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盛田昭夫 『21世紀へ』(028) 第4章 国際化への試練 「アメリカの資本市場から学ぶ」(1976年)から



盛田昭夫 『21世紀へ』(028) 第4章 国際化への試練 「アメリカの資本市場から学ぶ」(1976年)から


企業の社会的責任(CSR=Company's Social Responsibility)という言葉が、聞かれるようになったのは、比較的最近のことです。

盛田さんが本著を執筆されていた当時は、CSRという言葉は、まだ知られていませんでした。

ですが、「企業が真の姿を社会に示し、企業がいかに社会に対してまじめであるか、まじめに自前の看板で創造的努力をしているか」という個所を読みますと、CSRを念頭に置いていた、と推測できます。

企業によっては、あえてCSRという言葉を用いずに、企業目的と義務などをホームページで公開しているケースがあります。

決まった形式があるわけではないので、個々の企業ごとに行えばよいことです。

7月17日(木)午後10時にテレビ東京で放映された『カンブリア宮殿』で、
北海道の洋菓子店『きのとや』が特集されました。

「宅配ケーキ」を業界で先駆けとなって、始めた店だそうです。

北海道産の素材だけを使ったケーキを製造販売しています。

長沢昭夫社長は、「『素材』『作りたて』『手間をかける』の3つが当社のモットー」と語っていました。

宅配のケーキが順調に売れ、来店客も増え、1店舗当りのケーキ販売で日本一になったそうです。

そんな時、「好事魔多し」という出来事が起きます。

『きのとや』は過去に苦い経験をしています。ケーキの生地作りに使う卵が原因で、サルモネラ菌による食中毒事件を起こしてしまいます。1997年7月29日のことでした。

工場内には「97年7月29日を忘れるな」という手書きのポスターが目立つところに貼ってあります。

5日間の営業停止後、お客様は一人も来店してくれないかもしれないと悲観し、社長は「倒産も覚悟していた」と当時を振り返って、語っていました。

さらに、社員は将来性のない会社に見切りをつけ、退職者が出ると予想したそうですが、誰一人として辞める社員はいなかったそうです。

フタを開けると予想以上に来店客が多く、「頑張ってください」という言葉に、元気づけられたそうです。

社長は嬉しさのあまり、涙が流れそうになった、と語っていました。

この事件後、社員と経営者との絆が深まったそうです。

今、店頭の壁面には
1 安心・安全に最大限の注意を払う
2 美味しい
という掲示を掲げています。
この順序が大切ですね。

長沢社長は、最後に、「『社員が自社に誇りを持つ』会社にしたい」、
と語っていました。とても印象的でした。

立派な業績を収めた企業の株価は高くなり、その高い株価で資金が調達され、株価がより高くなれば、流通を助けるために株式を分割して株価を下げるという因果関係が自然に発生し、制度化されました

 アメリカ人がいうディスクロージャーとは、企業がいま、どういう状況にあって、これからどういう方向に向かおうとしているかをはっきり示すこと、それが経営者責任であるということです。

 そして、企業が真の姿を社会に示し、企業がいかに社会に対してまじめであるか、まじめに自前の看板で創造的努力をしているか、またその成果が上がっているか、がはっきり示された場合に、そこに初めて証券に対する信用が徐々についてくるのです。

 こうした信用が投資家社会に定着したとき、初めてそこで時価発行という形での新たな資本調達が可能となります。そして 立派な業績を収めた企業の株価は高くなり、その高い株価で資金が調達され、株価がより高くなれば、流通を助けるために株式を分割して株価を下げるという因果関係が自然に発生し、制度化されました。

21世紀へ 盛田昭夫 084 
p. 156 


米国企業では総資本に占める自己資本の額の高い会社では、ときには増資でなく、自社株減少による株式消却さえ行われるほどに、資本調達についての自由度が(もちろん責任を伴ってですが)認められています

 資本主義の世の中というものは、儲けようとしてまじめに努力したら、それだけのものはちゃんとあげるのが自由経済の原則であって、いくら経営者として努力しても、あまり努力しない人と違わないということでは、日本人はいつまでもサラリーマンの椅子にしがみつくことになります。国際化企業でも有能な外国人役員を雇うこともできなくなります。

 その他、米国企業では総資本に占める自己資本の額の高い会社では、ときには増資でなく、自社株減少による株式消却さえ行われるほどに、資本調達についての自由度が(もちろん責任を伴ってですが)認められています。

21世紀へ 盛田昭夫 085 
p. 161
 


商法とか証券取引制度の改善は、個々の企業の目先の利害によって動かされるべきものではなく、自由経済の基本原則、すなわち、それぞれの自己責任と自由と権利に忠実であるべきです

 繰り返し強調しますが、商法とか証券取引制度の改善は、個々の企業の目先の利害によって動かされるべきものではなく、自由経済の基本原則、すなわち、それぞれの自己責任と自由と権利に忠実であるべきです。

 慣れ合いに溺れず、国内的にも国際的にも、自由経済に対する信頼、すなわち創造的努力が正当に評価される社会ができるような、そうした方向で検討されるべきだと存じます。

21世紀へ 盛田昭夫 086 
pp. 161-162
 



盛田昭夫公式ウェブサイト



➳ 編集後記

『21世紀へ』を読み返して感じたこと

『21世紀へ』は、20世紀を全力で走り抜けてきた盛田さんが、このままでは日本がダメになるという危機感に、すべての日本人が気付いてほしいという悲痛な気持ちが伝わってくる本です。

