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ものづくりの未来を変える GEの破壊力 2/3 2014.12.22



ものづくりの未来を変える GEの破壊力 2/3 2014.12.22



CONTENTS

序章 共闘する2人の巨人 全産業を変革する 

 GE会長CEO ジェフ・イメルト/ソフトバンク社長 孫 正義

PART 1 製造業を激変させる 3つの切り札

PART 2 人こそ変革の原動力 企業哲学まで刷新 

PART 3 日本企業にも好機 GEを使い倒せ

ジェフ・イメルト会長兼CEOインタビュー
パンチを繰り出し続ける



今週の特集記事のテーマは

絶え間ない自己改革で世界の産業界に君臨してきた米ゼネラル・エレクトリック(GE)。
そのGEにして、今彼らが挑んでいる変化こそ、過去最大と言っても過言ではないだろう。
インターネットとソフトウェアによる、抜本的なものづくりの刷新。
30万人の社員にスタートアップ精神を植え付けるため、企業哲学さえも変えた。
座して製造業の覇権を奪われるくらいなら、自ら破壊者になる
(『日経ビジネス』 2014.12.22 号 p.028)


です。



(『日経ビジネス』 2014.12.22 号 表紙)


今特集記事のスタートページ
(『日経ビジネス』 2014.12.22 号 pp.028-029)


凄いことです。
現在、世界の産業界をリードするGEでも、将来までも今の地位が安泰なわけではない、という強烈な危機感を抱いていることが、記事を通じて、ひしひしと伝わってきます。

第1回は、
「序章 共闘する2人の巨人 全産業を変革する」
を取り上げました。

第2回は、
「PART 1 製造業を激変させる3つの切り札」
を取り上げます。

最終回は、
「PART 2 人こそ変革の原動力企業哲学まで刷新」
「PART 3 日本企業にも好機 GEを使い倒せ」
「ジェフ・イメルト会長兼CEOインタビュー」

をご紹介します。

今特集記事のキーワードは、
インダストリアル・インターネット
です。

IoT(モノのインターネット)という言葉が、最近の流行語かと思っていましたが、イメルト氏はその先を構想していたのです。

間違いです。構想ではなく、すでに着手していました。


PART 1 製造業を激変させる 3つの切り札

「日経ビジネス」は
● ソフトを活用した機器の価値向上
● 生産技術の革新
● 開発の迅速化

を3本柱と捉えました。

インダストリアル・インターネット
ソフトで引き出すハードの潜在力

インダストリアル・インターネットについては、具体例を見たほうが理解しやすいと思います。

今、世界の航空会社がGEの顧客になり始めたそうです。その理由は、今まで捨てていた膨大なビッグデータをGEのソフトで解析することで、巨額なコスト削減に役立つことが明らかになったからです。

 グローバルな民間航空機エンジン市場で6割超のシェアを握るGEが、世界中の航空機の運航データを収集し、様々なノウハウを蓄積しているからだ。

 今までこうした膨大なデータは、航空機の異状を検知するのに使う以外は、事実上捨てられていた。「そこに “宝の山” がある」とGEは考えたのだ。世界中の航空機のデータをソフトで分析することで得られる知見を生かし、航空会社の効率改善に役立てれば、巨大なビジネスチャンスが生まれる。

ものづくりの未来を変える GEの破壊力 pp. 032-033 


(写真=左上:林 幸一郎)

さらに、ハードを改善し性能を高めなくても、データとソフトを活用することで、ハードのポテンシャル(潜在能力)を引き出すことが可能になったのです。

 データとソフトを駆使すれば、ハードは同じままでも飛躍的に効率を高められる。かつては考えられなかったこの新たなモデルを、GEは急拡大している。

 ソフトの力でハードの眠れる力を引き出し、顧客にとっての価値を最大化する――。

 それこそが、GEのジェフ・イメルトCEO (最高経営責任者) が情熱を傾けるインダストリアル・インターネットの本質だ。

 「インダストリアル・インターネットは産業機器の世界に革命的なインパクトを与える」。

 イメルトCEOはこう強調する。

ものづくりの未来を変える GEの破壊力 p. 033 


GEのソフトは燃費向上だけに資するのではない、と「日経ビジネス」は指摘しています。

 GEのソフトが活躍するのは燃費向上だけではない。航空会社の課題解決に役立つ様々なソフトを次々に製品化して、顧客を獲得している。

ものづくりの未来を変える GEの破壊力 p. 033 


アドバンスト・マニュファクチャリング
「極小工場」へ3Dプリンター活用

「アドバンスト・マニュファクチャリング」とはどのような概念なのでしょうか?

