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盛田昭夫 『21世紀へ』(002)

盛田昭夫 『21世紀へ』(002)


20世紀中は、長らく、労働時間の世界比較で、日本人は働き過ぎる、
と言われてきました。

その批判を受け、労働時間を減らす動きが盛んになった時期がありました。

日本人は、その統計に載らないサービス残業に従事していた、という事実は公式なデータで明らかにされることはほとんどありませんでした。

生産性向上を図り、改善が行われたのは製造原価の直接労務費を占める、
工場労働者に対してでした。

間接労務費の主体である本社の事務職に従事する労働者(間接部門)に対しては、改善策が導入されることは少なく、生産性向上は遅々として進みませんでした。

時間の長短比較ではなく、仕事の中身の比較がなされなければ、意味がありません。

残念ながら日米欧で統一基準を決めることが難しかったためか、十分に議論が尽くされることはありませんでした。


『21世紀へ』 盛田昭夫
2000年11月21日 初版発行
ワック

目次
はじめに
第1章 経営の原則
第2章 人材の条件
第3章 マーケットの創造
第4章 国際化への試練
第5章 経済活性化の原理
第6章 日米関係への提言
第7章 変革への勇気
第8章 日本国家への期待
第9章 新世界経済秩序の構築
あとがき



第1章 経営の原則

「企業の本質は営利団体」(1964年)から


評価の必要性

自分の権利を主張するためにも、まず評価されることが必要である。

お互いに食うか食われるかで競争しているのだから、高給をとるアメリカの重役は同じ高給をとる日本の重役より、もっとひどいテンションがかかっているといえる。

時間も長く、密度のある仕事を要求されているのだ。それだけに、よりリラックスしたいという気持ちも強い。

21世紀へ 盛田昭夫 004 p.25



権利と義務

権利をはっきり押し出すには、まず義務の範囲を明確にしておかないと危険だ、という考えが骨の髄までしみこんでいる。

だから温情なんて期待できず、施そうともしない。非常に冷たい人間関係だといえる。

日本では近代的な大企業でも、よく「◯◯一家」などという呼び方がなされているが、こんな家族主義はアメリカでは味わえないものだ。

21世紀へ 盛田昭夫 005 p.27



日米の競争における能力開発の大きな差

アメリカ人は時間から時間まで働くと、さっさと帰ってしまうとか、バケーションが多いとか、なんとなく日本人ほど働かないように思われているけれども、一方で能力のある人間は日本以上に働いていることを忘れてはならない。

日本では能力のある人もない人も、だいたい平均レベルで仕事をしていこう、というのが一般的だが、このやり方ではアメリカの高い生産性にいつまでたっても追いつけないだろう。アメリカと日本では競争による能力開発の差はあまりにも大きい。

21世紀へ 盛田昭夫 006 p.28




盛田昭夫公式ウェブサイト



➳ 編集後記

『21世紀へ』を読み返して感じたこと

『21世紀へ』は、20世紀を全力で走り抜けてきた盛田氏が、このままでは日本がダメになるという危機感に、すべての日本人が気付いてほしいという気持ちがビンビンと伝わってくる本です。

盛田氏の「予言」はいみじくも当たってしまいました。
少なくとも現状においてですが。

この警世の書に書かれていることは多くが当たっています。
盛田氏の慧眼は本当に素晴らしいと思いました。

アマゾンや楽天でなくても、ブックオフ等で目にしましたら、ぜひ手に入れてください。なかなか見つからないかもしれませんが。

その内容の濃さと経験に裏打ちされた説得力のある文章に惹きつけられるでしょう。


🔴「アメリカと日本では競争による能力開発の差はあまりにも大きい」

日本人の労働生産性の低さが指摘されたことは、過去に幾度もありました。
工場労働者の労働生産性はかなり高かったのですが、間接部門(オフィス業務)の労働生産性の低さが世界との比較で劣っていたということでした。

現在ではどうでしょうか?

