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盛田昭夫 『21世紀へ』(027) 第4章 国際化への試練 「アメリカの資本市場から学ぶ」(1976年)から



盛田昭夫 『21世紀へ』(027) 第4章 国際化への試練 「アメリカの資本市場から学ぶ」(1976年)から


盛田さんが指摘していることは、現在ではどれでも当たり前のことと捉えられていますが、当時の多くの企業経営者や従業員は盛田さんの意図を十分に理解していたとは言いがたかった、と考えています。

盛田さんのことを「アメリカかぶれした経営者」と揶揄する経営者もいたかもしれません。

しかし、現実を考えると、グローバル・スタンダードと云われていたことは、アメリカン・スタンダードであったことです。

ソニーは、自社製品を売る市場はアメリカと捉えていましたから、アメリカのやり方に沿った方法を考え、アメリカ市場で確実な地歩を築く必要がありました。



『21世紀へ』 盛田昭夫
2000年11月21日 初版発行
ワック


目次

はじめに

第1章 経営の原則

第2章 人材の条件

第3章 マーケットの創造

第4章 国際化への試練

第5章 経済活性化の原理

第6章 日米関係への提言

第7章 変革への勇気

第8章 日本国家への期待

第9章 新世界経済秩序の構築

あとがき




第4章 国際化への試練

「アメリカの資本市場から学ぶ」(1976年)から

日本においては、建前は米国と同じであっても、 その実体は、企業の自由意思とか経営者の創意工夫が封じこまれたり、歯止めをかけられることが多いように思えてなりません

 自由経済体制の下では、企業や経営者の自由意思が尊重され、経営者の創意工夫を支援する方向で物事が運営されるのが当然だと思います。たしかに米国でビジネスをした場合、私はそういう実感を得ることができました。

 ところが日本においては、建前は米国と同じであっても、 その実体は、企業の自由意思とか経営者の創意工夫が封じこまれたり、歯止めをかけられることが多いように思えてなりません。

 日米ともに、企業経営に対して法律規則等による制約が加えられていることについては相違がありませんし、法律規則等が与える一定の枠組みのなかで、経営者が会社のため、株主のため、社会のために最善をつくすという建前にも違いはありません。

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pp. 151-152 


私は、公開企業に求められる公正、かつ時宜を得た企業情報の公開(タイムリー・ディスクロージャー)が日本では不徹底なことに加えて、公開される企業情報を客観的に十分理解しうる情報の分析専門家の存在が欠けていることも、企業評価を曖昧にする原因の一つと考えています

 私は、公開企業に求められる公正、かつ時宜を得た企業情報の公開(タイムリー・ディスクロージャー)が日本では不徹底なことに加えて、公開される企業情報を客観的に十分理解しうる情報の分析専門家の存在が欠けていることも、企業評価を曖昧にする原因の一つと考えています。もちろん日本でも企業内容分析をなしうる人はいるのですが、制度として十分認めれていないようです。

 米国では、たとえば激烈な試験を突破して証券アナリストという資格をとった企業情報分析の専門職があって、この職に携わる人々は社会的にも高い評価を受け、投資家のために自分の職を賭けて、その分析・評価・判断にあたっています。

 企業活動が今日のように複雑多岐にわたってくれば、正確な連結決算方式による企業情報公開に加えて、それを理解しうる専門的な知識と時間を持つ情報分析専門家の役割が重要になってきます。

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p. 153
 


企業の経営者は株主からの負託に応え、十分な権利をもって企業を運営する。そして、その結果を正確に株主に伝えるために連結決算方式を導入し、さらに監査役の責任と権限を強めてごまかしを防ぐ。このようにして得られた企業情報を専門のアナリストが分析判断し、その意見をアナリストの責任において市場に流す。株主は、それによって株を売るか買うか、自らの責任で決定する

 企業の経営者は株主からの負託に応え、十分な権利をもって企業を運営する。そして、その結果を正確に株主に伝えるために連結決算方式を導入し、さらに監査役の責任と権限を強めてごまかしを防ぐ。このようにして得られた企業情報を専門のアナリストが分析判断し、その意見をアナリストの責任において市場に流す。株主は、それによって株を売るか買うか、自らの責任で決定する。

 こうした仕組みは「企業が社会に対してまじめであること」を基本哲学として、「まじめな企業が、たしかにまじめな企業であると認められること」を保証する仕組みといえます。

