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小よく大を制す「技あり」企業に4つの秘策 1/3 2014.12.08
小よく大を制す「技あり」企業に4つの秘策 1/3 2014.12.08
CONTENTS
PART 1 エステー鈴木喬会長が語る「200倍の巨漢に勝つ」
PART 2 “金星”を挙げる4つの方法
TYPE1 錦織圭(テニス) “俊敏性”で はねのける
TYPE2 リオネル・メッシ(サッカー)“一点突破”で抜き去る
TYPE3 川崎宗則(野球) “視点の転換”で価値を創造
TYPE 4 高梨沙羅(スキージャンプ)“柔軟性”で顧客最適に
思い切りバットを振り、「ドサクサ作戦」で強豪に勝利
PART 3 大よく小を取り込む
今週の特集記事のテーマは
ひらりと攻撃をかわす牛若丸に、大男の弁慶は目を回し、ついに降参した。
そんな痛快な伝説と同じように、大手を制する中小企業が実際に存在する。
素早い動きについていけない大企業は、弁慶と同じ運命をたどるほかない
(『日経ビジネス』 2014.12.08 号 p. 029)
です。
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(『日経ビジネス』 2014.12.08 号 表紙)
第1回は、「Part 1 エステー鈴木喬会長が語る『200倍』の巨漢に勝つ」と「Part 2 “金星”を挙げる4つの方法」の4つのうち、「TYPE 1 錦織圭(テニス) “俊敏性”ではねのける」を取り上げます。
第2回は、「Part 2 “金星”を挙げる4つの方法」のうち「TYPE 2 リオネル・メッシ(サッカー)“一点突破”で抜き去る」と「TYPE 3 川崎宗則(野球) “視点の転換”で価値を創造」の2つを取り上げます。
最終回は、「Part 2 “金星”を挙げる4つの方法」の最後の「TYPE 4 高梨沙羅(スキージャンプ)“柔軟性”で顧客最適に」と「思い切りバットを振り、「ドサクサ作戦」で強豪に勝利」、「Part 3 大よく小を取り込む」をご紹介します。
PART 1 エステー鈴木喬会長が語る「200倍の巨漢に勝つ」
柔道では、よく「柔よく剛を制す」とか「小よく大を制す」という言葉が用いられるようです。
東京オリンピックでは、柔道無差別級で、オランダのアントン・ヘーシンク選手に神永昭夫選手が敗れるという日本柔道の歴史があります。力で技をねじ伏せたのです。
「柔よく剛を制す」ではなく、「剛、柔を制す」という、日本柔道界の歴史的な敗北でした。
ビジネスの世界でも、資金力や規模で世界市場を制覇している大企業がありますが、その一方で、コアビジネス(中核となる事業)をニッチな分野に絞り込み、大企業に一矢報いている中小企業があります。
今特集は、「日経ビジネス」取材班が、そのような「山椒は小粒でもぴりりと辛い」中小企業を紹介しています。
中小企業でも、よく知られた企業も登場しますし、初見参の企業も登場します。探せば、日本には優れた中小企業はまだまだ多数存在することに、気づかされます。
では、エステー鈴木喬会長が何を語るか、期待しながら「日経ビジネス」を見てみましょう。
エステーの2014年3月期の連結売上高は470億円で、社員はグループ全体で約760人いる。生活雑貨業界では中堅で、ライバルの小林製薬やアース製薬などと比べれば、売り上げ規模は3分の1程度だ。
しかし規模が小さいことは、むしろ強みだと思っている。特に先行きの不透明な現代は、身軽で、小回りが利く会社こそ、強さを発揮できる。
2014.12.08 p. 030
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(写真=的野 弘路)
鈴木さんは、自分が小さいことで大きな相手に臆することはない、という確固たる自信を持っています。それが、決してやせ我慢でないことは、実績が
示しています。
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市場規模は2014年見込み。消臭芳香剤は衣類スプレー、
タンク洗浄剤、自動車用除く 出所:エステー
エステーの製品別シェアと市場規模
● 冷蔵庫用脱臭剤 75% 54億円
