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研究メモ なぜ戦略家は戦略だけでなく、その下位の作戦を知るべきなのか?

戦争における軍隊の行動はあまりにも複雑であるため、戦略(strategy)、作戦(operation)、戦術(tactics)という3つの異なる次元に分けた上で、部隊行動を階層ごとに観察する必要があります。戦略は政治的目的を達成するために軍隊を運用する方策であり、巨視的視点で戦争を捉えることができます。戦術は戦場で部隊を運用する方策であり、微視的視点で戦争を捉えることが可能です

作戦とは、戦略と戦術の間に位置する分析単位であり、「事前に立案される計画に基づいて遂行される、相互に関連した戦闘の集合」として定義されています(Biddle 2004: 6)。作戦は戦略行動の要素であると同時に戦術行動の集合です。しかし、それ自体に独特な性質があり、ある意味で戦略上の部隊行動と戦術上の部隊行動の両方を制約しているとも言えます。

軍事学の調査研究では戦略に注目しがちですが、それは戦略上の成否が政治上の成否に直接的に結びつきやすく、人々の注目を集めやすいためだと思います。軍拡競争が相手国の経済成長を鈍化させるのか。同盟国に対する敵の侵略を抑止できるのか。戦争が勃発したならば、速やかに終戦に持ち込むことができるのか。これらの問いはいずれも戦略の次元に属する問題であり、政治的に重要な課題ですが、この課題を分析するためには、戦略家は作戦を理解しなければなりません。戦略上の行動を分析するには、それらが作戦上の行動として適切なのかを判断できなければならないためです

例えば、ジョン・ミアシャイマーは抑止を目的とした戦略を成功させるためには、開戦直後に予測される敵軍の作戦行動を確実に阻止する必要があると論じており、戦略の研究で作戦の分析が不可欠であることを明らかにしました(Mearsheimer 1983)。ミアシャイマーの見解によれば、もし潜在的な侵略者が火力に依拠した消耗戦ではなく、機動の機能を通じて戦闘力を発揮することを目指す機動戦のドクトリンで兵力を運用する作戦計画を採用している場合、これを抑止することは非常に困難になります。

なぜなら、機動戦は消耗戦とは異なり、兵力の大きさに依存せずに勝利を追求できる戦い方であるためです。敵を先制し、指揮統制システムを麻痺状態に陥らせ、組織的な戦闘行動が不可能な状態に追い込み、物理的な殺傷や破壊によらずに戦意を喪失させることができれば、それによって戦略上の成功を期待することができます。もちろん、敵よりも味方の兵力が極端に小さくなれば、いくら機動戦のドクトリンを採用しているとしても、成功の見込は大きく低下すると考えられます。したがって、絶対に抑止が不可能であるとは言い切れませんが、機動戦を志向する相手に攻撃を思いとどまらせることができる態勢を構築することが難しいことは確かです。

もし作戦の次元で何が起きているのかを知らなければ、政治的な目的を達成するために軍隊を運用する計画を立てようとしても、机上の空論となってしまいます。作戦を学ぶためには、カール・フォン・クラウゼヴィッツが提起した重心(軍事学の世界で重心は何を意味する用語なのか?)、アントワーヌ・アンリ・ジョミニが注目した作戦線(戦争で軍隊を動かすには、いつでも兵站線を確保しておく必要がある)、ジョン・フレデリック・チャールズ・フラーがまとめた戦いの原則(翻訳資料:英国陸軍『1920年版野外要務令』「戦いの原則」の翻訳)などがよい出発点になると思います。

見出し画像:U.S. Department of Defense

参考文献

John. J. Mearsheimer. 1983. Conventional Deterrence, Ithaca, N.Y.: Cornell University Press.

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武内和人
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