 こうしたまじめな努力から目をそむけて、企業は悪であるという世論におもねっていては、創造的な企業努力とそれに伴う責任という市場経済の基本原理も不明確となり、国際市場に高く評価される創造的企業経営の展開も困難になると思います。

 元来、善であるべき企業が性悪であると判断され、もともと一体であるべき経営と株主が敵対関係にあるような誤解を生んでいるのは、私にはどうしても理解できないのです。

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p. 154
 



盛田昭夫公式ウェブサイト



➳ 編集後記

『21世紀へ』を読み返して感じたこと

『21世紀へ』は、20世紀を全力で走り抜けてきた盛田さんが、このままでは日本がダメになるという危機感に、すべての日本人が気付いてほしいという悲痛な気持ちが伝わってくる本です。

盛田さんの「予言」はいみじくも当たってしまいました。
少なくとも現状においてですが。

この警世の書に書かれていることの多くが当たっています。

盛田さんの慧眼は本当に素晴らしいと思いました。

本書をアマゾンや楽天でなくても、ブックオフ等で目にしたら、ぜひ手に入れてください。なかなか見つからないかもしれませんが。

その内容の濃さと経験に裏打ちされた説得力のある文章に惹きつけられることでしょう。

盛田昭夫さんの言葉の数々は、時として大言壮語と感じることがあるかもしれません。しかし、盛田さんはそれだけ、ソニーの行方が気がかりだっただけでなく、21世紀において世界の中の日本がどのように変貌していくのか、気になって仕方がなかったのだろうと推測します。

21世紀のソニーと日本を自分の五感を通じて確かめたかったに違いありません。しかし、その願いは叶いませんでした。1999年に亡くなられました。


🔴「公開企業に求められる公正、かつ時宜を得た企業情報の公開(タイムリー・ディスクロージャー)が日本では不徹底なことに加えて、公開される企業情報を客観的に十分理解しうる情報の分析専門家の存在が欠けている」

こうした状況は、この本が上梓された2000年当時と24年経った今年2024年を比べてもあまり変わっていません。まして初出から数えると約半世紀経っても変わっていません。由々しきことです。証券業界の改革が遅々として進んでいなかったことになります。

東京証券取引所のウェブページに、下記のような記述があります。
ところが、現実には、「時宜を得た企業情報の公開」に二の足を踏む企業が少なくありません。

適時開示

適時開示はタイムリー・ディスクロージャーと呼ばれる証券取引所のルールです。上場企業には株価に影響を与えうる経営上の重要な情報を、正確性に配慮しつつも、速報性を重視して適時適切に公表する義務が課されており(これを「適時開示」と言います。)、こうした適時開示によって公正で透明な株価形成の確保が図られています。
適時開示は「決定情報」、「発生情報」、「決算情報」の3つからなり、「決定情報」とは、新株式の発行や他社との合併など企業自らが意思決定を行った情報、「発生情報」とは工場の火災や大株主の異動など企業の意思決定によらず、企業外で発生した情報となります。一方、「決算情報」では、売上高や利益の額などを集計した決算の内容を開示するもので、企業にとっての「成績表」ともいえます。

経済を学ぶ 3-2.上場会社とは②~上場会社の情報開示~ 


経済を学ぶ 3-2.上場会社とは②~上場会社の情報開示~


日本の証券アナリストについて言えば、彼らはサラリーマンです。つまり会社の方針に従わなくてはなりません。個人的には別の考えがあっても、それを公表することがはばかられることがあります。

つまり、日本では証券アナリストに限らず、エコノミストも同様です。まして、証券マンは勤務している会社が推奨する商品(株式や国債、投資信託、デリバティブ、FX、仮想通貨)を投資家に売り買いさせたり、情報料を請求することがあります。手数料稼ぎです。

本当に彼らが推奨する商品が優れているなら、彼らも運用しているはずですよね。ですが、していません。自分で運用するには旨味がないことを知っているからです。気をつけましょう。

