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チームをデザインするために必要な2つの要素

今回は「“チーム”をデザインする」をテーマに、私の考えをお伝えしたいと思います。

価値提供を実現するにはチームが大事

現代のサービス・プロダクトづくりにおいては、ひとりでできることに限界があることから、サービスの持続性確保が大きな課題であることが多いです。

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とくにデザイナーは、未来をカタチにする機会が多く、ひとりで完結するには難しいポジションです。デザイナーとしてウェブサービスやスマートフォンアプリを開発していくにはエンジニアとの共創が必要ですし、マーケターとともにランディングページを作成したり、セールスと営業資料を共創することもあります。

アフリカにこんなことわざがあります。

「If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.」(早く行きたければ一人で進め、遠くまで行きたければみんなで進め)

すべてをひとりで行う必要はありません。価値提供を実現する際、“チーム”がいればさまざまな難題を解決していくことができるでしょう。ただ、それがチームではなく“グループ”ではうまく力を発揮することはできません。グループとチームには大きな違いがあるのです。

辞書をひいてみると、こんな風に書かれています。

グループ:共通の性質で分類した、人や物の一団。群。
チーム:ある目的のために協力して行動する集団。
出典:デジタル大辞泉(小学館)

「グループ」は“共通の性質”によって分類されますが、「チーム」はそうではありません。“共通した目的”と“協力して行動する”というふたつが必要になるのです。

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では、この要素を分解してみましょう。

チームの血の巡りを良くする「エンゲージメント」

“協力して行動する”ために必要な要素のひとつとして、エンゲージメントがあります。

エンゲージメントは、1990年にアメリカのボストン大学のウィリアム・カーン教授の論文で「パーソナルエンゲージメント」という言葉が使われたことがはじまりです。その後、アメリカで発展した際には「従業員エンゲージメント(エンプロイー・エンゲージメント)」という言葉になり、主に「従業員一人ひとりが組織に愛着を持っている状態」として広がっていきます。

一方ヨーロッパでは、ユトレヒト大学のシャウ・フェリ教授らによって「ワーク・エンゲイジメント」が研究され、「仕事に対してポジティブで充実した心理状態(活力・熱意・没頭)」と定義されました。

このようにエンゲージメントには、「ワーク・エンゲイジメント」と「従業員エンゲージメント」の2種類がありますが、どちらも「従業員と組織」や「人と人」など2者間での関係性を指しており、組織や仕事に対して自発的な貢献意欲を持ち、主体的に取り組めている状態だと言い表せるでしょう。

下の図をご覧ください。これは、ワーク・エンゲイジメントのモデルです。

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上司や同僚のサポートおよびコーチングといった周囲との関係と、評価や育成の機会など環境による「仕事の資源」、自己効力感やレジリエンスなど個人の心理による「個人の資源」は強く関係しており、充実するほど「ワーク・エンゲイジメント」が高まり、心理的ストレスが軽減されると言われています。

チーム1人ひとりのエンゲージメントが高まりいきいきと働くことで、アウトカムであるパフォーマンスやコミットメントが上がり、チームの血の巡りが良くなることが期待できるでしょう。

チームの決定力をアップさせる「組織カルチャー」

先ほど紹介したチームの意味、“協力して行動する”ために必要なもうひとつの要素は、組織カルチャーです。

組織文化研究の第一人者であるエドガー・H・シャイン氏は、著書『組織文化とリーダーシップ』のなかで、「集団が外部への適応や内部統合の問題に対処する過程で学習した、集団自身で発見し発展させた基本的仮定」が組織カルチャー(組織文化)であり、それらは以下の3つの層から形成されていると述べています。

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第1層は、「人為的創造物」の層です。この層は、組織カルチャーをもっともよく認識できる層で、具体的には、メンバーの行動パターンやメンバーが使用する言葉、名称やロゴなど目に見える形などに表れます。

第2層である「価値観」の層は、第1層の背景として組織内で共有されている価値観や考えかた、哲学といった層です。

そして第3層が表すのは「基本的前提」。この層は、第2層より深く、無意識にあるような信念や当たり前になっていることの認識を表しており、メンバーが自然と感じ取ること、メンバーの価値観に影響を与えます。

