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21世紀の都市型ゲリラ戦を理解する:Out of Mountains(2013)の紹介
ニューサウスウェールズ大学教授のキルカレン(David Kilcullen)は、『山岳から外へ(Out of the Mountains)』(2013)で、将来の戦争の多くが都市ゲリラによって遂行される可能性が高いという予測を打ち出し、注目を集めています。
一般にゲリラ戦は山地、湖畔、砂漠などの地方で遂行されることが一般的であり、都市部でのゲリラ戦はあまり注目されていませんでした。しかし、著者は社会経済情勢の変化によって、これからは都市ゲリラ活動が重要になるのではないかと考えています。
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世界各国で進む都市の拡大が戦争の条件を変えた
現代の戦争のほとんどが軍閥やテロリストといった武装勢力によって遂行されていることは、すでに多くの研究者が指摘しています。このような組織は人口密度が低い山地や砂漠に拠点を置くことが多かったので、対テロ戦争の主戦場はほとんどが地方でした。
しかし、著者は世界各国で都市人口が農村人口を上回りつつある状況にあることを指摘し、今世紀のうちに全世界で都市化が一挙に進むはずだと判断しています。この都市拡大を踏まえれば、武装組織が都市部に進出して軍事活動を展開する可能性が高く、実際にそのようなトレンドは現実のものになりつつあると述べています。
1990年代から2010年代までの戦例を調べてみると、アメリカは政情が不安定な発展途上国の沿岸都市で戦闘を遂行していることが分かります。ソマリアで起きたモガディシュの戦い(1993)、リビアで起きたベンガジの戦い(2012)などはいずれも、アメリカが手痛い打撃を受けた戦闘であり、敵対した武装勢力は都市ゲリラの戦法を駆使していました。
2008年のムンバイ同時多発テロ攻撃
この著作は2008年11月に発生したインドのムンバイ同時多発テロ事件を事例分析で取り上げ、その様子を詳しく記述することで、現代戦における都市ゲリラがどれほど安全保障にとって脅威を及ぼす可能性があるのかを読者に示しています。
2008年11月、インドと長年にわたって敵対しているパキスタンの支援を受けたテロリスト組織ラシュカレトイバ(Lashkar-e-Taiba, LeT)は、戦闘員10名をカラチ港で工作船に乗せて出港しました。この戦闘員の主な装備はロシア製のAK-47自動小銃、中国製の56式自動小銃であり、携行していた弾薬は600発、手榴弾は8個から10個でした。そのうちの数名が高性能爆薬、衛星通信可能な携帯電話を与えられており、万全の装備で作戦に臨んでいたことが示されています。
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