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稲盛和夫 「成功」と「失敗」の法則 第2章 思いの力 幸福は心のレベルで決まる 第7回
稲盛和夫 「成功」と「失敗」の法則 第2章 思いの力 幸福は心のレベルで決まる 第7回
はじめに
経営の神様といえば、パナソニック(旧松下電器産業)の創業者、松下幸之助氏ですが、もうひとりの経営の神様といえば稲盛和夫氏と私は考えています。
本著『「成功」と「失敗」の法則』が出版されたのは、今から15年前の2008年9月24日のことです。
平成20年9月24日第1刷発行
致知出版社
実を言いますと、この本をいつ購入したのか覚えていません。そればかりか、積読でつい最近まで読んでいませんでした。
たまたま、捜し物をしていた時、この本に気づき、手に取り読んでみることにしました。
読み出すと、腹落ちすることばかりが書かれていました。
今までにも、稲盛和夫氏の著作を何冊か読んだことがあります。
例えば、下記のような本です。
これらの著作物に共通することは、稲盛氏の一貫した考え方である、「人間を磨く」ことを絶え間なく続ける、ということです。
これは生涯を通じて行うことです。ですから一朝一夕で結果が出るものではありません。
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稲盛和夫 「成功」と「失敗」の法則
第1章 人生の目的
第2章 思いの力
第3章 自らを慎む
第4章 道をひらくもの
章立ての順序でエッセンスをお伝えしていきます。
特に印象に残った言葉を抜粋します。
稲盛氏の言葉の真意をじっくり考えてみましょう。
第2章 思いの力
幸福は心のレベルで決まる
勤勉、感謝、反省の大切さ
私は十三歳で終戦を迎えた世代ですので、生きる上で最初に意識したことは、「勤勉」ということでした。廃墟と化した国土に立ち、真面目に一所懸命働くことしか、生きる術はなかったのです。
私の一家も当時、経済的にたいへん困窮しましたが、不思議と不幸だという感覚はなかったように思います。誰もが誠実に、日々懸命に生きることで精一杯だったのです。
その後、二十七歳のときに京セラをつくっていただいてからは、「感謝」という思いを強く抱きました。経営の経験も何もない私のために、自宅を抵当に入れてまで、会社設立に尽力いただいた方々の期待に応えなくてはならないとの一心から、必死になって働いているうちに、心の底から「感謝」する思いが湧き起ってきたのです。
その後、日本の社会が豊かになっていくにつれ、京セラも成長発展を重ね、また思わぬことに、私も経営者として世間から高い評価をいただくようになってまいりました。
そのころから私は、「反省」ということを強く意識するようになりました。毎日、起床時と就寝前に洗面所の鏡に向かい、昨日あったこと、今日自分がやったことを思い返し、人間として恥ずべき点があれば、自分自身を強く叱り、再び過ちを繰り返さないよう戒めるようになりました。
美しい心を持って生きる
どのような環境にあろうと、自分なりの幸せを感じつつ、現在に至っていることを思い返すとき、私は幸せとはまさに主観的なものであると強く思います。幸せと感じられるのか感じられないのか、その成否はあくまでも、当人の心の状態にあるのであって、普遍的な基準など一切ないと思うのです。
仏の教えに、「足るを知る」ということがあるように、膨れ上がる欲望を満たそうとしている限り、幸福感は得られません。反省ある日々を送ることで、際限のない欲望を抑制し、いまあることに「感謝」し、「誠実」に努力を重ねていく__そのような生き方の中でこそ、幸せを感じられるのだと思います。
人間には、百八つの煩悩があるといいます。この煩悩が、人間を苦しめる元凶だと、お釈迦様は説いておられます。また、その煩悩の中でも最も強い煩悩が、「貪欲」、「怒り」、そして「愚痴」の「三毒」だといいます。
人間ですから、生きていくために煩悩も必要です。しかし、過剰であってはなりません。煩悩を募らせていったのでは、幸せを永遠に感じることはできないでしょう。
人間にはもともと、煩悩の対極に位置する、素晴らしい心根があります。人を助けてあげるとか、他の人のために尽くすことに喜びを覚えるといった美しい心を、誰もが心の中に持っています。
しかし、煩悩があまりに強すぎると、なかなか表に出てこないのです。
だからこそ、努力して、煩悩を抑えることが必要です。そうすれば、人間の心の奥底にある、美しく優しい心が必ず出てくるはずです。
✒ 編集後記
『「成功」と「失敗」の法則』は、稲盛和夫氏から私たちへの熱いメッセージです。稲盛氏自身が、人間として、経営者として、数多の成功体験、失敗体験を通じて身につけた不変の法則のエッセンスを述べた書籍です。