 GEが打ち出したのが「アドバンスト・マニュファクチャリング(進化したものづくり)」という概念だ。

 3Dプリンターや材料技術、新たな生産システムを活用し、ものづくりを進化させようとしている。

 その象徴が、生産における3Dプリンターの大規模活用だ。「積層造形」と呼ばれる技術で、ソフトで作製した3次元データを基に、樹脂や金属粉を薄い層として積み重ねて、立体物を作り出す。

 日本の大企業の多くはまだ3Dプリンターを試作に利用する程度だが、GEは量産部品の生産に踏み込む。

ものづくりの未来を変える GEの破壊力 pp. 034-035 


下図をご覧ください。
GEが3Dプリンターで作った、航空機エンジンの主力部品に採用した燃料ノズルです。

すでに、3Dプリンターを「生産」に活用しているのです。

GEの航空機エンジン部門のCEO、
デイビッド・ジョイス氏は
主力製品に3Dプリンターで作った
燃料ノズル(写真左)を採用


3Dプリンターに関連したことで、思い出したことがあります。

日本の技術は、原材料を切削、研磨して加工することが多いようです。あるいは金型を製作し、プレスして大量生産しますね。

いわば、大→小と言ったらよいでしょうか。

一方、米国は3Dプリンターで積層造形するように、元は小さなものに、いろいろなものを「取り付け」て大きな部品に仕上げるという生産方法を取る
ようなってきています。

いわば、小→大という、日本のやり方の真逆の方法です。

この方法の利点は、熟練職人でも外側からは作りにくい内部構造まで、3次元データと3Dプリンターを用いれば、いとも簡単に短時間で仕上げてしまうことです。

セットしておけば、自動生産することができます。

3Dプリンターの概念は、リバースエンジニアリングの概念と結びついている、と私は考えています。

リバースエンジニアリング」をWikipediaで検索すると、下記の解説が掲載されています。

 ものづくりにおけるリバースエンジニアリングとは、製品の先行イメージとして作られたクレイモデルや、既に現物がある製品などの形状データを測定し、それをもとにCADデータを作成する (“起こす” )ことである。

 3D CAD、および接触式、非接触式の3次元形状データ測定器が発達するにつれ、こういった方法が急速に普及している。3D CADを活用した製品の事前検討を行う際、CADでは作成しにくいデザインの微妙な変化が織り込まれた製品データや、2D図面しかない製品データを3D化したりする際に活用されている。

リバースエンジニアリング Wikipedia 


上の図は、自動車の開発における、
リバースエンジニアリングの一例である。
右上の絵から順に、クレイモデル、
非接触カメラ撮影式の3次元計測器での
形状データ測定、
測定結果である点群データの張り合わせ、
断面線の作成、3D CAD化、
そして実車になる(CADと実車の間は、
大きく段階が跳んでいる)。


リバースエンジニアリングを介して得た3Dデータを活用するのが、3Dプリンターということになります。

さらに検索してみたところ、3Dプリンターとリバースエンジニアリングの組み合わせによる試みが紹介されていました。

フェラーリのエンジンを改良するというものです。

3Dプリンターとリバースエンジニアリング

 フェラーリが今回行ったのは、フェラーリが過去1960年代に製造していたプロトタイプレーシングカーのエンジンを改良するという試みだ。

 この改良に協力したのがドイツの有名な3DプリンターメーカーVoxeljet社で、エンジンを構成する全てのパーツを3DCADデータ化し、高性能3Dプリンターでプリントして製造している。

 通常、従来の製法で改良した場合、製造にかかる期間は1年ほどで、コストも膨大な費用が掛かる。

 しかし、今回フェラーリとVoxeljetが用いた方法では改修期間はわずか数週間程度だったとのことだ。 基本的に作られたのは砂型と砂パーツで、実際の製造は特殊アルミで鋳造され作られる。

 3Dプリンターの性能向上がもたらすものは、今回のフェラーリのように過去の眠ったものを蘇らせてくれることにも利用することができる。

 過去のものを、過去の製法でしか再現するのではなく、より効率的で、コストをかけることなく更なる改良品として再生することができるのだ。

 今回のフェラーリの3Dプリンターの活用方法は、製造現場に一つのヒントを与えてくれる取組と言える。

3Dプリンターとリバースエンジニアリング 
公開日:2014年5月21日 
更新日:2022年9月27日 
更新以前の記事を掲載 
(更新されたため引用した記事内容が異なります)


