2022年1月31日
【今日は何の日?】1月31日:愛妻の日
1月の「1」をアルファベットの「I(アイ=愛)」に見立て、【あい(I)さい(31)】の語呂合わせにちなみ、日本愛妻家協会が記念日を制定しております。
さて本日の怪談は……
「遊び」
蕪城さんが高校生だった頃の話。
家の近所に、通りに面した空き地があった。
有刺鉄線で中に入れないようになっているのだが、その杭の一つにひょっとこのお面が乗っかっていた。
誰かが置き忘れたのか?
にしても、少々不自然な形である。
立て掛けられたというのでもなく、お面自体が杭の上に自立しているのだ。
よく見れば、微妙に動いている。
目が口と同じ方向に寄っており、窄められた口からは〈フーッ、フーッ〉と息を吹き出していた。
頬に小さな葉っぱが貼り付いている。
明らかに嬉々とした表情で、必死にその葉っぱを吹き飛ばそうとしているのである。
唖然として見ていたそのとき、突然起こった一陣の風。
ひらりと頬の葉っぱを掬い取っていった。
少しの間、茫然と葉っぱを見送っていたひょっとこの表情が失意に変わる。
如何にも落胆したという感じで、口から力を抜いたそれと目が合った。
その瞬間、ひょっとこは酷くバツが悪そうな顔をして、じわりと消えた。
それから半年ほど経った、友人宅からの帰り道。
蕪城さんは、前方から幽かに鈴の音がするのに気付いた。
目線を上げると、ブロック塀の上に猫がいる。
そのすぐ横にあのひょっとこがいた。
寝ている猫の首輪に付いた小さな鈴に息を吹き掛けている。
どうやら、鈴を鳴らすことを遊びとして打ち興じている様子である。
窄められた口とは対照的に、その目は好奇と歓喜に見開かれ実に楽しそうだ。
そうこうしている内に、少々強く吹き過ぎてしまったらしい。
猫が身を起こして耳を掻く。
「ふぅるるるる」
警戒するように一声鳴いて、猫は塀から飛び降りてしまった。
ひょっとこは走り去る猫を見送るように、こちらへ裏面を向けている。 そうして蕪城さんにお面の裏側を見せたまま、何とも寂しい雰囲気を漂わせてじわりと消えた。
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「遊び」ねこや堂『恐怖箱 百聞』