瞬きする間もなく即読める超短実話怪談シリーズ第9弾『瞬殺怪談 鬼幽』(平山夢明ほか)冒頭3話試し読み
刹那の恐怖!
瞬きする間もなく即読める
超短実話怪談集!
あらすじ・内容
眠れぬ暑い夜、移動の時や待ち時間――そんな日常の隙間にすぐ読める短い実話怪談を集めた人気シリーズ第9弾。
ルポ怪談の名手・吉田悠軌と新鋭・蛙坂須美が初参加。
・いつも身近にいる人が怪我をするのはなぜ「いらない才能」(小田イ輔)
・肝試し先で起きたのは…「罠」(黒史郎)
・取り壊しになる小学校に大人になった同窓生が集まるが…「時効なし」(神薫)
・シロアリ駆除の業者が床下を調べたら…「したにしたに」(黒木あるじ)
・再会した友人の顔が…「予兆」(我妻俊樹)
――ほか、鷲羽大介、つくね乱蔵、平山夢明による書き下ろし149編を収録。
冒頭3話・試し読み
トドメ 我妻俊樹
涼介さんの親友が別れ話のもつれから女に脇腹をナイフで刺された。幸い大した怪我でなく済んだが、親友が言うには「子供の頃からずっと女に刺される夢を見続けてたからついに正夢になったと思ったけど、軽い傷でホッとしてる、だって夢の中ではいつも死んでたから」とのことだった。
そう語った一か月後に親友はバイクの自損事故でこの世を去った。
カーブを曲がり切れず道から飛び出した彼は、脇腹のナイフの傷跡に狙ったように畑の柵のパイプが突き刺さり、体を貫通した状態でぐったりしているのを通りかかった他のバイク乗りに発見されたそうだ。
いらない才能 小田イ輔
K氏は、同級生などによく怪我をさせる子供だった。
「害意を持ったことは一度もないんだけどね、過失っていうか、結果的にそうなったみたいな形で、自分では殆ど事故みたいに考えてたな、どうしてそんな風になるのか分からないから、反省のしようもなくて」
図工に使うハサミに始まり、先のとがった鉛筆、体育館に転がっていたボール、縄跳びの縄、果ては凍った水たまりから剥がした氷に至るまで、彼が手にしたものはどんなものでも凶器となり、周囲の子供達を傷つけたという。
「ほんとに、何も意識せずにただ持ってるだけなのに、そこに誰かの手や頭や目や耳なんかが来るわけ、それで怪我しちゃう。どうしようもないんだよ、俺から見れば周りの皆が不注意なんであって、自分から怪我しに来てるようにしか思えなかった」
幾度となく学校に親が呼ばれ、それと同じだけ怪我をさせてしまった子供たちの家に謝りにも行った。
「先生には怒鳴られるし、親には泣かれるし、相手の親御さんには睨まれるしで、本当に辛かった、同級生と一緒に遊びたくても、こっちから声かけたりできなくなってさ」
自分自身の因果な性質を自覚し、子供ながらに、もう死んでしまった方がいいのかも知れないとまで思いつめたというから相当なものだ。しかしそんな彼に転機が訪れる。
――お前には人殺しの才がある。
それは、彼の祖母の口から出た言葉。
「うちの婆さん、霊能者っていうか呪い師みたいなことをやってて、占いとか疳の虫切りとかそういうことを頼まれるような人間だったの」
彼が小学校五年生の時に亡くなったという祖母は、死の間際、自身の病床にK氏を呼ぶと、先の言葉を告げ、続けて「それは今の世の中ではいらないものだから、婆ちゃんが全部あの世に持っていく」と言い、それから間もなく帰らぬ人となった。
「不思議なことに、それからは嘘のように何もなくなったんだ。今のいままで、少なくとも物理的には誰かを傷つけたことは一度もない。ただ――」
K氏宅の仏壇に安置されている祖母の位牌は、誰がそうしたわけでもないのに傷だらけで、直しても直してもボロボロになってしまうのだという。
苦い初恋 黒史郎
小学生の頃、初恋相手の女の子の誕生日会に呼ばれたのでウキウキ気分で行ったらパーティーがとっくに終わっていた、という切ない思い出が横尾さんにはある。
学校が終わってまっすぐ家に帰ると親に小遣いを前借りし、文房具店へ寄って女の子へのプレゼントにとサンリオのキャラの描かれた缶ペンケースを買った。到着してピンポンと押すと「どちらさま」とインターホンで返ってきたので、フルネームで名乗って「お誕生日会に来ました」と答えた。するとその家の母親が怪訝な表情で出てきて、「もうとっくに終わったけど」と不機嫌な声で告げられる。そんなばかなと天を仰ぐと空は暗くなっていて、どういうわけか夜になっている。もう夜の九時なのだという。
寄り道などするはずがない。早くプレゼントを渡したくて跳ぶように走った記憶しかないのに。文房具店も夜七時には閉まるはずで、じゃあ自分は店を出て九時までどこで何をしていたのかという疑問が当然わく。寝ていたか、意識がとんでいたかしてなければ、どう考えてもおかしい話なのである。納得できぬまま帰ったら家に警察が来ていて大変な騒ぎになっており、たっぷり親にしぼられた。
