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【五木寛之 心に沁み入る不滅の言葉 第5回】
『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之講演集
五木寛之さんの『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』から心に沁み入る不滅の言葉をご紹介します。
五木さんは戦時中から特異な体験をしています。
「五木さんは生まれて間もなく家族と共に朝鮮半島に渡り、幼少時代を過ごしました。そこで迎えた終戦。五木さんたちは必死の思いで日本に引き揚げたそうです」(「捨てない生活も悪くない」 五木寛之さんインタビューから)
今年9月に90歳になるそうです。今日に至るまで数多の体験と多くの人々との関わりを掛け替えのない宝物のように感じている、と思っています。
五木さんは広く知られた超一流の作家ですが、随筆家としても、講演者としても超一流だと、私は思っています。
一般論ですが、もの書きは話すのがあまり得意ではないという傾向があります。しかし、五木さんは当てはまらないと思います。
「影の濃さに光を知る」から
五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 1 (13)
諦めるということは、覚悟を決めることです。自分が意気地なしだ、自分はこんなルーズな人間なんだということを、しっかり見定めることのできる人、自分は弱い人間なんだというふうに自覚できる人、それは必ずしも弱いだけの人間ではないはずです。
自分の弱点とか、欠点、弱さ、悪、そういうものをちゃんと直視し、それを認めることができ、我々が死ぬ存在であるという事実を覚悟できるということは、大変強い生命力を必要とすることなのです。
「こころの傷」から
五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 2 (14)
私はかねがね、「記録は消えても記憶は残る」ということを言い続けています。
物質的なものを復興するのは、それほど難しいことではないかもしれない。
予算と時間をかけさえすれば、元通り、あるいは元以上に立派に復興することも可能でしょう。
しかし、人間の心に刻まれた痛みの記憶というものは、どんなに予算をかけても、どんなに努力しても、簡単には消すことのできないような深いものがあるのではないかと思います。
「『慈』と『悲』」から
五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 3 (15)
「仏教というのは、たとえばどういう思想ですか?」
と、外国の人に聞かれたりすることがありますが、ひとことでうまく答えることができません。
でも、その時に、
「仏教の二本の柱はひとつは智恵、ひとつは慈悲の心です」
と言いますと、「なるほど」と、ちょっとわかったような頷き方をしてくれる時があります。
智恵と慈悲というのは、たしかに俗っぽい言い方ですが、仏教のなかの二本の柱だろうと思うのです。
そのなかでも、とくにボランティア、あるいは布施ということに関して大事なことは、慈悲という、このなんとも言えない不思議な感情だろうと思ったりします。
一般に慈悲と言われますが、これは「慈」&「悲」ではないかと思います。
出典元
『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編 五木寛之講演集』
2015年10月15日 初版第1刷発行
実業之日本社
✒ 編集後記
『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編 五木寛之講演集』は、講演集ということになっていますが、巻末を読むと、「2011年8月東京書籍刊『生かされる命をみつめて』『朝顔は闇の底に咲く』『歓ぶこと悲しむこと』に加筆の上、再構成、再編集したものです」と記載されています。
裏表紙を見ると、「50年近くかけて語った講演」と記されています。それだけの実績があります。
🔷 一部の人たちを除いて、私たちは仏教の知識が乏しいと考えています。
五木寛之さんは「仏教の二本の柱はひとつは智恵、ひとつは慈悲の心です」と述べています。
この言葉を知るだけでもこの本を読む価値があると思います。
実は、「慈悲」についてページを割いてもう少し詳しく説明しています。
その件は、次回以降にご紹介します。
「慈悲」に関して、興味深いことが書いてありますので、お伝えします。
元々インドの古いことばでは「慈」と「悲」は別々なのです。
この「慈」と「悲」というのは、同じ人間の愛という深い感情に根ざしたものでありますが、その色合いには、明暗はっきりとコントラストがあります。
🔶 五木寛之さんの言葉は、軽妙洒脱という言葉が相応しいかもしれません。軽々に断定することはできませんが。
五木さんの言葉を読むと、心に響くという言うよりも、心に沁み入る言葉の方が適切だと思いました。
しかも、不滅の言葉と言ってもよいでしょう。
著者略歴
『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編 五木寛之講演集』から
1932年福岡県出身。早稲田大学露文科中退。67年、直木賞受賞。
76年、吉川英治文学賞受賞。
主な小説作品に『戒厳令の夜』『風の王国』『晴れた日には鏡をわすれて』ほか。
エッセイ、批評書に『大河の一滴』『ゆるやかな生き方』『余命』など。
02年、菊池寛賞を受賞。
10年、『親鸞』で毎日出版文化賞特別賞受賞。
各文学賞選考委員も務める。
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