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なぜ現代の内戦は長期化する傾向にあるのか? Neverending Wars(2005)の紹介

内戦は経済発展が遅れた発展途上国で起きやすいことが知られており、研究者も民族や宗教に起因する社会的な対立のような国内問題に注目しがちでしたが、最近では国際関係によって引き起こされている可能性も認識されるようになってきました。Ann Hironaka氏の『終わらない戦争:国際社会、脆弱国家、内戦の認識(Neverending Wars: The International Community, Weak States, and the Perpetuation of Civil War)』(2005)は、米ソ冷戦以降に内戦が増加し、また長期化しやすくなった理由を国際関係によるものと捉えた研究です。

この著作で展開されている主張を一言でまとめるとすれば、それは国際政治のあり方と内戦の形態に深い関係があるというものです。著者は内戦を「国家と国内の政治主体との間の大規模、組織的、持続的な紛争」と定義しているのですが(p. 3)、1816年から1997年までの時期で年間1,000人以上の犠牲者を出した武力紛争のをまとめた戦争の相関関連(Correlates of War)のデータによれば、は合計213件確認されていますが、内戦はそのうちの104件を占めていたことが分かります。その中にはモザンビーク、ナイジェリア、スーダン、カンボジアのように、100万人以上の犠牲者を出した内戦も含まれています。

第二次世界大戦が終結した後で内戦が増加する傾向にあることはよく知られていますが、著者が注目しているのは内戦が長期化しやすくなったという点です。19世紀の世界では平均して毎年2件の内戦が進行していました。しかし、1990年代の世界では年間20件近くの内戦が進行するようになっています。現代の内戦はいったん勃発すると、以前よりも短期で終結させることが難しく、それだけ犠牲者の数も増加しやすいと考えられます。

このような潮流が形成された理由を説明するときに、著者は1945年以降の国際社会で戦争の違法化という原則が法的に改めて確立され、国家の領域が保全されやすくなったことに注目しています。このことは、内戦のリスクが高い脆弱な国家の領域を外的な脅威から保全する上で大きな効果があったと考えられます。言い換えれば、「弱肉強食の時代には、軍事的に劣勢な国家は、軍事的に優勢な隣国によって部分的に、あるいは完全に飲み込まれていた」にもかかわらず、現代世界では脆弱国家が外国の征服で淘汰されなくなりました(p. 16)。国際社会は国家を内部から分裂させる動きも慎重に封じており、「国際社会がほとんどの分離独立地域を承認しないことによって、数多くの弱小国が分裂から守られてきた」とも著者は指摘しています(Ibid.: 17)。

現代の国際社会で脆弱国家が脆弱なまま存続できるようになったことに加えて、アメリカとソ連との間で生じた冷戦の影響も見過ごすことができない要因です。これら超大国は、互いに相手の勢力に対抗することに関心を持っており、脆弱国家で内戦が発生すると競い合うように援助することがありました。このため、脆弱国家の内部ではもはや内戦を遂行するために必要な資源が枯渇しているにもかかわらず、超大国の支援によって内戦を続行することが可能となりました(Ibid.: 23)。

アンゴラ内戦(1975~2002)はその典型的な事例であり、当初はソ連などの支援を受けていたアンゴラ解放人民運動(Movimento Popular de Libertação de Angola, MPLA)とアメリカや中国などの支援を受けていたアンゴラ民族解放戦線(Frente Nacional de Libertação de Angola, FNLA)が戦っていましたが、FNLAの勢力が後退すると、アメリカはFNLAと同盟関係を結んでいたアンゴラ全面独立民族同盟(União Nacional para a Independência Total de Angola, UNITA)に対する支援を本格化させました。アンゴラに投じられた資金の総額ははっきりしませんが、著者はソ連が1986年から1987年までの間に10億ドル相当の軍事援助を行っていたこと、それ以前の10年間で総額40億ドル相当の資金を拠出していたという推計を示しています(Ibid.: 24)。また、アメリカも1989年までに5,000万ドル相当の援助をUNITAに与えていたと推計されています(Ibid.)。ちなみに、大国の関与が援助にとどまらず、現地に軍隊を派遣する介入へと移行すると、さらに内戦が長引くことになることも指摘されています。

著者は自らの議論を裏付けるために計量分析と事例分析を組み合わせて展開していますが、それらは第二次世界大戦終結後の内戦に強い持続性があり、いったん鎮静化しても、国際情勢の変化によって内戦が再開される場合が少なくないことが分かります。

「19世紀から20世紀初頭にかけての内戦は、決定的かつ恒久的に終結を迎えることが普通だった。これに対して現代の内戦は断続的に進み、数年にわたって鎮静化した後でも、再び活発になってくる傾向がある。紛争が何年も低調に推移であっても、その後で本格的な内戦に突入し、再燃することもある。リベリア、アンゴラ、スリランカ、スーダン、フィリピンは、比較的短期間で数次の内戦を経験した国家の事例である」

(Ibid.: 150)

このような知見は、国際システムの状態によって反乱の成否が大きく左右されることを論じたKalvasとBalcells(2010)ともよく合致します。詳細については「論文紹介 反乱軍の戦い方は国際システムの影響でも変化する」で述べましたが、現代の戦争形態として脆弱国家における内戦がいかに重要なものになっているのか、大国の援助や介入が内戦の長期化にどのように影響を及ぼしているのかを考える上で有意義な文献だと思います。

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武内和人|戦争から人と社会を考える
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