頭で考えただけでなく、実践を通じて身につけたものです。
稲盛氏の他の書籍には「利他」「敬天愛人」などの言葉が頻繁に出てきます。どれでも良いので、一度手にとってページをめくってみてください。
何かヒントが得られるかもしれません。
🔷「煩悩の中でも最も強い煩悩が、『貪欲』、『怒り』、そして『愚痴』の『三毒』だといいます」
稲盛氏が著したこの本の中には、私に猛省を促す言葉が溢れています。
私に反論する余地はありません。
私は聖人君子ではありませんので、他人を知らず知らずのうちに傷つけたり、他人から恨みを買ったこともあったかもしれません。
親友(真友ではない)と長い間信じていた人物に社会人になった後で、裏切られたのも、私に原因があったのかもしれない、と反省することがあります。
その人物からしたら私を最初から親友とは思っていなかったかもしれません。そのように考えた方が辻褄が合います。その考えが正しいのであれば、その人物がしたことは裏切りではなかったことになります。自分の気持ちに素直に従っただけなのです。私が誤解していたということになります。
私には「三毒」の中で「貪欲」は乏しいかもしれませんが、70年近い半生を振り返ってみると「怒り」と「愚痴」はその時々でかなり強烈にあったと思っています。
「そんなことをして何になるんだ」と思う自分がいる一方で、「あいつが裏切ったから怒っているんだ」と相手を一方的に責める自分が共存していました。実際には裏切りではなかったのに……。
私はまだまだ稲盛氏のような高みに到達していませんし、残りの人生を精一杯生きても届かないかもしれません。それでも、自分なりの人生を振り返って「まあ可もなく不可もなかったな」と言えたら良いのですが……。
唯一、悔いが残っているのは、病魔に侵されていた妻を私の力不足で、助けることができなかったことです。
日経ビジネス(2022.09.12号)で稲盛和夫氏を特集していました。
この記事の内容を3回にわたってnoteに投稿しましたので、お時間がありましたら、ご覧ください。
✅稲盛経営の真髄
日経ビジネスは2022年9月26日号から2022年12月12日号まで、12回にわたって「稲盛和夫の経営12ヵ条」を集中連載しました。
前回に引き続き「稲盛和夫の経営12ヵ条」の概要を2条ずつご紹介していきます。
尚、「本連載は『経営12ヵ条 経営者として貫くべきこと』(稲盛和夫 著、日経BP 日本経済新聞出版)の内容を抜粋したものです。『稲盛和夫の実学』『アメーバ経営』に続く「稲盛経営3部作」、ここに完結」と書かれています。
第11回
経営12ヵ条 第11条
自己犠牲を払ってでも相手に尽くす
思いやりの心で誠実に
商いには相手がある。相手を含めて、ハッピーであること。皆が喜ぶこと
「人間は二面性を持っています。『利己的な自分』と『利他的な自分』です。『利己』とは、生きている人間が自分の身を守るため、よりよくするために神様が与えてくれたものです。本能と言ってもよいでしょう」
「闘争心も、自分の身を守るために欠かせない本能です。文明的な生活をする前は、野生動物などの襲撃にも耐えてそれらに立ち向かい、自分の一族を守ってきたわけです。この他、ジェラシーや憎しみも自分を利するためにあります」
「一方、『利他』とは、愛です。自ら犠牲を払ってでも相手を愛すること、他を利することです。利他とは思いやりの心であり、思いやりとは他人の喜びが自分の喜びに感じられることです。そして、この利他の心も人間が本性として持っているものです。どれほど利己主義で極悪非道な人間でも、もう一面には、相手を思いやる利他的な心が隠されています」
「その人のなかにある利己と利他の比重の大きさによって人間性が決まるのです。利他のほうが大きければ『あの人は人格者だ』となり、利己のほうが勝っていれば『あいつはえげつないな』となるのです」
「経営の原型とは、『何が何でもこうありたい』『どんなことがあろうと俺は絶対に負けんぞ』という強烈な願望、すなわち利己から発するものです」
「利己心だけが強くなってしまうと、一時的には成功しても、いずれ破綻します。だからこそ『利他』も大事で、『利己』だけを肥大化させてはいけないのです。利己を肥大化させると同時に、利他も肥大化させていかなければならないのです」
「利他を目覚めさせるためには学ぶしかありません。利己は本能ですから、学ばなくてもしょっちゅう出てきますが、心の奥底に沈んでいる利他の心は意識してそれを伸ばそうとしなければ出てきません。そのために学ぶことが重要で、それが『人間性を高める』ということなのです。私はそれを『心を高める』と言っています。
