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研究メモ 作戦術の思考法:目的、方法、手段、リスク

国家の安全保障上の目的を達成するための戦略が定まったとしても、戦略の下位領域にある作戦が適切に遂行されなければ、絵に描いた餅になってしまいます。軍事力の運用にとって作戦がいかに重要であるかは過去の記事(研究メモ なぜ戦略家は戦略だけでなく、その下位の作戦を知るべきなのか?)でも述べていますが、今回は作戦を計画し、実施する具体的な方法について説明するために、米軍の教範で作術がどのように教えられているのかを解説しようと思います。

作戦術とは何か、なぜ重要なのか?

もともと作戦術は1920年代にソ連軍で研究が始まり、ドクトリンに取り入れられた概念です(ソ連軍の戦略と戦術を繋いだ作戦術を分析する『ソ連軍〈作戦術〉』の紹介を参照)。アメリカ軍でも1980年代以降に研究が行われるようになりました。米軍の教範「統合作戦(Joint Operation)」によれば、作戦術は「指揮官と幕僚が、技術、知識、経験、創造性、判断力に基づき、目的、方法、手段を統合することで軍隊を組織化し、運用する戦略、戦役、作戦を発展させる認識上の方法論」と定義されています(JP 3-0: II-3)。

少し意味がとりにくい定義ですが、ポイントは「目的、方法、手段を統合することで、軍隊を組織化し、運用する」という箇所です。作戦術の具体的な内容として、目標を明確化することを重視しており、次いで競合する目標の間の優先順位を定めること、それに基づいて作戦部隊に任務を割り当てることが教範では記されています(Ibid.)。

目標、方法、手段、リスク

作戦術の意義は目標を適切に管理することで、各部隊が作戦行動を通じて国家全体の戦略行動の成功に寄与することを確実にすることにあると言えます。それぞれの目標の達成が戦略の成功に寄与するかどうかを判断できなければ、作戦部隊の作戦行動はバラバラになってしまうでしょう。

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