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革命で起こり得る事態を教えるために政治学者たちが開発したボードゲームが発表されている
今年2021年に政治学の学術誌において、革命をテーマにしたボードゲームが発表されました。これは武装蜂起をめぐる政府と民衆の駆け引きを疑似体験できる大学教育のためのボードゲームです。
独裁的な政治体制の下で民衆が大規模な反政府活動を組織すると、革命を目指して武装蜂起を起こし、治安部隊と衝突することがあります。このような行動が成功を収める要因、あるいは失敗に終わる理由を説明することは政治学者にとって重要な研究課題ですが、大学で政治学を学び始めた学生から見ると、一連の流れがあまりにも複雑であるため、理解に苦しむことが少なくありません。
しかし、ボードゲームを通じて武装蜂起を鎮圧しようとする体制側と、体制を転覆しようとする反体制側との戦略的相互作用を体験させることができれば、革命に対する理解を深めることが容易になるという考え方があります。この記事では、このような観点から開発されたボードゲームを取り上げ、それがどのような意図で開発されたのか、どのようなルールでプレイできるのかを論文の内容に沿って紹介してみたいと思います。
革命を理解するための4つのポイント
革命を目指す武装蜂起の展開を理解するためには、いくつかのポイントがあります。第一に、政府と民衆が奪い合う場所は公共的、象徴的な性格が強いことが指摘できます。例えばパリのサン・ミシェル広場のように、広大な空間であり、かつ政治的な象徴とされる場所は抗議運動で初期の攻略目標となる傾向があります。
第二のポイントは、蜂起が起きた際に、軍隊が政権に対してどのような行動をとるかによって、その後の展開が大きく変化するということです。1989年の天安門事件、1956年のハンガリー動乱で見られたように、軍隊は蜂起した民衆を鎮圧するだけの圧倒的な戦闘力を有しています。しかし、民衆に対して武器の使用を命じられた軍隊が従順に政権に従うとは限りません。脱走する部隊が出てくる可能性もあり、あるいは軍隊が一丸となって政権を転覆するために動く可能性さえあるのです。
第三のポイントは、軍隊とは別に警察・治安部隊も蜂起への対応で重要な役割を果たします。独裁的な政治体制においては警察・諜報機関は軍隊よりも組織の規模で劣っています。しかし、警察・諜報部隊は個人的、民族的、宗教的なアイデンティティーに基づいて選抜されており、平素から治安の維持に当たっているため、政権にとって信頼できる忠実な部隊です。反政府活動に参加する民衆の数が増えすぎると、警察・諜報機関の人員だけでは対応することが困難になる場合もあり、それが政権の存続を不可能にすることがあります。
第四のポイントは、蜂起によって政治状況が混乱していると、政権の維持を図る側、政権の奪取を図る側の双方が一枚岩ではなくなるため、目的を達成するためには複雑な交渉と連携が必須になるということです。いったん交渉がまとまったとしても、状況によってはそれが履行されず、裏切られる恐れもあります。あらゆる意思決定において、プレイヤーはリスクを管理する必要があるだけでなく、別のプレイヤーがどのように行動するかを戦略的に予測することが必要です。
これらのポイントを学生に学ばせることがボードゲームの基本的な目標となります。イギリスのセント・アンドルーズ大学では政治学の教育のためにボードゲームが使われており、担当教員らは授業づくりの一環としてボードゲームの開発に取り組んできました。その結果、政府と市民だけでなく、軍隊や宗教団体の戦略的相互作用を考慮に入れたボードゲームが開発されたのです。
政府、軍隊、市民団体、宗教団体の利害対立
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