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メモ 戦略なき戦術は不毛、戦術なき戦略は空虚
戦略(strategy)は多様な解釈を許容する複雑な概念ですが、だからといってどのように理解してもよいというわけではありません。軍事学の概念として戦略を理解するためには、戦略が戦術とどのように関連するのかを知っておくことが有用です。
軍事学の領域では、政治的目的を達成するため、軍事的手段などを管理、運用する方法として戦略を考えています。このような捉え方は、戦争は政治・政策の道具だと考えたカール・フォン・クラウゼヴィッツの軍事理論に依拠しています。
つまり、戦略は、政治家が用いるあらゆる政略、策略と同じように、自らの政治的な権益を最小限の費用や危険で維持、拡大する方策と見なすことができますが、その具体的な手段として武力の行使、つまり戦闘で軍隊を運用することが考慮されているという特徴があります。このことが、戦略を独特な研究の対象としているのです。
戦闘における部隊の配備、機動、運用は作戦(operation)、あるいは戦術(tactics)の問題として研究されているので、戦略の研究で戦闘の細部に立ち入ることは基本的にありません。しかし、戦略の研究で戦闘の問題を完全に無視できるわけでもありません。ある戦略の最終的な成否を左右しているのは戦闘に参加する兵士の働きに他ならないためです。
ストラチャン(Hew Strachan)は、クラウゼヴィッツの戦略思想を注意深く調べた上で、彼が戦術の成果によって戦略が推進されることを示唆していることを紹介しています(Strachan 2007: 116)。つまり、クラウゼヴィッツが想定する戦略家は、会議室と最前線を行き来しながら双方の要求を調整する存在であり、政治的な視点、軍事的な視点を常に切り替えながら問題を解決しようとします。
政治的目的に従って軍事的手段を運用する方法を考えることが戦略家の職務の一部であることは確かですが、ある戦闘で味方が思いがけない敗北を喫したときには、当初の政治的目的を捨て、交渉上の立場を後退させる柔軟性を発揮しなければならないかもしれません。
あるいは、別の味方の部隊を応援に向かわせ、戦況を挽回する可能性を戦術的な次元で検討し、損失を許容可能な範囲で食い止める方が有利であるかもしれません。このような判断ができるためにも、戦略家は戦闘に関して基礎的な知識と理解を持っていることが必要です。
参考文献
Strachan, H. (2007). Clausewitz’ on War: A Biography. New York: Grove Press.
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