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【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉 Vol.9】
大人の流儀
伊集院 静さんの『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。
時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院さんはこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。
帯に自筆で「ちゃんとした大人になりたければこの本を読みなさい」と記しています。
ご存知のように、伊集院さんは小説家ですが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。
出典元
『大人の流儀 1』
2011年3月18日第1刷発行
2011年7月14日第11刷発行
講談社
「無所属の時間を大切に」から
伊集院 静の言葉 1 (25)
作家の城山三郎氏は、それを”無所属の時間”と呼んで、大切にした。”無所属の時間”とは書いて字のごとく、その時間がどこにも所属しないことだ。例えば自動車のセールスマンが旅に出て、時間が空いたのでライバル社のセールス振りをのぞいてみる、という行動は、すでにその時間が仕事に所属してしまっている。妻がガーデニングが好きなので花の種でも買いに行くか。これもすでに家庭、夫というものに所属している。一度、どこにも所属しない時間を過ごしてみたまえ。これが案外と難しいことがわかる。初手でやるならホテルの一室でじっと過ごすか、街を理由もなく歩いてみることだ。何かがあるものだ。
「『流れ』を読んで生きる」から
伊集院 静の言葉 2 (26)
世の中で何か騒ぎが起こったり、大きな流れがかわる時は、その報せはむこうからやってくると書いたが、これは別に大きな出来事でなくとも、そうである。
『流れを読む』
という言葉がある。
ギャンブルなどで使うことが多いが、この頃は、若者が”KY”とか言って、”空気を読めない人”なんて使い方もする。まあそれは若者の狭量な範囲の中で、自分勝手に空気を作って、そこにそぎわない者を言ってるだけである。
ギャンブルでは、この、流れ、風、気配を読むことは大切だ。それをできない者が大負けをしても、なお打ち続けたりして、身を滅ぼす。大局の流れに自分一人が逆らっても、どうしようもない。
伊集院 静の言葉 3 (27)
天運、地運、人運と言って、風が吹きはじめると、天、地、人の力でも止めようがない。瞬時に呑み込まれる。
それを知るにはどうするか。まず静かにする。そして気配をうかがう。どうも危ない? と感じたら、その場を離れることだ。
山津波(山が崩れること)の前の獣の静寂がこれだ。あとは大逃げである。こちらは命がかかっているから当り前だ。
獣は本能が鋭敏だから? 違う。人間も獣でしょう(よく自分のことを考えて)。
静かに神経を尖らせることだ。そうすれば、今、自分は違った方向に歩こうとしている、くらいのことはわかるものだ。
✒ 編集後記
『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。
伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。
伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます。
🔷 今回の内容はやや神秘的な雰囲気が漂っていました。
しかし、「流れを読む」は理解できます。野球やサッカーなどのスポーツで、相手チームに流れがある場合、その流れをこちらに持ってくることは容易ではありません。
その場合、流れがこちらに来るのを待つしかない場合があります。無理矢理流れをこちらに持ってこようとしても、上手くいかないことが多いと思います。
ただ、「ピンチの後にチャンスあり」という格言があるように、ピンチをしのぐとチャンスが巡ってくることがあります。
その逆に、チャンスをものにできないと、今度はピンチに陥ることはよくあります。
伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。
<著者略歴 『大人の流儀』から>
1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。
91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。
作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。
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