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まっする3 後記

2020年9月某日 DDT道場 

 いつものことながらちょっと遅刻して、道場での読み合わせに参加する。三回目となると、自分のセリフを読むことの恥ずかしさなども無くなっていて、それは皆堂々と様になっていた。

 とくに今回の2.9次元ミュージカルでも、大いに活躍する圧倒的ベビーフェイス”必殺技男子”のメンバーに至っては、なぜか各々のキャラクターを掴んでいて、監督のマッスル坂井氏を唸らせていた。それは今回も大成功を希望から、確信に変える、ある意味精神安定剤のようなものだったであろう。

 劇中では思切投太郎演じる私だが、今回も前座的な意味合いをもつオープニングまっするでプロレスの試合を任されることになった。ここにはもちろん、台本も何もなくただ竹下&納谷vs渡瀬&みなみかわ と書かれているのみ。いわゆる”公開ガチスパーリング”である。

 ここで鍵を握るのはサウスリバー南川選手。システマという特殊な格闘術を習ってはいるもののプロレスは完全な素人で、でもシステマという特殊な格闘術を習っているものだからカッコイイレスリングシューズを持っていたりする。

 このシステマの呼吸を習得すると、痛みを完全に無効化することができるらしい。どんな技を食らっても痛くないというのだ。つまりここはヘビー級プロレスラーズの竹下&納谷の腕が試される。いかに怪我はさせずに、相手の急所を攻め、「痛い」と思わせるか、否、言わせるか。

 決して相手が憎いわけでもなければ、殺したいわけでもない。でも戦って勝ちを目指さなくなくちゃいけないんだ。プロレスはしばしばこういうシチュエーションに出くわすものだから、モチベーションの上げ方は十分に熟知していた。

 私はまず”めちゃくちゃ痛いが大怪我はしない技”にチョップを選択。結構強めに打ったがシステマの呼吸の前では痛くないという。これでお客さんもこのご時世で、声こそ出せないものの、心の中で「呼吸!呼吸!」とコールを起こしてくれているのをひしひしと感じていた。

の巨体から繰り出されるエルボーともなると1割の力でコツンとやるだけでも、かなり痛い。そのイメージでリングに送り出したのだが、レスラーでも意識が朦朧とする撃ち抜くエルボーバットで、一瞬サウスリバー南川が白目になりながら「あかん。」と言ったのを私は見逃さなかった。そうだ。納谷さんは元・リアルジャパンだった。

 しかし、それでも「痛くないです。」と言うみなみかわ選手。その呼吸というか根性はさすがはプロの芸人、いやプロのシステマ選手!

 その後もブレーンバスターまで繰り出したり、急にロープに走らせてもなんとか対応する超人っぷりを見せつけられた我々プロレスラー。最後は関節技でギブアップを奪われてもなお「痛くなかったです。」と言い張る姿を見て、竹下幸之介の”プロレスラーtodoリスト”に

サウスリバー南川に痛いと言わせる

が追加されたことは言うまでもないだろう。

まっする3~必殺技大乱発~大公開通し稽古

 この大会タイトルにある通り、当初は通し稽古で行われる予定であった。しかしそれは名だけで実際には入念な稽古にリハーサルを重ねて行われるはずだった。しかし、稽古の期間は3日間しかなく(うち1日はレコーディングや、OP映像の肩書きを考えるので潰れる)、本番当日に至っては同会場で昼に東京女子プロレスの大会が開催されているため、会場を使っての動線の確認や、動きの確認ができるはずもなく、各々が気持ち程度にバミる(ステージなどで、演者の立ち位置や小道具を置いておく場所をあらかじめ目印をつけることです。)と、もう開場時間がきてしまった。言霊とは恐ろしいもので、大会名につけてしまったばかりに、本当に通し稽古になってしまったのだ。

 限られた少ない時間でバミったテープも、私と南川さんの激しいマッチアップで全部取れてしまったこともここに記しておこう。

 思切投太郎がダンベルプレスを1兆回やったところから劇は始まり、上野勇希演じる高久辛飛光が投太郎の背中をなぞりながら

「もっと脊柱起立筋も鍛えた方がいいのでは?」

と言うのだが、これは完全に普段の日常をなぞったワンシーンでありっゴールドジムでのプライベートを垣間見られているようで、恥ずかしかった。

 演者の私が選ぶ個人的推しキャラは納谷幸男演じる納谷木七八四郎。弊社社長の高木三四郎をモチーフとしたそのキャラクターを演じることになった納谷さんだが、全くないのだ。リスペクトが。それが最高。

 稽古の時にも、何度言ってもスタナーの前のガットショットはやらないし(ガットショットってなんですか?って顔してたし)、高木三四郎の十八番であるファイヤーポーズに関しては、

「いち、にっ、さん ファイヤー。あれ、ワン、ツー、スリーでしたっけ?」

 と頭を抱える始末。逆に言うと納谷木七八四郎には伸び代しかなく、スタナーの前に相手の腹部をちゃんと蹴れたら一つ成長したことになるし、「ワン、ツー、スリー」ってコーナーポストの上で言えたらそれだけで大きなステップアップだと言えるだろう。

 今後も納谷木七八四郎、及び、納谷幸男からリングの内外に問わず目を離すことができない。納谷ウォッチャー 会員No.002として。(No.001は青木真也さんで、No.003はクリス・ブルックスさん)

今回と前回の大きな相違点

 ラストのシーンでは今回の主役という大役を務め上げた平田一喜さんの前にサプライズで登場したHARASHIMAさん。二人のシングルマッチが行われることとなった。

 試合は鬼と化したHARASHIMA先輩が、セコンドで応援している我々レスラー陣も目を背けたくなるほどの怒涛のミドルキック連打でノックアウトと言ってもいい3カウントで決着がついた。ゴング直後の天井を見上げる平田さんの顔は、自身の身体へのダメージ以上に、大役を務め切った安心感に満ち溢れた、形容のし難い表情だったことが脳裏に焼き付いている。

 その後、エンディングを迎えて、サイン会、撤収作業を終えたレスラーたちが控え室に集まると、前回の公演終了時とは違い、各々が反省点を述べ始めたのだった。

「あそこのタイミングがうまくいかなかった。」

「ここを¥こうしておけばよかった。」

「あんなにダンス練習したのに間違えてしまった。」

 前回はとにかく慣れないことをやり切ったことでの達成感が大きかったが、二回目にしてさすがはみんなプロレスラー。次はいかにいい試合をして、勝ちを見出すかの思考回路になっているのだった。

「もう一度やり直したい。」

 誰かがそう口走ると、みんながそれに賛成の意を示し、それを見たマッスル坂井氏も

「よーし!この演目で東名阪ツアーを回っちゃうか!」

「オーーー!!!もう一回やるぞー!!」

 もう一回コールが起こるのではないかと思うほどに大会後とは思えない熱気に包まれたバックステージ、みんなの輝いた目が品川の街を照らしていた。ただ、一人。痣だらけでシャワーから帰ってきた平田さんの目は必死に何かを訴えかけるように笑っていなかった。

次回大会はさらにブラッシュアップされた2.9次元ミュージカルの世界に浸かれることを期待していてほしいと思う。

追記 チャンピオンベルトはヤス・ウラノ先輩の手作りだよ☆

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