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メモ 戦時下のウクライナが直面している経済危機と復興に向けた取り組み
近代以降の戦争では国民が総力を挙げて遂行することが常態になりました。軍事だけでなく、外交、財政、金融、経済、衛生、労働、教育、情報、環境など、国家のあらゆる機能が戦争遂行と関連しているので、戦時の国家指導者はそのすべてを見渡し、方針を決定しなければなりません。このことは特に長期戦を遂行する場合に当てはまります。
ロシアがウクライナに対する侵攻を開始してから、すでに3か月が過ぎましたが、戦争が長期化する可能性は日に日に高まっていると思います。無論、ロシアが突然に全面的な撤退に踏み切る可能性が皆無であるとは言い切れませんが、そのような事態を期待することは楽観的すぎるでしょう。
2月に開戦した当初、ロシアは電撃的な侵攻によってウクライナの現政権を退陣に追い込もうとしましたが、キーウをめぐる攻防で敗退し、北部戦線から部隊を撤退させると、東部戦線と南部戦線に部隊を再展開し、長期的な消耗戦を遂行する態勢に移行したようです。もしロシアがウクライナと長期戦を構えるのであれば、戦争の結果は前線における勝敗ではなく、後方における生産力の推移によって左右されやすくなります。
スミソニアン学術協会の下にあるシンクタンク、ウィルソン・センターのウェブページでMykhailo Minakov氏が投稿した記事「ウクライナの戦時統治のジレンマ:軍事的必要と社会経済的必要のバランスをとる(Ukraine’s Wartime Governance Dilemma: Balancing Military and Socioeconomic Needs)」は、この問題を考える上でよい出発点となります。著者はウクライナがロシアに侵攻を受けた直後から、連動して発生した経済危機への対策を評価していますが、まだ課題が多いことが指摘されています。
例えば、著者はウクライナで2022年3月に前年比で13%以上にインフレ率が上昇したことを挙げています。今年末までのウクライナの国内総生産は前年比で45%減少する見通しであり、半数の事業者が何らかの形で事業の停止に追い込まれていることも記しています。2022年1月に雇用状態にあることが確認された1600万人の労働者のうち、480万人が失業したこと、10人のうち9人が貧困状態に近い生活水準にある可能性があるという指摘は、ウクライナが受けた打撃の大きさを知る上で重要です。これほど深刻な経済状況が戦争によって長期化すれば、ロシアとの戦争を継続する上でも大きな問題になる恐れがあります。
著者が指摘している通り、ウクライナ単独でこの問題を解決することは困難であり、外国の援助が必要となります。戦時中であっても、西側はもはやウクライナの復興支援を早期に開始する必要がある点では一致しているので、具体的な方法が問題となっています。2022年4月、ウクライナのデニス・シュミハル首相は第二次世界大戦が終結した後でアメリカが西ヨーロッパに対して実施した大規模な復興支援計画、マーシャル・プランの方法を踏襲する方向で協議を進めています。欧州委員会は約150億ユーロ、G7(米英独日仏伊加)は、最大240億ドルを拠出することを約束していることが著者によって示されています。しかし、ウクライナの復興には最大で5000億ユーロが必要であるという見積りが出されているので、これは満足すべき金額ではありません。より多額な資金援助を受け取るためにも、ウクライナ政府は復興資金を適切に管理できる予算管理体制の構築を始めています。これは戦争の重要な一側面として注目すべき動きでしょう。
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