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【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉】 第97回 『大人の流儀3 別れる力』から


訃報

2023年11月24日夜に伊集院静氏が亡くなりました。73歳でした。
ご冥福をお祈りいたします。

非常に残念です。「大人の流儀」をもっと長い間拝読したかった……。





大人の流儀

 伊集院 静氏の『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。

 時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院氏はこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。

『大人の流儀3 別れる力』をご紹介します。

 ご存知のように、伊集院氏は小説家(直木賞作家)で、さらに作詞家でもありますが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。


大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉 第97回 『大人の流儀3 別れる力』から


第4章 本物の大人はこう考える

「親は子の言うことを聞かなくていい」から

伊集院 静の言葉 1 (288)

 子供が家の事情を知らぬことは、社会に出てからどこの家も同じようだったに違いないと誤解し、大恥をかくことになる。ともかく子供の言うことは、いっさい聞かない方がいい。いちいち聞いてたら碌なことはない。
 ”親子でじっくり話し合って下さい”
 バカを言ってるんじゃない。
 子供が父親と話をするのは、生涯で数度でイイと私は考えている。
 第一、脈絡を持たない子供が、忙しい父親と何の話ができるのだ。
 子供は父親をただ観察して、大人の男というものがどんなものかを理解して行くものである。それで充分である。
 一家団欒だんらんと言うが、そんな時間が一年の内に初中後しょっちゅうあったら、その家はおかしい。
 子供は土、日曜日も学校に行って遊んでりゃいいのと違うのか。  

大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静 


「素晴らしき哉、人生」から

伊集院 静の言葉 2 (289)

 二十年近く前、家人と暮らすはめになり、綺麗好きというか、ゴミひとつ落ちていない家に慣れるまで時間がかかった。
 同居した当初、私は毎日のごとく酒を飲んでいた。浴びるほど飲むという表現があるが、そんなもんじゃなかった。酒の中にひたって、普段でも身体がウィスキーと日本酒の煮凝にこごり状態であった。
 だから毎日が二日酔いで、目覚めた時は、私は誰? ここはどこ? こんな綺麗な部屋はあきらかに自分の住む場所と違うと、毎日、あせったりした。
 私の二日酔いの解消法は、ともかく水を飲む。そして朝から麺類を胃に流し込む。ひどい症状の時は肉も喰う。と言うのは、胃も胃壁もダウンしているので、すぐに彼等を働かせればいいという考えである。胃というものは胃自体に思考力がないはずだから、どんなにグロッキー状態でも、上から食物が入って来ると、連中は、さあ仕事だ、仕事だと動き出す。それが正常な胃に戻る近道なのだ。  

大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静


「素晴らしき哉、人生」から

伊集院 静の言葉 3 (290)

 同居当初、家人がよく寝るので、仙台から彼女の母親が上京した時、なんとなしに言ってみた。
「お嬢さん、よく睡眠られますね」
「そうよ、あの子は十時間寝ないと頭がすっきりしない子なの。ご協力よろしく」
「義母さん、毎日、十時間寝ていたら、二十四年間が過ぎたらお嬢さんは十年間寝っぱなしの人生になりますぜ」
「そんなには寝ないでしょう」
 義母は笑って言った。
 彼女とエジプトに行き、ギザのピラミッドの中にカメラマンと入り、石棺を見た。
 私が壁の象形文字を見ていると、背後でカシャとシャッター音がした。振りむくと家人はその石棺の中に横たわっていた。
 私は驚いた。手を触れるのも禁じられている石棺である。私が目を剝いて怒ろうとすると、
「へッへへ、見つかっちゃった」と彼女は舌を出し石棺から出てきた。
 人というものは何をしでかすかわからない生きものである。   

大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静


⭐出典元

『大人の流儀 3 別れる力』

2012年12月10日第1刷発行
講談社


表紙カバーに書かれている言葉です。

人は別れる。
そして本物の大人になる。


✒ 編集後記

『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。

伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。

伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます


🔷「同居した当初、私は毎日のごとく酒を飲んでいた。浴びるほど飲むという表現があるが、そんなもんじゃなかった。酒の中にひたって、普段でも身体がウィスキーと日本酒の煮凝にこごり状態であった」

伊集院静氏は本当に酒が好きな人だったというエピソードを披露しています。「浴びる」どころではなかったのですから。

言葉は悪いですが、完全にアル中でした。これが直接の原因とは断定できませんが、肝内胆管がんで亡くなられたことと無関係ではないでしょう。

「酒は百薬の長」といわれますが、度を過ぎると毒にもなるということです。

散々厳しいことを指摘してきた伊集院氏でしたが、自分の弱さを披露したり、家人(奥様のこと)のエピソードを記したことは、今から振り返ってみると、意味のあることだったのかもしれない、と考えさせられました。

今回で、『大人の流儀3 別れる力』は最後の投稿になります。

次回からは、『大人の流儀4 許す力』(2014年3月10日第1刷発行)から「心に響く言葉」をご紹介していきます。


(2,907文字)


🔶『大人の流儀3 別れる力』について『由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い』の中で言及しています。

伊集院静と城山三郎
『別れる力 大人の流儀3』
私が伊集院静さんに興味を持ったのは、彼の先妻が女優の夏目雅子さんであったこともありますが、『いねむり先生』という題名の小説を読み、不思議な感覚を味わい、また『大人の流儀』という辛口のエッセーを読んだからです。 

由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い p. 212 


夏目雅子さんのプロフィール



🔶伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。



<著者略歴 『大人の流儀』から>

1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。
91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。
作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。




⭐ 原典のご紹介



クリエイターのページ


大人の流儀 伊集院 静


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藤巻 隆
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