それでもその旅で父のことを尊敬した。
 逢ったあらゆる人たちから、父のお陰で自分たちの今の暮らしはあると涙ながらに言われた。同行したアートディレクターの長友啓典氏にも言われた。
「あんたよりずいぶん偉い人やな」   

   大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静                               

                       



「二度と逢えない、それは真実」から

伊集院 静の言葉 3 (218)

 数年前まで、一月から二月にかけて、よく立川談志の独演会に出かけた。
 それが初春の愉しみであった。
 私は自分から何かを観に行く、聴きに行くことは年に一、二度しかない。
 そのひとつが談志師匠だった。
 聴きに行くと言うより、逢いに行くと言った方が正確だったろう、
 魅力的な人だった。
 チャーミングであった。
 何より艶気があり、二十年近く前だろうか、酒場でイイ女(その頃は酒場にもイイ女がいた)にでくわし、少し話をして、今、イイ男は誰か? という話題になると、そりゃ談志よ、と女たちはさらりと言った。
-----ほう、解っている女がいるんだ。
 と見直した。
 イイ女は世間の風評、風潮にまどわされない。自分の目で見たものを善しにつけ、悪しきにつけ第一義とする。
 そういう女はつるまない。   

   大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静                               


⭐ 出典元

『大人の流儀 3 別れる力 』
2012年12月10日第1刷発行
講談社

表紙カバーに書かれている言葉です。

人は別れる。
そして本物の大人になる。




✒ 編集後記

『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。

伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。

伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます

🔷「立川談志師匠」

私は寄席で落語を聴いたことはありませんが、YouTubeで立川談志師匠の落語を時々聴くことがあります。

前口上が実にうまく、そこで視聴者の心を鷲掴みにしてしまいます。

談志師匠の『芝浜』『紺屋高尾』が好きです。
下町の良い話です。癒やされます。

ぜひ、一度談志師匠の傑作落語をお聴きください。





🔶『大人の流儀3 別れる力』について『由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い』に言及しています。


伊集院静と城山三郎
『別れる力 大人の流儀3』
私が伊集院静さんに興味を持ったのは、彼の先妻が女優の夏目雅子さんであったこともありますが、『いねむり先生』という題名の小説を読み、不思議な感覚を味わい、また『大人の流儀』という辛口のエッセーを読んだからです。 

由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い p.212



夏目雅子さんのプロフィール




🔶 伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。


<著者略歴 『大人の流儀』から>

1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。

91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。

作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。



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⭐ 私のマガジン (2022.12.27現在)


























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藤巻 隆
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