利他の心は意識して伸ばしていかなければなりません。常に耕し、肥やしをやらなければ成長していかないのです」
要点
「弱肉強食のビジネス社会では、利他の心など不要だ」と考えていないか
利得損失だけを考えず、「相手を思いやる」ことができているか
相手を思いやる行為が素晴らしい成果をもたらしてくれることを理解しているか
(日経ビジネス 2022.12.05『稲盛和夫の経営12ヵ条』pp.070-072)
第12回 リーダーが心すべき「6つの精進」
経営12ヵ条 第12条
常に明るく前向きに、
夢と希望を抱いて素直な心で
「常に明るく前向きな心、つまり、夢と希望を抱いている心には、必ずその心に合う未来が現れてきます。常に明るく振る舞っている人には、明るい未来が、また常に夢と希望を抱いている人には、それを満たしてくれる未来がが必ず現れてきます。それが自然の摂理です。くよくよしたり、思い悩んだりするようなことがあってはなりません」
「『自分の人生には必ず、夢と希望を満たしてくれる輝かしい未来があるのだ』ということを自分自身に言い聞かせ、明るい心を持つようにしなければならないと思います」
「リーダーは明るく振る舞い、周囲を明るくする雰囲気を持っていなければなりません。リーダーの日常の表情や言動が明るく前向きであることは、集団にとってたいへん大事なことなのです」
「私は日ごろから、リーダーが心すべきことを『6つの精進』として掲げています。
6つの精進
1 誰にも負けない努力をする
2 謙虚にして驕らず
3 反省ある毎日を送る
4 生きていることに感謝する
5 善行、利他行を積む
6 感性的な悩みをしない
このなかには『感性的な悩みをしない』というものがあります。これは、悩んでも仕方がないことでくよくよと心を煩わせたり、心を痛めたりするような悩み方をしてはならないということです」
「心配事は誰にでもあります。仕事だけでなく家庭でも人間関係でも問題は起こり、私たちは常に悩みを抱えています。しかし、起こったことはいくら悩んでも仕方がないことであり、『覆水盆に返らず』です。悩むことはマイナスの努力ですから、くよくよと心を痛めるような悩み方をしてはいけません。起こったことは仕方がないとあきらめることです」
「このようなことを言うと無責任に思われるかもしれませんが、起きてしまったことは反省すればよいのであって、その後は気持ちを切り替えて、明るく前向きに新しいことを考えていくべきです」
「素直でなければ人間は向上しません。素直だからこそ人の教えを理解して前へ進んでいけるのです。素直な心というのは、ただ従順であるという意味ではありません。海綿のように柔軟で、いろいろなものを吸収していけるのが素直な心です」
「人間が向上していくためには素直な心が欠かせません。『経営12ヵ条』の最後にこのような項目を掲げたのも、そうした心のあり方が人生や経営を左右するからです。常に明るく前向きにポジティブな思いを描けば、人生も経営もそのとおりになっていきます。これは、『経営12ヵ条』の全般を貫く思想であり、会社経営を成功へと導くカギでもあります」
要点
どんな逆境にあろうと、リーダーとして明るく前向きに振る舞えているか
「必ず、素晴らしい未来が開ける」という確信を持てているか
感謝を忘れず、謙虚に、素直な心を持って努力を重ねているか
自力を発揮すること(「経営12ヵ条」の実践)に努めているか
2つの他力(従業員の協力と偉大な天の力)を自分のものにできているか
(日経ビジネス 2022.12.12『稲盛和夫の経営12ヵ条』pp.068-070)
<著者略歴 『「成功」と「失敗」の法則』から>
昭和7年、鹿児島県生まれ。
鹿児島大学工学部卒業。
34年、京都セラミック株式会社(現京セラ)を設立。
社長、会長を経て、平成9年より名誉会長を務める。
昭和59年には第二電電(現KDDI)を設立、会長に就任。
平成13年より最高顧問。
このほか、昭和59年に稲盛財団設立、「京都賞」を創設。
毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった方々を顕彰している。
また、若手経営者のために経営塾「盛和塾」の塾長として、後進の育成に心血を注ぐ。
主な著書に『人生と経営』『何のために生きるのか』(ともに致知出版社)、『実学・経営問答 人を生かす』(日本経済新聞出版社)、『人生の王道』(日経BP社)、『生き方』(サンマーク出版)、『成功への情熱』(PHP研究所)などがある。
著者略歴補足 (日経ビジネス 2022年9月26日号)
2022年8月、90歳で逝去。
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