まず、労働生産性とは何かから考えるのが良いでしょう。
下記の定義は公益財団法人 日本生産性本部によるものです。

労働生産性とは→労働者一人当たりで生み出す成果、あるいは労働者が1時間で生み出す成果を指標化したもの

もう少しわかりやすく言えば、
時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)
となります。

この定義に基づき下記の資料(pdf)に詳細が掲載されています。

労働生産性の国際比較 2021 概 要 (記者発表資料)

この中から日本に関係するデータを拾い出してみます。

日本の時間当たり労働生産性は、49.5ドル。OECD加盟38カ国中23位。
日本の一人当たり労働生産性は、78,655ドル。OECD加盟38カ国中28位。
●日本の製造業の労働生産性
は、95,852ドル。OECD加盟主要31カ国中18位。

どれも見ても下位に沈んでいます。悲しいことですが、これが現実です。

盛田氏が
日本では能力のある人もない人も、だいたい平均レベルで仕事をしていこう、というのが一般的だが、このやり方ではアメリカの高い生産性にいつまでたっても追いつけないだろう
と述べたことが現在でも改善されていないことを示しています。

次に、就業者一人当たりでみた2020年の労働生産性の世界ランキングを見てみましょう(購買力平価換算)。
*購買力平価=物価水準などを考慮した各国通貨の 実質的な購買力を交換レ-トで表したもの。

2020年の労働生産性の世界ランキング

            米ドル
1 アイルランド    207,353 
2 ルクセンブルク   158,681
3 米国        141,370
4 スイス       131,979
5 ベルギー      126,641
6 ノルウェー     126,002
7 デンマーク     123,792
8 フランス      116,613
9 オーストリア    115,489
10 オランダ      115,228
28 日本         78,655
OECD平均        100,799

この表を見て特徴的なことは、欧州の小国の大半がランキング上位を占めていることです。欧州を除くと、米国が3位に入っているだけです。

日本はOECD平均より低いことがわかります。

「コロナ禍における労働生産性の動向」にも言及しています。

主要国の労働生産性(2021年4~6月期)を「コロナ前」と比較すると、OECD加 盟主要35カ国中19カ国でプラスとなった(実質ベース・2019年4~6月期対比)。 日本は-2.8%で、35カ国中32位。

労働生産性の国際比較 2021 概 要 (記者発表資料)


日本の労働生産性は、2020年後半をみると英仏より回復が先行していたが、 2021年に入ってから停滞基調に転じている。2021年7~9月期の労働生産性 は、前年同期を0.9%上回っている。

労働生産性の国際比較 2021 概 要 (記者発表資料)


盛田氏の危機意識が現実となっていることに、物事を見通す力が優れていたことが証明されています。日本、日本人にとっては有難くない現実です。



盛田氏は、一点の曇りもなく、自分に正直で、言行一致した行動派の経営者でした。また、今ではなかなか見つからないダンディなジェントルマンです。表現がダサい? 古い?



⭐ソニーの現状 (ソニーグループの子会社)


ソニーを日本企業とは知らない人たちがいることに驚きました。
さらに、ここ数十年で業態を変えてきましたね。

ソニーは「エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション分野」を扱う企業ということになりますが、半導体も生産していますし、得意な映像技術を深掘りしています。映画部門も持っていますね。

極論すれば、音と映像を2本柱にして、これらに関わる技術を開発し、横展開していると言えます。

ただし、ウォークマンが大ヒットしたあと、アップルの iPhone のようなスマートフォンがなぜ作れなかったのかと悔やまれます。技術力はあったはずです。目利きが及ばなかったのでしょう。

スマホがここまで世界中に受け入れられるとは想像していなかったのかもしれません。


⭐『21世紀へ』について

『21世紀へ』に関するブログを最初に投稿したのは、アメブロで8年前
2014-06-15 21:12:34のことでした。

note に再投稿するにあたって、大幅に加筆修正しました。

『21世紀へ』の「はじめに」の1行目から2行目にワック編集部による
この本の説明が書かれています。

本書は、井深大と並ぶソニー株式会社のファウンダー(創業者)盛田昭夫によって、1960年代から90年代にかけて執筆された論文の集大成である。

21世紀へ 盛田昭夫 p.1


今やソニーは日本を代表する世界的企業であることに異論はありません。



✑ 盛田昭夫氏の略歴

巻末の「著者紹介」から

盛田昭夫(もりた あきお)
ソニー創業者。1921年生まれ。大阪大学理学部卒業。
海軍技術中尉に任官し、井深大と出会う。
46年、井深とともにソニーの前身、東京通信工業を設立。
ソニー社長、会長を経て、ファウンダー・名誉会長。
この間、日米賢人会議メンバー、経団連副会長等を歴任。
海外の政財界にも幅広い人脈をもち、日本の顔として活躍した。
98年米タイム誌の「20世紀の20人」に日本人として唯一選ばれる。
99年死去、享年78。
著書に『学歴無用論』(朝日文庫)『新実力主義』(文藝春秋)
『MADE IN JAPAN』(共著、朝日文庫)『「NO」と言える日本』
(共著、光文社)等がある。


⭐出典元




⭐回想録


⭐プロフィール


⭐私のマガジン (2022.12.05現在)

























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藤巻 隆
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