3Dプリンターでつくられた砂型とパーツ

3Dプリンターとリバースエンジニアリング


特殊アルミで鋳造された最終パーツ

3Dプリンターとリバースエンジニアリング


日本は小さなものを作る技術に、目を見張るものがありますね。例えば、岡野工業の岡野雅行さんが発明し、テルモで販売している「痛くない注射針」
がそうです。

「痛くない注射針」については、下記のサイトをご覧ください。岡野さんが自ら発明への経緯を語っています(残念ながらウェブサイトは削除されています。 2024/05/19)。

現代の発明家から次世代へのリレーメッセージ 第3回 岡野工業株式会社 岡野 雅行さん「痛くない注射針」から


昔のウォークマンや、外部からは見えないスマホの主要部品などは、日本の独壇場です。

東京や大阪の下町には、高度な技術力を持った職人さんが働いている中小企業が、数多くあります。この人たちの「域」に到達することは容易なことではありません。

しかし、3Dプリンターを活用すれば、可能になるかもしれません。3Dプリンターの出現で、中小企業はさらに危機感を強めることになりそうです。

日本と比較すると、米国は大きなものを作ることを誇りにしています。ロケットや航空機、原子力発電所などがありますね。民族の気質の違いでしょうか。

3Dプリンターを利用するメリットはどこにあるのでしょうか?

 3Dプリンターを量産に使う利点は耐久性の向上や軽量化だけではない。コスト面のメリットも大きい。熟練した技術者が溶接する手間が省けるうえ、部品を鋳造する際に欠かせない金型も要らなくなる。金属を切削加工する場合に出る削りかすなども減り、材料も節約できる。

ものづくりの未来を変える GEの破壊力 p. 035 


3Dプリンターを活用することで、GEはさらに先を見据えて新たな構想を生み出しました。「マイクロファクトリー(極小工場)」という構想です。

 ネットワーク化された小規模な工場を世界に分散させ、3Dプリンターやロボットなどの先端技術を活用して、顧客が求める製品を顧客のそばで迅速に開発、生産するというものだ。

ものづくりの未来を変える GEの破壊力 p. 035 


コンピュータの歴史を辿ると、単体→集中(データ)→分散(コンピュータやデータ)→統合(データやシステム)という流れがありました。

その後、インターネットが普及し、ネットワークという概念が生まれました。

そして、現在、インターネットと、クラウド・コンピューティング(ビッグデータや情報の保管と活用)、3Dプリンター(生産技術)、AI(人工知能)を搭載したロボット(人の代用)を、複合的に組み合わせて活用することで、世の中が急激に変化しています。

顧客に近い場所で、顧客が要望する製品を、迅速に、生産することができるようになってきています。少なくとも海外においては、という条件付きですが。

単純労働はロボットに取って代わり、工場全体が自動化されているケースもあります。

「未来は明るい」とは言い難い状況に、確実に進んでいる、と感じるのは私だけでしょうか?

次のような記事がネット上で見つかりました。スティーブ・ホーキング博士の警告です。

「われわれがすでに手にしている原始的な人工知能は、極めて有用であることが明らかになっている。だが、完全な人工知能の開発は人類の終わりをもたらす可能性がある」と、ホーキング博士は先日、英国放送協会(BBC)に語った。

「ひとたび人類が人工知能を開発してしまえば、それは自立し、加速度的に自らを再設計していくだろう」

人工知能で人類は滅亡する? ホーキング博士の警告で議論再燃 

同じメージに英オックスフォード大学のニック・ボストロム教授の見解も掲載されています。

 人工知能が人間を超えるという脅威は切迫していないと語る。同氏は軍用無人機や自動運転者、工場で働くロボットなどを挙げ、現在使用されている応用法や、近い未来で使用される見込みの応用法では、人工知能はまだ人間の手中にあると指摘する。

