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【五木寛之 心に沁み入る不滅の言葉】 第8回

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之講演集


 五木寛之さんの『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』から心に沁み入る不滅の言葉をご紹介します。

 五木さんは戦時中から特異な体験をしています。
 「五木さんは生まれて間もなく家族と共に朝鮮半島に渡り、幼少時代を過ごしました。そこで迎えた終戦。五木さんたちは必死の思いで日本に引き揚げたそうです」(「捨てない生活も悪くない」 五木寛之さんインタビューから)


 今年9月に90歳になるそうです。今日に至るまで数多の体験と多くの人々との関わりを掛け替えのない宝物のように感じている、と思っています。

 五木さんは広く知られた超一流の作家ですが、随筆家としても、講演者としても超一流だと、私は思っています。

 一般論ですが、もの書きは話すのがあまり得意ではないという傾向があります。しかし、五木さんは当てはまらないと思います。 



「『慈』と『悲』」から

五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 1 (22)

 
 ドストエフスキーは、「これからの人間にとって大事なことは、共感共苦だ」と言いきっていました。
 共感共苦。ともに感じ、ともに苦しむ。
 この感情こそ大事なんだと、晩年のドストエフスキーは言ったのですが、この「共感共苦」ということばが、compassionということばの背景にあるもので、それはとりもなおさず「悲」という感情の原型なのではなかろうかと思います。
「悲」というのは、相手の閉ざされた痛みや苦しみ、なんとも言えない悩みというものが、まるで自分の痛みや苦しみのようにひしひしと体に迫ってくることです。そのためにことばも出ず、思わず深い溜め息をつくしかない。

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之         




「『慈』と『悲』」から

五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 2 (23)

 
 遠藤周作えんどうしゅうさくさんは、こんなことを言っておられました。
「自分の痛みや苦しみや悩みというものは誰にもわかってもらえない。これは自分ひとりで抱えていくしかないことなんだ。家族にも、肉親にも、看護婦さんにも、お医者さんにも、誰にもわかってもらえない。これは自分ひとりの痛みであり、苦しみであるんだと、そう感じて孤立したときに、その悩みや苦しみは二倍にも三倍にもなるんだ」
 これには、私も同感なのです。

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之         



「誰のために」から

五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 3 (24)

 
 布施というのは、ただお金を差し出すだけのことではありません。人びとは、これは「行」だと考えた。
 俗世間に生きている、私たち一般の市民にもできる修行の一種であり、頭を丸めて出家をして、家庭を捨て、妻を捨て、職業を捨て、世間を出なくても、日々の生活のなかでちょっとしたことを積み重ねていく、本当の修行の代わりになるようなこと。私たちにできるギリギリの小さな行い。それがじつは布施行というものなのです。

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之         


出典元

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編 五木寛之講演集』から
2015年10月15日 初版第1刷発行
実業之日本社




✒ 編集後記

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編 五木寛之講演集』は、講演集ということになっていますが、巻末を読むと、「2011年8月東京書籍刊『生かされる命をみつめて』『朝顔は闇の底に咲く』『歓ぶこと悲しむこと』に加筆の上、再構成、再編集したものです」と記載されています。

裏表紙を見ると、「50年近くかけて語った講演」と記されています。それだけの実績があります。

🔷 「共感共苦」ということばを初めて知りました。

文字通り「ともに感じ、ともに苦しむ」です。
声に出して言うことは簡単ですが、実際にはなかなかできないことです。

「ともに感じ、ともに苦しむ」ように行動しても、自分の気持ちを自分に問い、本当に正直な気持ちから行動しているのか確かめる必要があるでしょう。

時々立ち止まって、自分の気持ち(考え方)や行動を振り返ってみる機会を持つことは無駄ではない、と考えています。


🔶 五木寛之さんの言葉は、軽妙洒脱という言葉が相応しいかもしれません。軽々に断定することはできませんが。

五木さんの言葉を読むと、心に響くという言うよりも、心に沁み入る言葉の方が適切だと思いました。

しかも、不滅の言葉と言ってもよいでしょう。



著者略歴

五木寛之ひつき・ひろゆき

1932年福岡県出身。早稲田大学露文科中退。67年、直木賞受賞。

76年、吉川英治文学賞受賞。

主な小説作品に『戒厳令の夜』『風の王国』『晴れた日には鏡をわすれて』ほか。

エッセイ、批評書に『大河の一滴』『ゆるやかな生き方』『余命』など。

02年、菊池寛賞を受賞。

10年、『親鸞』で毎日出版文化賞特別賞受賞。

各文学賞選考委員も務める。






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