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【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉】 第79回

大人の流儀

 伊集院 静氏の『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。

 時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院氏はこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。

 『大人の流儀3 別れる力』をご紹介します。

 ご存知のように、伊集院氏は小説家ですが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。


大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉 第79回

第2章 楽して得られるものなんてない


「忘れ去られるものたち」から

伊集院 静の言葉 1 (234)

 私と同じ考えの男たちもかなりいたが、一人、また一人と携帯を持つようになり、持たない私が変人扱いされていた。それでも電話を持ち歩くというのは私の考え方にはなかった。第一、遊びの場所に仕事の用件がかかってきては興冷めである。
 
 その主義を貫いていた或る日、東京駅の構内でどうしても連絡しなくてはならない用事ができた。その時、ここの電話を使っている人が結構多くて、私は電話機が空くのを待っていた。何となく公衆電話を使っている人たちを眺めた。すると大半の人が相手に謝っていたり、手にしていた手帳を落としたり、汗だくだったりした。
__もしかして携帯電話を持っていない人って大半が仕事ができなかったり、失敗ばかりをしてる人たちなのと違うか?
 と妙な疑問が湧いてきた。やがて確信した。
 その話をすでに携帯派の家人に言うと、
「そうかもしれませんね。時代遅れのね」
 取りあえず持つことにした。  

   大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静                               



「忘れ去られるものたち」から

伊集院 静の言葉 2 (235)

 それでも使うのはほとんどが海外出張の時で、日本にいれば使うことはなかった。
 それが、あの震災で、地震の直前で役立った。それに続いた大きな余震の震源地を確認できたことでも貢献してくれた。
 今は地震の予知と災害の際の家族の安否の確認で持っている。
 私はもう一度、公衆電話を見た。
__おまえたちが見直される時が必ず来るから。
 私はそう確信している。なぜなら皆が同じ機種のものを持ち、それが生活の大半に関わっているなら、何かの事故の時、機能を果たさなくなれば全員がパニックになるに決っている。
「携帯がないってのも楽でいいナ」
 今回、私は家人に言った。
「あら、もう携帯じゃなくてスマホの時代なんですよ。携帯の売り場なんてほんの少ししかありませんから」 

   大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静                               

                       


「時代遅れで何が悪い」から

伊集院 静の言葉 3 (236)

 私も新聞、テレビはほとんど見ないが、それで生きて行くのに困らないがナ。
 風情という言葉をご存知だろうか。
 あの人は風情がイイとか、悪いとかでも使う。
 情緒という表現をご存知か。
 あのたたずまいには情緒がある、とか情緒にあふれたシーンだ、とか使う。
 たたずまいも情緒もわからないって?
 君にはもうこれ以上話さない。
 いい大人が、あのスマートフォーンを操作しているのを初めて見た時、私何をしているのか、と思った。
__手相を見とるのか? アヤ取りしているのか? こんな昼間から。
 と見えたし、近づいて何をしているのかと問うと、ほらこうやってタップするんですよ、と言われ、おまえさん、真昼間からゲームしているのか、と言ったほどだ。
「遅れてますね、伊集院さん」
「何に対して俺が遅れているんだ?」
「時代ですよ」 

   大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静                               


⭐出典元

『大人の流儀 3 別れる力』
2012年12月10日第1刷発行
講談社

表紙カバーに書かれている言葉です。

人は別れる。
そして本物の大人になる。


✒ 編集後記

『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。

伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。

伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます


🔷「今は地震の予知と災害の際の家族の安否の確認で持っている」

伊集院さんは仙台に住み、東日本大震災の被災者で、家屋の一部損壊に見舞われましたが、「この程度では被災者ではない」と語っていました。

そのような伊集院さんですが、さすがに今では携帯(スマホ)を「地震の予知と家族の安否の確認で持っている」ということです。被災した際の困りごとを実体験したからです。

携帯(スマホ)のくだりに、伊集院さんの戸惑いが目に浮かび、思わずクスッと笑ってしまいました。

こんなところにも硬派な伊集院さんは憎めない人だなと感じました。


🔶『大人の流儀3 別れる力』について『由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い』の中で言及しています。

伊集院静と城山三郎
『別れる力 大人の流儀3』
私が伊集院静さんに興味を持ったのは、彼の先妻が女優の夏目雅子さんであったこともありますが、『いねむり先生』という題名の小説を読み、不思議な感覚を味わい、また『大人の流儀』という辛口のエッセーを読んだからです。 

由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い p.212


夏目雅子さんのプロフィール



🔶伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。


<著者略歴 『大人の流儀』から>

1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。

91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。

作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。


⭐ 原典のご紹介



⭐回想録



⭐マガジン (2023.05.04現在)


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藤巻 隆
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