 とはいえ、同氏は「機械の知能は最終的には生物の知能を超えるだろう。そしてその過程で人間の存在が大きく脅かされる危険性もある」とも語っている。

人工知能で人類は滅亡する? ホーキング博士の警告で議論再燃 


ホーキング博士の意見には賛否両論があります。記事を読んだ範囲では、現時点で、どちらが正しい、とは何とも言えません。

ファストワークス
スタートアップ流で開発を迅速化

まず、「ファストワークス」とは何か、から見ていくことにしましょう。

 今、GEでは様々な事業部門で「ファストワークス」と呼ばれる経営手法の導入が進んでいる。

 ファストワークスとは文字通り、商品開発などの仕事のスピードを加速することを意味する。お手本はシリコンバレーのスタートアップ企業だ。

ものづくりの未来を変える GEの破壊力 p. 036 


これだけでは、今ひとつ分かりにくいので、もう少し読んでみましょう。

 新しい製品・サービスを開発する際には、作り手の思い込みにより、顧客にとって価値のないものを開発してしまうことがある。

 そのために生じる時間、労力、資源、情熱などのムダをなくして、顧客が求める製品を迅速に生み出そうという考え方だ。

ものづくりの未来を変える GEの破壊力 p. 036 


つまり、カスタマイズした製品を作り出そうとしているのです。

下図をご覧ください。
ファストワークスの概念図です。
番号順に見ていくと、流れがつかめると思います。
顧客との「コラボレーション(協働)」と言っても過言ではないでしょう。

●ファストワークスの概念図

ファストワークスのという概念が生み出された背景には、IT企業や新興国企業との競争が激化してきたことが挙げられます。

 ソフト分野ではIT企業と競争するケースが増え、産業機器でも新興国企業との競争も激化している、これまでの常識にとらわれて開発に長い時間をかけていると、環境や顧客のニーズが変化して、製品が時代遅れになってしまうリスクは高まっている。

 そこでGEは、顧客が求める最小限の機能を実現した試作品(MVP=ミニマム・バイアブル・プロダクツ)を短期間でまず開発。

 それを顧客に見せて、意見を聞きながら、機能やデザインを付加して改良することで、製品の開発期間を短縮するような手法にシフトしようとしている。

ものづくりの未来を変える GEの破壊力 p. 036 


GE内部でも、悪しき官僚主義がはびこってきていることに危機感を抱き、改革したいと考えているのです。

そこが、ファストワークスの概念が生まれた出発点だったのかもしれません。

 ファストワークスには組織が複雑化しやすく、スピードも遅くなりがちな大企業病を克服するという狙いもある。「どんな大企業も悪しき官僚主義と戦っており、GEも例外ではない。ファストワークスでそれを変えたい」(イメルトCEO)。

ものづくりの未来を変える GEの破壊力 p. 037 


問題は、ファストワークスで迅速に製品化するのは良いことですが、品質の低下につながらないのか、という点にあります。

この点について、日本GEのグローバル・イノベーションセンター長である大塚孝之氏は、次のように語っています。

 「ファストワークスだからと言って、GEが販売する製品が、品質で妥協していいわけではない。最小限の機能を実現した試作品を見せて、『こういう商品なら買ってもらえますか』とお客様に聞いて検証してから製品に仕上げていく」と大塚氏は説明する。

ものづくりの未来を変える GEの破壊力 p. 037 


大塚氏の言葉の端々には、GEの「誇りと使命感」が漲っている、と強く感じました。


最終回は、

「PART 2 人こそ変革の原動力企業哲学まで刷新」
「PART 3 日本企業にも好機 GEを使い倒せ」
「ジェフ・イメルト会長兼CEOインタビュー」の模様

をお伝えします。


🔷編集後記

この特集記事(元記事)が公開されたのは、10年前のことで、アメブロでも10年前(2014-12-25 20:35:55)のことでした。

大幅に加筆修正しました。

当時のGEにはまだ勢いがありました。しかし、栄枯盛衰は世の常で、経営トップの経営戦略と現場の実践、社会の変化等によって良くも悪くもなります。

昔のGEは、原発の製造において大きな地位を築いていて、日立製作所に勤務していた大前研一さんは「日本企業は原発の設計は、GEの仕様に従わざるを得なかった」と回顧していました。

大前さんは、早稲田大学理工学部、東京工業大学大学院(修士)、MIT(=米マサチューセッツ工科大学大学院、博士)へと進学し、MITでは原子力工学で博士号を授与されました。原発の専門家で、高速増殖炉もんじゅの設計に携わっていたそうです。