● 消臭芳香剤 30% 530億円
● 衣料用防虫剤 48% 256億円
● 米びつ用防虫剤 75% 19億円
(上の図表をもとに作成)
P&Gが「部屋の消臭剤」を発売するという噂を耳にして、先手を打って対抗商品をエアケア市場に投入した時の話が出てきます。
我々よりはるかに大きな企業が、我々の主戦場であるエアケア市場に参入するわけだ。敵に不足はなく、燃えたね。
私は、すぐに対抗商品を用意するよう指示した。そうして発売したのが、「置くタイプのエアウォッシュ」という製品だ。P&Gが「置型ファブリーズ」という商品名でエアケア市場に参入する2週間前に市場に投入し、機先を制することができた。
速攻が可能だった要因は2つある。
一つは、開発済みの技術をすぐに製品化せずに、温存していたこと。これが、短期間での市場投入を可能にした。
もう一つの要因は、意思決定の速さだろう。組織が大きいと、トップの指示はいくつもの階層を経て、ようやく現場に伝わる。その間に時間を空費しかねない。
一方、当社の規模だと、私の指示が会社の隅々まですぐに伝わり、一枚岩で動ける。
2014.12.08 p. 030
鈴木さんはもう一つの実例を披瀝しています。
当社の製品に、「脱臭炭」という冷蔵庫用の脱臭剤がある。2000年に発売した。
冷蔵庫用脱臭剤は当時、米アメリカン・ホーム・プロダクツ(AHP、現ファイザー)の「キムコ」、白元(現白元アース)の「ノンスメル」、積水化学工業の「ニオイみはり番」という3商品が市場を寡占していた。
その頃の冷蔵庫用脱臭剤と言えば、ヤシ殻活性炭を使ったものが主流だった。
しかし、冷蔵庫の中に置いても活性炭の量が減るわけではなく、見た目では使用期限が分からない。AHPや白元は活性炭を使い続けていた。
そこで私は、ゼリー状の製品の開発を指示した。日が経つにつれて徐々に容器の中のゼリーが縮んでいくので、使用期限が分かるという仕組みだ。消費者には大好評で、一気にトップシェアに躍り出た。
2014.12.08 p. 031
エステーのウェブサイト
「日経ビジネス」は鈴木さんの話から、4つのキーワードを見つけました。
1つ目は俊敏性
P&Gより早く製品を投入した
2つ目は一点突破
エステーが得意とするエアケア製品を中心に
経営資源を集中投下した
3つ目は視点の転換
冷蔵庫用脱臭剤をヤシ殻活性炭の代わりに
ゼリー状の製品を出した
最後は柔軟性
様々な技術のストックを持ち合わせていたこと
で市場環境の変化に対応できた
この4つのキーワードがPART 2のテーマになります。
PART 2 “金星”を挙げる4つの方法
TYPE 1 錦織圭(テニス) “俊敏性”で はねのける
錦織圭選手について「日経ビジネス」の解説を読んでみましょう。この後にご紹介する事例の意味が理解できるからです。
世界のテニス界は過去10年間、セルビアのノバク・ジョコビッチ選手を筆頭とする「ビッグ3」が支配してきた。
ここの風穴を開けつつあるのが日本の錦織圭選手だ。武器にするのは「俊敏性」。体格差をはねのけるには、敵より素早く動かねばならない。
2014.12.08 p. 032
上記の文脈に沿って、テラモーターズの事例が紹介されています。
テラモーターズについては、つい最近、代表者がラジオ番組に生出演し、ナビゲーターとの対談を聴きました。その件に関しては、後ほどお話します。
テラモーターズとは何を扱い、どのような目的を持った会社なのかから、見ていくことにしましょう。
電動バイク 国内1位 テラモーターズ
設立から2年で国内市場で首位に立ち、すぐさま世界市場へと打って出る――。
そんな異例のスピードで成長するベンチャーがある。電動バイクの製造・販売を手掛けるテラモーターズ(東京都渋谷区)だ。
2014年9月にはベトナムで高級電動バイクを投入するなど、ペースは一層速まっている。
2014.12.08 p. 032
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テラモーターズの徳重徹社長。
低燃費と静粛性を売り物に、
日本国内の宅配業者向けに売り込む
(写真=陶山 勉)
国内にはホンダやヤマハ発動機といった、世界で勝ち組のバイクメーカーがあります。
これらのメーカーに対抗できる「モノ」は、あるのでしょうか?
