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【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉】 Vol.70
大人の流儀
伊集院 静氏の『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。
時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院氏はこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。
『大人の流儀3 別れる力』をご紹介します。
ご存知のように、伊集院氏は小説家ですが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。
第一章 別れて始まる人生がある
「愛する人が残してくれたもの」から
伊集院 静の言葉 1 (207)
人と人は出逢いではじまる。
雁のヒナは最初に目に映った対象を自分の親と思うそうだ。
雁を人だと考えると、人は生まれいずる瞬間に、誰かの差し出してくれる手を必要としているのである。
それは私たちのこころの奥底にきちんと埋めこまれており、寒い朝に赤児がどこかで泣く声を聞けばどんな人でも、大丈夫なのか、何か切ないことが赤児の周辺で起きてはいないかと心配をする。これは人間が、大人の男がここまで(二十歳くらいかな、いやもっと若くても当然だと思うが)生きてくれば人として当たり前のことである。
「愛する人が残してくれたもの」から
伊集院 静の言葉 2 (208)
人と人、生きものと生きものは出逢いがはじまりだが、人間以外の生きものに例えると、大半の生きものは生まれてすぐに別れを経験する。
海ガメの子供たちがそうである。
テレビなどは浜に揚がった海ガメが涙を流しながら産卵するシーンを映し、それをナレーターがさも感動したように語るが、肝心は孵化した後、あの卵の殻を割って砂の中から必死で這い上がり、海を目指して筋肉も満足にできていない海ガメの子がむかう、あの力が大切なのである。
そうしなければ生きていけないし、人が人生がどうのこうのと言う以前に、カメの生涯があるとすれば、別れこそが彼等にひとつの生、生涯を与えるのである。それでも百の子ガメで生き残るのは数匹である。
「愛する人が残してくれたもの」から
伊集院 静の言葉 3 (209)
私は三十五歳で若い妻を癌で亡くした。
仕事を休みともに治療現場にいた(このことは後に仕事を休むべきではないと思った)。二百九日後、妻は亡くなり、私は茫然とした。妻の仕事が女優であったため病院の周囲は騒然とした。ところが私に言わせると、生きる希望を抱いていた若い一人の女性が、私の妻が、生きること、明日があることをすべて断たれたことに、
-----いったい何が起こったのか?
と混乱するばかりであった。
⭐ 出典元
『大人の流儀 3 別れる力 』
2012年12月10日第1刷発行
講談社
表紙カバーに書かれている言葉です。
人は別れる。
そして本物の大人になる。
✒ 編集後記
『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。
伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。
伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます。
🔷「二百九日後、妻は亡くなり、私は茫然とした」
夏目雅子さんは、入院後209日間、癌と闘いました。
抗癌剤の副作用により症状が急激に悪化し、若かったため癌の進行が早く27歳で亡くなりました。
当時伊集院氏は35歳でした。
お二人とも若かったため癌宣告を受け入れることは非情に困難なことだったと推測します。
209日間は、夏目さんと伊集院氏にとって苦悩の日々であったでしょう。
運命を呪い、取り乱すことはなかったのでしょうか?
私の妻は、入院後わずか19日間で旅立ちました。
入院7日目に主治医から直接説明を受けた時のことは、今でも鮮明に覚えています。
「通常の食事が摂れないので体力がなく、現状では抗がん剤も手術もできない。腹水の中にはがん細胞がある。(数秒、間をおいて)手遅れです」。
最後まで説明を聞き、覚悟はしていたものの、ショックは隠しきれず、私は数秒間目を閉じた。めまいがした。奥歯を噛みしめ、涙をこらえた。
私は、妻の死後、大きなショックで食事が喉を通らない状態となり、激やせしました。
しかし、娘や母、姉が身近にいたので、いろいろと気を遣ってくれたおかげで、妻の後を追うことなく過ごすことができました。
心が落ち着くまで辛く長い日々でしたが・・・
🔶『大人の流儀3 別れる力』について『由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い』に言及しています。
伊集院静と城山三郎
『別れる力 大人の流儀3』
私が伊集院静さんに興味を持ったのは、彼の先妻が女優の夏目雅子さんであったこともありますが、『いねむり先生』という題名の小説を読み、不思議な感覚を味わい、また『大人の流儀』という辛口のエッセーを読んだからです。
夏目雅子さんのプロフィール
🔶 伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。
<著者略歴 『大人の流儀』から>
1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。
91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。
作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。
⭐ 原典のご紹介
⭐ 自費出版本
⭐ 私のマガジン (2022.11.16現在)
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