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メモ 戦争で敵と味方がいずれも戦闘を中断し、静止する局面があるのはなぜか?

戦争では、敵と味方に分かれた2か国以上の交戦国が、互いに自らの政治的な目的を達成するために、それぞれの武力を行使しながら交渉を行います。

戦時下では戦闘が絶え間なく続くものだと思われがちですが、実際には敵と味方がどちらも部隊を動かそうとしない静止の局面があります。プロイセンの軍人カール・フォン・クラウゼヴィッツは、その理由を3つにまとめています。

1 決断力の欠如

クラウゼヴィッツは、軍隊の指揮官が重大な危険を認識し、その責任の重さに耐えられなくなると、新たな行動を起こす気力がなくなり、優柔不断に陥ると述べています。戦争の目的を思い出したところで、この重圧から逃れることはできません。部隊の指揮官によほどの積極性がなければ、軍事的行動の停止が当たり前のことになり、めったなことで前進しようとはしなくなるのです。

2 不完全な判断

戦争では、あらゆる事柄に関する情報が不完全なものになります。クラウゼヴィッツは、たとえ自分の指揮下部隊のことであったとしても、その実態を正確に知ることは不可能であり、敵部隊に関する情報の大部分は推測によって補完しなければならないと述べています。客観的に見れば、一方が他方を圧倒できるほど有利な状況であったとしても、双方とも状況を正確に認識できないため、いずれも戦闘を中断した方が自分にとって有利だと判断するようなことが起こることも珍しくありません。

3 防御の優位性

クラウゼヴィッツは、戦闘の方法として、防御が攻撃よりも強力であると指摘した上で、それが戦闘を中断させる第三の要因になると論じています。戦闘では防御に回る部隊が、その元来の戦闘力よりも大きな戦闘力を発揮できるようになりますが、攻撃を加える部隊にそのような優位性がありません。そのため、双方の部隊の戦闘力の水準が等しい場合、どちらも戦術的に攻撃を選択することができないため、防御を固めるので、戦闘が中断される事態になります。

機動戦における戦闘指導の重要性

ここでクラウゼヴィッツが強調しているのは、静止の局面が戦争の大部分を占めているものの、それは必ずしも合理的な理由で部隊を停止させている期間ではないということです。軍隊の指揮官が状況の変化に即応し、時間の制約がある中で決定を下し、迅速に前進するように部隊に命令を出すことが、いかに戦場心理として難しいことであるかについて考えさせられます。

このメモの内容に興味がある方で、自分で『戦争論』を読んでみたい方は、第3篇の第16章「軍事的活動の停止について」をご一読ください。

見出し画像:U.S. Department of Defense

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武内和人
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