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【エール第10号】フェアスタート代表・永岡鉄平さんインタビュー[第3回]

児童養護施設等の入所者・退所者を専門に就労支援を行うフェアスタートは今年で設立10周年を迎えました。代表の永岡鉄平さんにこれまでの道のりと次の10年の展望を聞きました。

【プロフィール】
ながおか・てっぺい
1981年、横浜市生まれ。大学卒業後、リクルート、大学院生向けの就職支援会社を経て2011年8月、児童養護施設等の入所者・退所者を専門に就労支援を行う株式会社フェアスタートを、2013年1月NPO法人フェアスタートを設立。以来、児童養護施設等の入所者・退所者の就職斡旋、キャリア教育、アフターフォローに取り組んでいる。

第2回からの続きです)

支援した若者、100人に

──この10年間の実績は?

 これまで我々の何らかのサービスを利用したことのある子どもは累計は600人超くらいで、施設は約150くらい。現在、日本全国に600施設くらいあるので、4分の1くらいですね。我々を通して就職した若者の数は、昨年(2020年)の年末にちょうど100人目を達成したんですよ。9年でようやく3桁の大台に乗ったというのは非常に感慨深かったですね。

──この10年の間で転機となるような出来事があれば教えてください。

 大きく2つあります。まず1つ目はマッチングの技術をより高めることの重要性に改めて気づいたこと。そのきっかけとなったのが、去年と一昨年、岡山県の西粟倉という小さいな村の復興に関わっているエーゼロの牧さんとの出会いです。村おこしのために、木材加工関係の仕事などの働き口はある程度創出できたのですが、高齢化がすごく進んでいるので、担い手が不足している。村に若い人材をもっと呼びたいんだけど、その仕事の担い手として児童養護施設の出身者に興味があるから僕にそのコーディネーター役をお願いしたい、という話で交流が始まりました。

木工のあれ?

 それで2年前に近隣県の児童養護施設に声をかけて、複数の施設の職員を連れて木材加工の仕事場の視察ツアーを実施したんです。仕事場は大自然に囲まれた環境で、木材加工の仕事も単純で同じ作業の繰り返しだから刺激が少ないんですよね。だからそれらが苦にならない子の方がこの村で木工の仕事に就いても長続きするだろうという話でした。そしたら「こういう作業場に送り出したい子どもが何人かいます」という職員さんもいたんです。そういう仕事に向いていると言われてるのって、いわゆる知的ボーダーやある種の発達障害の傾向をもつ子どもで、そういう子たちを就職させるのは職員さんも非常に苦労するんです。やはり一般企業はなかなか採用してくれないし、仮に就職できたとしてもすごく苦労して、本来のパフォーマンスを発揮できずに早々に辞めちゃう可能性が高い。

 だからそういう子たちが西粟倉のような村でそういう仕事に就けたらすごくハッピーになれるかもしれないと思った時、やっぱりマッチングの問題って非常に重要だと思いました。同時にマッチングがもってる可能性もまだまだあると感じて、それをもっと開拓していくことで救われる若者は増えるだろうと感じたんです。

──なるほど。すごくいいお話ですね。

 困難を抱えている子の方が無理して一般企業に合わせる必要はないと思うんですよね。ありのままの本人でそれなりにパフォーマンスを発揮できる場があるはずなので、そこを見つけて繋げてあげたい。だからもっと様々な日本の企業の情報を顕在化させて伝えていくことが大事で、それがこれから先10年の我々のチャレンジだと思っています。

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就労支援業務チェックシートを作成

──2つ目の転機は?

 団体として我々がこれまで積み重ねてきたノウハウを、もっと世の中に広く普及しなければならないと気付かされたことですね。具体的には、18年に全国社会福祉協議会からフェアスタートが実践している就労支援の型、例えば、施設の子たちにどんなサポートを提供すれば良い就職ができたり、就職後の定着に繋がるかというノウハウを言語化してほしいというオーダーがあったんです。その目的は、我々のノウハウを全国の児童養護施設と共有して、施設の職員が子どもに効果的な就労支援ができるようにするためです。

 それで最終的に、施設職員向けにやるべき業務を十数個の項目にまとめた就労支援業務チェックシートを作ったんですよ。ポイントとしては、施設職員としてちゃんと子どもの長所、短所をはじめ、そもそも働くことについての意識や職業適性を職員が把握した上で、本人に対して様々な機会を提供しようというのが大前提としてあります。そのための連携先の機関や本人の通っている学校の就労支援の実態などを把握しようとか、本人が仕事場見学したり仕事体験したりしたらちゃんと中身を振り返って、本人と対話して、頭の中を整理させようという、やるべきことに気付き、どの程度できているかを確認するためのチェックシートです。

 去年はコロナで中止になりましたが、18年と19年の2回、東京でチェックシートのお披露目会を開催したんです。全国から200~300人ほどの施設職員が集まったんですが、皆さんすごく関心をもってくれました。

 こういう経験があったので、これまでは神奈川県という足元の施設の子どものフォローをやってたんですが、就労支援の課題はどの県も共通してもっているので、我々のノウハウを全国的に広めていかなければならないと改めて決意したんです。

──使命感がより高まったと?