後日、好きだった女の子から苦情を言われる。
誕生日の件ではなく、また別の日の夕方六時過ぎに、ピンポンと横尾さんが訪ねてきたという。顔色が悪いのでお腹でも痛いの、と女の子が心配して訊ねると、へらへらと笑うばかりで質問をかわされ、用件も言わずに走り去ってしまった。
何しに来たの、失礼じゃない、と文句を言われたが、横尾さんはまったく身に覚えがない。誕生日に間に合わなかったことといい、何が何やら意味がわからない。気味も悪いし好きな女の子からは嫌われてしまうし、踏んだり蹴ったりな初恋の思い出であるという。
著者紹介
我妻俊樹 (あがつま・としき)
『実話怪談覚書 忌之刻』にて単著デビュー。著書に「実話怪談覚書」「奇々耳草紙」「忌印恐怖譚」各シリーズ。共著に「FKB饗宴」「てのひら怪談」「ふたり怪談」「怪談五色」「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」各シリーズ、『猫怪談』など。
蛙坂須美 (あさか・すみ)
東京都墨田区生まれ。雑誌『代わりに読む人0 創刊準備号』にエッセイ「後藤明生と幽霊──『雨月物語』『雨月物語紀行』を読む」を寄稿。ブログ「悲鳴窟」にて聞き集めた実話怪談を公開している。
小田イ輔 (おだ・いすけ)
「実話コレクション」「怪談奇聞」各シリーズ、共著に「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」各シリーズ、『奥羽怪談』『未成仏百物語』など。原作コミック『厭怪談 なにかがいる』(画・柏屋コッコ)もある。
黒木あるじ (くろき・あるじ)
怪談作家として精力的に活躍。「怪談実話」「無惨百物語」「黒木魔奇録」「怪談売買録」各シリーズほか。共著では「FKB饗宴」「怪談五色」「ふたり怪談」「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」各シリーズ、『奥羽怪談』『実録怪談 最恐事故物件』『未成仏百物語』など。『掃除屋 プロレス始末伝』『葬儀屋 プロレス刺客伝』など小説も手掛ける。
黒 史郎 (くろ・しろう)
小説家として活動する傍ら、実話怪談も多く手掛ける。『黒異話』「実話蒐録集」「異界怪談」各シリーズ、『黒塗怪談 笑う裂傷女』『黒怪談傑作選 闇の舌』『ボギー 怪異考察士の憶測』ほか。共著に「FKB饗宴」「怪談五色」「百物語」「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」各シリーズ、『未成仏百物語』など。
神 薫(じん・かおる)
静岡県在住の現役の眼科医。『静岡怪談』『怪談女医 閉鎖病棟奇譚』で単著デビュー。『怨念怪談 葬難』『骸拾い』など。共著に「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」各シリーズ、『現代怪談 地獄めぐり 業火』など。
女医風呂 物書き女医の日常 https://ameblo.jp/joyblog/
つくね乱蔵 (つくね・らんぞう)
『恐怖箱 厭怪』で単著デビュー。『実話怪談傑作選 厭ノ蔵』『恐怖箱 厭福』『恐怖箱 厭熟』『恐怖箱 厭還』など。共著に「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」「怪談五色」「恐怖箱テーマアンソロジー」各シリーズなど。ホラーライトノベルの単著に『僕の手を借りたい。』ほか、黒川進吾の名でショートショートも発表、共著『ショートショートの宝箱』もある。
平山夢明 (ひらやま・ゆめあき)
『「超」怖い話』「怖い話」「顳顬草紙」「鳥肌口碑」「瞬殺怪談」各シリーズ、狂気系では「東京伝説」シリーズ、監修に「FKB饗宴」シリーズなど。ほか初期時代の『「超」怖い話』シリーズから平山執筆分をまとめた「平山夢明恐怖全集」や『怪談遺産』など。
吉田悠軌 (よしだ・ゆうき)
『恐怖実話 怪の遺恨』『恐怖実話 怪の残滓』『恐怖実話 怪の残響』『恐怖実話 怪の残像』『恐怖実話 怪の手形』『恐怖実話 怪の足跡』『うわさの怪談』『日めくり怪談』『禁足地巡礼』「怖いうわさ ぼくらの都市伝説」シリーズ、「オカルト探偵ヨシダの実話怪談」シリーズ、『現代怪談考』など。
鷲羽大介 (わしゅう・だいすけ)
一七四センチ八九キロ。右投げ右打ち。「せんだい文学塾」代表。共著に「江戸怪談を読む」シリーズ『猫の怪』『皿屋敷 幽霊お菊と皿と井戸』、「奥羽怪談」「怪談四十九夜」シリーズなど。