盛田さんの「予言」はいみじくも当たってしまいました。
少なくとも現状においてですが。

この警世の書に書かれていることの多くが当たっています。

盛田さんの慧眼は本当に素晴らしいと思いました。

本書をアマゾンや楽天でなくても、ブックオフ等で目にしたら、ぜひ手に入れてください。なかなか見つからないかもしれませんが。

その内容の濃さと経験に裏打ちされた説得力のある文章に惹きつけられることでしょう。

盛田昭夫さんの言葉の数々は、時として大言壮語と感じることがあるかもしれません。しかし、盛田さんはそれだけ、ソニーの行方が気がかりだっただけでなく、21世紀において世界の中の日本がどのように変貌していくのか、気になって仕方がなかったのだろうと推測します。

21世紀のソニーと日本を自分の五感を通じて確かめたかったに違いありません。しかし、その願いは叶いませんでした。1999年に亡くなられました。


🔴「米国企業では総資本に占める自己資本の額の高い会社では、ときには増資でなく、自社株減少による株式消却さえ行われるほどに、資本調達についての自由度が(もちろん責任を伴ってですが)認められています」

現在の日本の株式市場でも「自社株買い」をした上で株式消却は認めれています。自社株買いをすることで、市場に出回っている自社株を減らし、1株あたりの利益を増加させることができます。しかし、日本では、これまであまり行われてきませんでした。

今年になり、自社株買いをする企業(主に東証プライム、以前の東証一部)が増えてきました。

自社株買いをする意味は、1株あたりの利益を増加させることです。
このことで株価を高めることが可能になります。さらに企業価値を高めることも可能になります。

EPSという指標があります。Earnings Per Shareの略語で1株あたりの利益です。

また、PERという指標もあります。株価収益率です。Price Earnings Ratioの略語です。

EPSとPERとの関係は下記の算式で表すことができます。

EPS ✕ PER=株価

つまり、1株あたりの利益を増加させることで、株主から注目され、株式を購入してもらうことが可能になります。一時的な増益ではなく、毎期増益ということになれば業績が良いわけですから、株主に長期的に保有してもらえますし、新たに株式を購入してもらうこともできます。

企業は株主に長期保有してもらいたいのです。

尚、ここで言う利益とは純利益のことです。

そしてもう1つ、株式分割があります。株式分割は、例えば1株を5株に分割する(1対5)ことがあります。

なぜ株式分割を実施するのかということについて簡単に説明します。
自社株買いは市場に出回っている自社株を買うことで株式を減数しますが、株式分割は逆に増数します。

株式分割するのは、分割することで株価を下げ、投資家に買いやすいようにするためです。自社株をより多くの投資家に保有してほしいから行なうのです。


直近のソニーグループ

ソニーグループ(6758) 株探 
ソニーグループ(6758) 株探


上記の通り、自社株買いと株式分割さらに増配を行なうことを公表しました。

果たして、ソニーの目論見通り、株主数が増え、株価がさらに上昇するでしょうか? そうなってほしいですね!

尚、株式分割後の株価を上場来高値や年初来高値と比較する際には、それらを分割数で割って考えます。

例えば、5分割した後の株価が1000円とします。
上場来高値が15000円だったとすると、3000円(15000円÷5)と考えて、1000円と比較します。すると、現時点では上場来高値を上回っていないということになります。



盛田さんは、一点の曇りもなく、自分に正直で、言行一致した行動派の経営者でした。また、今ではなかなか見つからないダンディなジェントルマンでもありました。表現がダサい? 古い?



⭐ソニーの現状 (ソニーグループの子会社)


ソニーを日本企業とは知らない人たちがいることに驚きました。

ここ数十年で業態を変えてきたことは、世の中の変化に素早く対応できることを示しています。

ソニーは「エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション分野」を扱う企業ということになりますが、半導体も生産していますし、得意な映像技術を深掘りしています。映画部門も持っていますね。

極論すれば、音と映像を2本柱にして、これらに関わる技術を開発し、横展開していると言えます。

ただし、ウォークマンが大ヒットしたあと、アップルの iPhone のようなスマートフォンがなぜ作れなかったのかと悔やまれます。技術力はあったはずです。目利きが及ばなかったのでしょう。

スマホがここまで世界中に受け入れられるとは想像していなかったのかもしれません。


⭐『21世紀へ』について

『21世紀へ』に関するこのブログを最初に投稿したのはアメブロで、10年前(2014-08-09 22:58:53)のことでした。

note に再投稿するにあたって、大幅に加筆修正しました。

『21世紀へ』の「はじめに」の1行目から2行目にワック編集部による
この本の説明が書かれています。

本書は、井深大と並ぶソニー株式会社のファウンダー(創業者)盛田昭夫によって、1960年代から90年代にかけて執筆された論文の集大成である。

21世紀へ 盛田昭夫 p. 1  


ソニーは日本を代表する世界的企業であることに異論はありません。



✑ 盛田昭夫氏の略歴

巻末の「著者紹介」から

盛田昭夫(もりた あきお)
ソニー創業者。1921年生まれ。大阪大学理学部卒業。
海軍技術中尉に任官し、井深大と出会う。
46年、井深とともにソニーの前身、東京通信工業を設立。
ソニー社長、会長を経て、ファウンダー・名誉会長。
この間、日米賢人会議メンバー、経団連副会長等を歴任。
海外の政財界にも幅広い人脈をもち、日本の顔として活躍した。
98年米タイム誌の「20世紀の20人」に日本人として唯一選ばれる。
99年死去、享年78。
著書に『学歴無用論』(朝日文庫)『新実力主義』(文藝春秋)
『MADE IN JAPAN』(共著、朝日文庫)『「NO」と言える日本』
(共著、光文社)等がある。


(4,918 文字)


⭐出典元



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