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【落語見聞録】2023年6月27日 第415回県民ホール寄席(ごらくハマ寄席) 滝川鯉昇独演会

ともかく高座に上がった直ぐ後の20~30秒間、驚いたような顔の沈黙だけで、既におかしくて笑ってしまう鯉昇師匠。その沈黙を破っての第一声がこちら。
瀧川鯉昇師匠 第一声
え~、3年半……、何か調子が狂った状態のままでございまして、身体がなかなか戻ってこないんでございますが……、疲れがだんだん癒えないという、そんなことを実感するようになりました。去年、一昨年の忘年会の疲れがまだ少し残っております(爆笑)。
とにかく3年半の間に検温というんですかね? 毎日のように体温を測りまして、それから手洗いという……。手洗いも、そんなに今まで私にとっては習慣としてない行動でございました。トイレに行ったってなんか、何回に一回という手洗いでございましたが(笑)、1日何度も何度も手を洗う、それが、アルコール消毒というんですかね? あの、胃袋の中はよく消毒をしているんでございますが(笑)、表をアルコールで消毒するのは初めてでございまして、……3年半、あんなことをやっておりまして、去年の暮れに気がついたんですが、あの……、指紋がほとんどない状態でございます(笑)。犯罪に走るんなら、今かなという(爆笑)。そんなことを暮れに実感をしたんでございますが……。


無料パスを使用するルートだと、長時間の移動になると説明する鯉昇師匠

①『船徳』瀧川鯉昇

 古希を迎えて、東京都から公共交通機関の無料パスが支給されたのはいいけど、有料の交通費だと自宅まで寄席まで片道45分で済むところが、無料パスを利用できる路線を乗り継いでいくと2時間半かかる説明のまくらに、場内は爆笑。会場に着く前に、もうへとへとに疲れているそうで、たっぷりまくらをふったあとに、意外に所作の大きい『船徳』へ。
 竿は使うけど、櫓を全く使わない所作で噺は進みサゲへ。その理由は、あとで打ち上げに参加していただいた師匠からお聞き出来たのだが、「櫓を使う所作は、疲れるから」だそうだ。登場順を鯉丸さんと交代したのも、後席に体力を温存する為だったというけど、この会は三席も披露することになるので、鯉昇師匠が落語を演るのが本当に好きなんだなと感じた次第。詳細は、後で。

『船徳』瀧川鯉昇

②『阿武松』(おうのまつ)瀧川鯉丸

 パンフレットには、一番最初に登場する筈だった二つ目の鯉丸さんが登場。出世噺を小気味よく語ってくれました。

『阿武松』瀧川鯉丸

③『蛇含草』(じゃがんそう)瀧川鯉昇

 古典を大胆にアレンジすることが多い鯉昇師匠だけど、あまりそのイメージが強くないのは、噺の幹を変えずに面白さを引き出すためのアレンジのせいか? なので、ご通家の方からも批判がない。加えて、動きの面白さはピカイチだと思います。この噺も、餅の曲食いの動きが見ているだけで面白い。私が子供の頃、ラジオから聞こえてくる落語を聴いて、「笑っちゃう音を出すお爺さん」が落語家だと思っていたけれど、今は「見ているだけで笑っちゃうお爺さん」が落語家さんなんだよね。

『蛇含草』瀧川鯉昇

④『へっつい幽霊』瀧川鯉昇

 ③の『蛇含草』が終わって、既に21時の少し前。これで終演だと思いきや、幽霊の手の所作の解説をし始めて、『へっつい幽霊』へ。お客さんは、たっぷりで大喜びだけど、①のまくらで既に「へとへとに疲れている」って言ってるのに大丈夫? って、思ってしまう。
 この日の幽霊は、膝立ちで宙に浮いている所作は少なめで、「ふわふわ浮いてんじゃねぇ! いいから、座って落ち着け!」っていうセリフと共に座ったままサゲへ。面白い流れだなと思っていたら、打ち上げの席で師匠が、「幽霊の膝立ちの所作は草臥れるので、座らせてみました」だって!?
 そんなに疲れているなら、21時過ぎから『へっつい幽霊』に入らなきゃいいのにって思ってしまうのと同時に、「本当に落語を演るのが大好きなんだなぁ」と感じてしまう。鯉昇師匠が体力を温存しながらも、全力で高座を勤めている今だからこそ、目が離せない。

「まぁ、座れ!」と言われてしまう幽霊

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