テラモーターズの徳重徹社長は、大手の数倍のスピードで動き回れば、その牙城を突き崩せると信じている。そう、錦織選手がやってのけたように。
戦略は2つある。バイクの世界で進展する「産業革命」を先取りすること。そして、最初から「世界市場」で勝負を挑む。
バイクの動力がガソリンエンジンからモーターとバッテリーに置き換われば、業界構造はがらりと変わる。部品点数が少ないため、安い投資で新規参入できる。
2014.12.08 p. 032
そこでポイントになるのはどこで製造するかです。
国内でトップシェアを獲得するや否や、徳重社長はベトナムへと飛んだ。
日本で年間に売れるバイクが40万台程度なのに対し、ベトナムのそれは約300万台。近隣諸国も加えると、市場規模はその数倍に達する。燃料代の高騰と環境汚染を考えれば、電動バイクの需要が劇的に増えるのは確実だ。
こうしたニーズを取り込むには、中国の提携工場への生産委託では不十分。
主戦場と位置付ける東南アジアで勝ち抜くため、現地生産に踏み切った。
2014.12.08 pp. 032-032
ニュース報道で見るように、北京や上海の空はどんより曇っています。車の数が急増し、大気汚染が凄まじい勢いで進行しているからです。
その意味で、電動バイクは資源と環境問題に対する一つの回答になります。
当然のことながら、中国国内でも電動バイクメーカーがあります。
ですが、中国のメーカーの電動バイクは、「『メンテナンス体制が不十分。“安かろう、悪かろう”という状態だ』と徳重社長は言う」(p. 033)というのが、実態です。
徳重さんは、中国メーカーとは差別化を図りました。
4500ドル(約52万円)する「A4000i」をベトナムで発売したのだ。特徴は、米アップルのiPhoneと連動する機能を搭載したこと。
2014.12.08 p. 033
この話を読んだ瞬間、なんでそんなに高価な電動バイクを発売したのだろう、と疑問が湧き上がりました。
ですが、すぐにその疑問は氷解しました。
「日本と違い、ベトナム人はバイクにお金をかける。高級ブランドとしてテラモーターズを認知させ、存在感を高めたい」と徳重社長は話す。
2014.12.08 p. 033
徳重さんは巧みな戦略をとっています。
国内市場では大手が手薄だった低価格品でシェアを獲得し、ベトナムでは反対に高級品のイメージを作る。市場の動向を敏感に察知し、規模で勝る競合の「逆」を突く俊敏性こそがテラモーターズの持ち味だ。
「米国のテスラ、日本のテラと並び称される存在になりたい」と、徳重社長は真剣な表情で語る。
2014.12.08 p. 033
頼もしいですね!
さて、お約束通り、テラモーターズの徳重さんが、12月6日(土)に、ショーンKさんが、ナビゲーターを務める、J-WAVEの「PRIME FACTOR」という番組に生出演した時に語った一部を、ご紹介しましょう(概要)。
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2014年12月6日(土)のJ-WAVEの番組に、テラモータースの徳重徹社長が出演しました。
徳重さんは、米サンダーバード大学大学院でMBA(経営学修士)を取得したそうです。
ショーンKさんがナビゲーターを務める、「PRIME FACTOR」という番組です。毎週土曜日の21:00~23:59に放送されています。
徳重さんは番組の中で、こう語っていました。
「日本市場よりも、世界的視野で見て、まずアジア市場に打って出ることにした」
電動バイクの需要が多い国、地域へ進出していこうとしています。
「いよいよヨーロッパ市場(イタリア)に進出する」
「海外の経営者と日本の経営者を比較すると、メンタリティに違いがある」
「入社した人には『理想から考えろ』と言っている」
「アジアには『オポチュニティ・ロス』という考え方が強い」
「ベンチャー国(開発途上国)と言っている。EVC(Emerging Venture Country)だ」
「中国の空が公害でひどい」
「環境問題とエネルギー問題で、電動バイクが解決できる」
「ブレークスルー(突破)してきた人は、いろいろなことが出来る」
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テラモーターズのウェブサイト
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そんな強い想いをもった集団が私達のチームです。
大企業を飛び出した中途、有名大学を卒業した新卒等、
ユニークで優秀なメンバーが揃っています。
次回は、
PART 2 “金星”を挙げる4つの方法
TYPE2 リオネル・メッシ(サッカー)“一点突破”で抜き去る
TYPE3 川崎宗則(野球) “視点の転換”で価値を創造
をご紹介します。
🔷編集後記
この特集記事(元記事)が公開されたのは、10年前のことで、アメブロでも10年前(2014-12-10 19:12:59)のことでした。
大幅に加筆修正しました。
これらの記事を通して感じることは、10年前には日本にもベンチャー企業があり、「熱気」があったということです。
今はない、ということではありませんよ。小でもニッチな分野でなら大と勝負ができるということを実践してきた企業があったということです。
最初から外部の力をあてにするのではなく、まず自分たちでチャレンジしたということです。試行錯誤した結果、期待したほどの成果が上がらなかったとしても、チャレンジを諦めず、チャレンジし続けたということです。
(6,042 文字)
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