 施設の若者たち向けの就労支援事業を始めて10年経ちましたが、我々のようなキャリア教育にフォーカスを当てて活動してる団体ってひとつも出てないんですよ。と考えると、やっぱり我々がこれまでの10年で蓄積した「もっとこうすれば就労支援のクオリティが高まる」というノウハウを全国に広めていく必要がある。その役割を期待されているとひしひしと感じるわけです。当団体に求められてることを教えてもらったので、全社協の一件は非常に大きかったですね。

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記念すべき100人目の子の話

──これまでですごく印象に残っている就労支援ケースは?

 斡旋がうまくいったケースは全部印象深いんですが、強いて言えば記念すべき100人目の子ですかね。やっぱりジーンとくるものがあって。

 その子は二十歳の女の子で、精神的な障害をもっていて元々児童心理治療施設で暮らしていたんですよ。18歳以降はファミリーホームで生活をしつつ、ファミレスでアルバイトをしていました。昨年、その元いた施設の施設長から就職をサポートしてあげてほしいという依頼を受けました。その施設長いわく、「この子は精神障害手帳を持っているんだけど、頑張りすぎるところを配慮さえしてあげれば多分普通に働けると思う」と。で、彼女と面談することになったんですが、話した時素直でいい子だなと感じました。「どんな仕事がしたい?」と聞いたら「本当は福祉系の仕事に興味があるんです。でも、その気持ちはこれまで封印してました」と。その理由は寂しい話なんですけど、過去に学校の先生から「あなたは福祉の仕事なんて絶対無理」と言われ続けてきたからあきらめていたらしいんですよ。でも僕はやりたかったらやってみたらいいと彼女に伝えました。

 もちろん施設長にも「障害福祉系の施設職員仕事ってどう思いますか?」と聞いたら「やれると思いますよ」と答えました。それで、横浜の社会福祉法人を紹介して、試験を受けたら即内定が出たんです。彼女に「合格したよ」と伝えたら、「まさか自分が福祉施設の正社員になれると思ってなかった」って喜んでくれて。こういうことがこの仕事をしてて一番うれしい瞬間だし、最大のやりがいですよね。

──それもすごくいい話ですね。その子は永岡さんと出会って本当によかったですね。若者にヒアリングする時に心がけてることはありますか?

 まずは本人がやりたいことを極力聞くようにはしていますが、やっぱりなかなか出て来ないことも多いので、そういう時はこれまでの数少ない経験の話を聞きますよね。アルバイトの経験や、それを通して得意だと思えたこと、長所や強み、あとは辞めたくなった瞬間などですね。

リクルート様と共催でキャリア教育プログラム「work fit」を実施。鎌倉児童ホーム様で実施した時の様子 (2)

リクルートと共催でキャリア教育プログラム「work fit」を実施

自己決定を徹底サポート

──永岡さんが若者の就労支援をする上で大切にしてることは?

 就職する際に一番重要なのは本人の自己決定だと思うんですよ。これをどうプロデュースできるか。我々の仕事はそこに尽きると思います。なので、最近は「機会と縁」をキーワードとしてよく使っていて、我々は若者に会社見学や仕事体験など、ありとあらゆる機会と縁を提供しますが、当然本人は会社や仕事について迷ったり悩んだりします。その過程で我々も第三者として本人の考えを聞いたり、アドバイスをしたりしますが、最終的に決めるのは本人。自分で決めて選び取るという、その道筋をプロデュースできたら応援の合格ラインにたどり着けたかなとは思いますね。

──若者の自己決定のサポートを全力でやるということですね。

 そうですね。うちも数年前に会社のスローガンとして「自分らしいはたらく」を使い始めました。世の中には多種多様な仕事があって、基本的に仕事に優劣などないし、たくさん稼げる仕事がいいわけでもない。最終的に本人がその仕事に納得、満足できれば正解だと思うんです。

 我々は本人がその正解にたどり着けるために、できるだけの情報や機会や縁を徹底的に提供したいと考えています。

第4回に続く)

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