日本の匠、岡野雅行さんのお話をしました。「痛くない注射針」を手作業で完成させました。その製造工程を知ると、私には画期的な技術と言うよりも、「驚異的な技術力」と表現したほうが相応しいと思いました。

残念なことに、岡野さんは高齢になられ、後継者問題がネックになり、廃業という結果となりました。

岡野さんにとっての後継者問題は2つありました。
1つは技術者としての側面です。岡野さんの類まれな技術力はそう簡単に身につくものではありません。
もう1つは経営者としての側面です。岡野さんは技術者であり経営トップでもありましたから、岡野さんに代わって技術と経営という両輪を任せられる人がいなかったことはとても残念なことでした。

これは、単に一企業の問題ではなく、日本の匠の技術を承継することができなかったということを意味しています。

現在の日本の中小企業が抱えている深刻な問題です。

考え方を引き継ぐことは可能かもしれませんが、技術力を磨き後世に伝えていくことは並大抵なことではありません。

岡野さんの技術力を3Dプリンターあるいは他の製造装置に置き換えていくことは可能だったのかどうかは、私には判断できません。
「痛くない注射針」のことだけを言っているのではありません。

岡野工業 「痛くない注射針」で一世風靡するも後継者難には勝てず

 穴の直径が90ミクロン、外径が200ミクロン-蚊の針と同サイズの驚異的な細さを実現した「痛くない注射針」を開発し、一躍「中小企業の星」となった岡野工業(東京都墨田区)。中小企業庁の「元気なモノ作り中小企業300社」にも選ばれた。岡野工業の強みは「発想の転換」と「抜群の加工精度」。世界を驚かせた痛くない注射針は、岡野雅行社長が従来のように注射針となる金属管を細くするのではなく、ステンレスの板金を巻いて加工するという発想の転換で実現した。

 さらに1枚のアルミニウム板を限界までプレスし、徐々に薄く深いケースに仕上げていく「精密深絞り技術」を駆使し、厚さ0.8ミリメートル以下、加工精度10マイクロメートル(100分の1ミリメートル)という抜群の加工精度で電池ケースを作ることにも成功。その結果、リチウムイオン電池とアルミニウムを一体成形した電池ケースが生産できるようになり、ハイブリッド車(HV)用電池の小型・軽量化に貢献した。

 その岡野工業も、岡野社長が85歳になる2018年に廃業する。理由は後継者の不在だ。岡野社長には娘さんが2人いるが、どちらも家業を引き継ぐ意思はなかった。岡野社長は「跡取りがいないのは悔しい」と本音を漏らす。かつては赤字続きの中小企業が「倒産して取引先や従業員に迷惑をかけるぐらいなら…」と、廃業を選択するケースが多かった。しかし、最近は経営が順調にもかかわらず、後継者がいないために廃業する事業承継問題での廃業が増えている。中小企業庁の調査によると、2016年度に黒字状態で廃業した中小企業の割合は50.5%と過半数を占めた。

「さようなら!私たちは御社を忘れない」惜しい廃業3選
M&A Online


岡野さんのような属人の技術は、宝飾品のような高品質、少量生産、高価という3つの条件が揃ってこそ成立することではないか、と考えています。

技術力と経営の2つの側面から捉えると、そのように考えられるという意味です。

設計に限定するのであれば、CAD (Computer Aided Design、コンピュータ支援設計) で対応することは可能であったかもしれません。

さらに CAD と3Dプリンターを組み合わせれば大量生産は可能になったかもしれません。

しかし、属人の技術を人から人へ伝えていくことは特殊な才能が不可欠です。とりわけ中小企業においては。

痛くない注射針の製造は、テルモが引き受けました。

日本で生まれた「痛くない注射針」~メーカーと町工場の真心こめた開発秘話

 製造方法を検討した結果、採用したのはプレス加工だった。1枚の金属の板を、金型を使いながら立体的に形にしていく方法である。しかし、注射針のような精密なものを作るには、極めて高度な技術が必要だった。メーカーや工場など100社以上に相談した結果、東京都墨田区の「岡野工業」が引き受けてくれた。従業員6人の小さな町工場だったが、糖尿病の治療に向き合う子どもたちの話を聞き、テルモと共に、痛みの小さい注射針作りに取り組むことになった。

日本で生まれた「痛くない注射針」~
メーカーと町工場の真心こめた開発秘話
CBC MAGAZINE


「ナノパスの針先」提供:テルモ株式会社


(9,364 文字)


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藤巻 隆
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