数十年前に読んだ本の中で次のようなエピソードが書かれていました。
これは米国での話です。

著名な投資家である筆者のところに、ある日、証券マンから電話がかかってきました。その筆者は億万長者でした。証券マンは相手のことを知りませんでした。

「儲かる株式があるので、ぜひ購入することをおすすめします」

すると、筆者は営業マンにこう質問しました。

「そんなに儲かるなら君も買っていたんだよな。儲かった証拠として納税証明書を送ってくれ」

電話先の証券マンはすぐに電話を切ったそうです。

筆者はこのように書いていました。
自分で運用し、稼いでいるならともかく、自分では買っていない株式を売りつけようとするなどもっての外だ。

このエピソードは、ネット上でなくならない詐欺に通ずる話です。

ネット証券には一般的に証券マンはいませんので、このようなことは起こりづらいです。ただし、ウェブサイト上やメルマガで推奨商品を勧誘することはあります。

私たち個人投資家は彼らの言いなりになってはいけません。そのためには、多少手間と時間がかかっても、自分で調べる習慣を身につけましょう!

「うまい話には必ず裏がある」と考えるべきです。それが詐欺に引っかからないための対策です。

最近、Facebookに「こうすれば確実に◯◯万円すぐに稼げます」といったコピーで勧誘する虚偽広告が溢れかえっています。著名人の画像を貼り付け、信用させてLINEに誘導します。これらは100%詐欺と思ってください。

不自然な日本語のコピーが貼り付けてあるケースもあります。もしそうした広告を見かけたら詐欺広告と思って間違いありません。

⭐️補足資料

プライム企業の決算など日英同時開示、25年4月めど義務化-東証

東京証券取引所は26日、プライム市場上場会社の決算情報や適時開示情報について、日本語による開示と同時に、英語による開示を義務化すると発表した。2025年4月をめどに実施する。

プライム企業の決算など日英同時開示、25年4月めど義務化-東証 
Bloomberg 
2024年2月26日 15:41 JST 更新日時 2024年2月26日 16:54 JST
 


TCFD提言に関する開示状況の分析(2023年3月期有価証券報告書)


TCFD提言に関する開示状況の分析(2023年3月期有価証券報告書)




盛田さんは、一点の曇りもなく、自分に正直で、言行一致した行動派の経営者でした。また、今ではなかなか見つからないダンディなジェントルマンでもありました。表現がダサい? 古い?



⭐ソニーの現状 (ソニーグループの子会社)


ソニーを日本企業とは知らない人たちがいることに驚きました。

ここ数十年で業態を変えてきたことは、世の中の変化に素早く対応できることを示しています。

ソニーは「エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション分野」を扱う企業ということになりますが、半導体も生産していますし、得意な映像技術を深掘りしています。映画部門も持っていますね。

極論すれば、音と映像を2本柱にして、これらに関わる技術を開発し、横展開していると言えます。

ただし、ウォークマンが大ヒットしたあと、アップルの iPhone のようなスマートフォンがなぜ作れなかったのかと悔やまれます。技術力はあったはずです。目利きが及ばなかったのでしょう。

スマホがここまで世界中に受け入れられるとは想像していなかったのかもしれません。


⭐『21世紀へ』について

『21世紀へ』に関するこのブログを最初に投稿したのはアメブロで、10年前(2014-08-08 20:59:57)のことでした。

note に再投稿するにあたって、大幅に加筆修正しました。

『21世紀へ』の「はじめに」の1行目から2行目にワック編集部による
この本の説明が書かれています。

本書は、井深大と並ぶソニー株式会社のファウンダー(創業者)盛田昭夫によって、1960年代から90年代にかけて執筆された論文の集大成である。

21世紀へ 盛田昭夫 p. 1  


ソニーは日本を代表する世界的企業であることに異論はありません。



✑ 盛田昭夫氏の略歴

巻末の「著者紹介」から

盛田昭夫(もりた あきお)
ソニー創業者。1921年生まれ。大阪大学理学部卒業。
海軍技術中尉に任官し、井深大と出会う。
46年、井深とともにソニーの前身、東京通信工業を設立。
ソニー社長、会長を経て、ファウンダー・名誉会長。
この間、日米賢人会議メンバー、経団連副会長等を歴任。
海外の政財界にも幅広い人脈をもち、日本の顔として活躍した。
98年米タイム誌の「20世紀の20人」に日本人として唯一選ばれる。
99年死去、享年78。
著書に『学歴無用論』(朝日文庫)『新実力主義』(文藝春秋)
『MADE IN JAPAN』(共著、朝日文庫)『「NO」と言える日本』
(共著、光文社)等がある。


(5,619 文字)


⭐出典元



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