小説・ココイロ談義①
通学途中にある神社に2人はいた。
「ねえ、恋って何色だと思う?」
どこか1点を見つめていた沖野晴子は、ひとり言のようにいった。
少し離れた場所で本を読んでいた古賀海月は、自分に向けていったのかと振り返ったが、晴子は考えにふけっているらしかった。
しばらくポカンと晴子を見つめた後、海月は何かをつぶやいた。しかしセミの合唱にかき消されて晴子の耳には届かない。直後に1匹のセミが木漏れ日を縫って、強い日差しの中へと吸い込まれてゆく。
「え? なに?」晴子は我に返り聞き返した。
「キモいって!」海月は大きくはっきりと言い放つ。海月が投げかけるいつもの冷めた視線が晴子を刺した。
***
少しさかのぼって、数時間前の学校。
「海月!」
海月の姿を見つけた晴子は、後ろから大声で呼びかけた。
他の子よりやや長めのスカート丈に、艶やかな黒髪。真っ直ぐ顔を上げ颯爽と歩く姿は、華奢な体つきのくせに威厳があり、海月であることは一目で分かった。
海月の鋭く澄んだ瞳が、晴子を真っ直ぐに射抜く。ずっと一緒に過ごしていても、たまに緊張してしまう。この感じは何なのだろう。
「ああ、晴子か」
「……」
晴子はほんの少しムっとしたが、すぐに諦めた。
「子」がつく名前など今時珍しい。晴子は古臭い自分の名前が嫌いだった。
小さい頃から名前をからかわれ、いまだにネタにされると腹が立つ。
クラスメートや友達には「ハル」と呼んでもらうことにし、普段はみんな気を遣って名前の話は避けている。だが海月だけは、どういうつもりか晴子と呼び続けるのだ。
「海月だってクラゲじゃん」
反撃に出てはみたが、「そうやね」と軽く流された。
──関西人め。
生まれは両親の地元で大阪かどこかだと聞いたが、育ちは東京のはず。両親の影響だろうが、周りが標準語の中、普通は目立たないように外では標準語にしそうなものだ。しかし海月のそれはもうコテコテだった。
お調子者の男子や海月を気に入らない女子に、何かにつけて「関西人」と言われているのを晴子は見たことがある。何ならさっき晴子も言った「クラゲ」もよく言われている。
海月はそんな挑発もどこ吹く風だった。言った方もさらりと流す海月の態度にすぐ飽き、間もなく声は鎮まる。逆に堂々とした態度に尊敬の念を抱き、海月の関西弁はカッコよくすら聞こえてくる。そんな訳で、海月はクラスでも一目置かれていた。
私には到底、真似できない。だいたい、からかわれる時点で落ち込んじゃう。ハートが強いんだか、鈍感なんだか。変な子。
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<作品について>
3年前の作品。エブリスタで公開済です。