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タケトピ徒然草  奇跡のスライディング

いく久しく人にスネなど見せてない。
自分さえまともに見ていない。

剛毛疑惑はあれどカーテンの向こうにあるスネを確認する術もなく、年貢の納め時だと観念した頃先生の「ここ〇〇出てません?」という話し声。わらわらと寄ってくる観客達。「あらほんとだ」わらわらわら。
専門用語が聞き取れず、何が出てるのかわからないまま取り残される主役1名。

「痒くないですか?」

私のセリフの番が来た

「ん?ん?痒い?」

触られた太ももの裏側は、先生が触ると微かに痒い気もする。専門用語はわからないが、どうやらブツブツ出てるって事らしい。

「触ると痒い気もしますが。」

全く気がつかなかった。かなりの広範囲にブツブツが広がっている。お腹の苦しさで他の事は全てがゼロになっているらしい。
同じ原理で観客達の目も剛毛からブツブツに。
もし剛毛だったとしても、剛毛は今頃ゼロになっている。

はずである。

よしよし。

触診でシコリが見つかり組織採取して終了。
簡単に済ませるのは、思い出したくない程の苦痛だったから。この調子で数々の難関をスライディングで誤魔化し、苦痛も瞬時に忘れてきたわけだが、果たしてここからはそうもいくまいな。いつもいつもいい感じにブツブツがあるほど都合よくはいかないだろう。実際シコリあるし。ただの脂肪でした、ちゃんちゃん。なんていうオチもさすがにない。

自分はこれをどうおさめるんだろう。
この事件の終着点に持ってくるべき結末は?

主人の運転する車内で淡々と報告し、死ぬのは嫌だと特に懇願する程でもないが、引き取った愛犬だけは看取りたいな、とふと思った。

そして重大なミスに気付く

「卵巣癌の疑いがあります。」

「ガーン」

絶対必死だったよね。
一生のうちで使えるのここだけだったよね。
さすがに次回は重すぎて言えないよね。

「後悔先に立たず」

ここで出てくるとは。

今まで沢山使い所あったよね。

一人ボケツッコミを繰り返しながら車は走る。

                 (つづく)

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