このように、これら3つの層はそれぞれが相互に関連しあっています。

その後、組織経営学者であるチャールズ・A・オライリー教授は、見える第1層の行動パターンに着目。組織文化はDNAのように変更不可能なものではなく、マネジメント可能であると提唱しました。行動が変わっていくことで価値観も変化し、チームワークが上がっていくことが期待できます。

良いプロダクトにはビジョンとの整合性が必要

ここで別の考え方もご紹介します。
4つの要素が噛み合うことで組織が機能し、成果を生み出すことができる「コングルエンスモデル」です。

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この図のいちばん左を見ていただくと、「インプット」、「転換」、「アウトプット」の3つに分かれており、その真ん中「転換」には4つの要素が関わっていることがわかります。この4要素が噛み合ったときに発揮できる力こそが組織力だと言われています。私は、このコングルエンスモデルをチームへと置き換えることで、チーム力の全体像が見えてくると考えました。

いちばん上の「インプット」には、プロダクトやサービスの業界動向や競合の状況にあたる環境、ヒト・モノ・カネ・情報などの資源、会社やチームの歴史があてはまります。プロダクトビジョンや戦略を立てるときに用いられます。ここが、チームとなるのに必要な“共通した目的”にあたる部分です。この目的は、共通でなければなりませんので、ビジョンや戦略の理解や浸透には欠かせません。

アウトプットは、チームで生み出すプロダクトやサービスそのものですので、真ん中の「転換」の4要素が、「チーム」と言い換えられるのではないでしょうか。

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プロダクトやサービス開発で、プロトタイピングやスクラム開発といった方法をチームにインストールすることで、チームがどんな顧客の課題を解決しようとしているのか、成功のカギはなにか、といったリサーチや課題管理の重点課題を定義することができるでしょう。そしてそれが、振り返りやイテレーションなどの開発プロセスや会議体を踏襲し、“チーム”としてのプロジェクト進行につながるはずです。

先ほどの図で紹介したコングルエンスモデルにおける「重点課題」、「チーム運営」の赤色の縦ラインは、多くのチームが課題感を持って取り組んでいると思います。ですが、チームが”足し算”ではなく”掛け算”になり、よりチーム力を上げるためには、4要素のなかにある「メンバー」と「組織カルチャー」の緑色の横ラインも大切です。これが前述した、“協力して行動する”ために必要な「エンゲージメント」「組織カルチャー」の2つの要素になります。

さらにフィードバックを繰り返しながらすべての要素を整合させていくことが”効果的なチーム”づくりにつながり、それによって”良いプロダクト”を生み出せる確率が上がるのです。これが「偉大なプロダクトは、偉大なチームから生まれる」と言われる所以なのだと思います。

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いかがでしたでしょうか。未来をカタチにすることが多いデザイナーが越境しながらさまざまなポジションの方と関わり、デザイナーのアウトプット力やファシリテーション力を活用することで“チーム”をデザインできると考えています。今回の内容を参考にチーム力を上げるデザインにチャレンジしていただけたらうれしいです。

・Catherine Truss (編集), Kerstin Alfes (Series Editor), Rick Delbridge (Series Editor), Amanda Shantz (Series Editor)『Employee Engagement in ・Theory and Practice』(Routledge、2013年)
・島津明人『健康でいきいきと働くために:ワーク・エンゲイジメントに注目した組織と個人の活性化』
・Edgar H. Schein『Organizational Culture and Leadership』(Jossey-Bass、2010年)
・Charles A. O’Reilly III, Jennifer Chatman & David F. Caldwell『People and ・Organizational Culture』(The Academy of Management Journal、1991年)
・加藤雅則, チャールズ・A・オライリー, ウリケ・シェーデ『両利きの組織をつくる―大企業病を打破する「攻めと守りの経営」』(英治出版、2020年)

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このnoteは、2021年3月にCreatorZineへ寄稿した記事の転載をベースに少しだけ書き直したものになります。


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