霊現象は人間だけじゃない!深海魚からペットまで生き物たちの不思議で怖い実話大集合『いきもの怪談 呪鳴』(戸神重明/著)試し読み
命あるものすべてに霊魂は宿る――。
植物から昆虫、魚類、爬虫類、鳥類、ほ乳類まで
生き物たちの不思議で恐ろしい実話を徹底取材。
あらすじ・内容
雑草から聞こえる苦悶の声、草を刈ると事件が…「哭く雑草」
土座衛門から子供を守ったリュウグウノツカイ…「午後の漂流」
山で行方不明になった猟犬が夢で飼い主に場所を知らせる…「犬捜し」
人語を使って人をおびき寄せる羆…「名前を呼ぶモノ」
イタチの狩りを目撃すると人が死ぬ…「イタチの狩り」
出張先で鬼女から救ってくれた猫の霊…「麦」
捨てたアカミミガメの呪い…「野良亀」
ハシブトカラスを操る男の恐ろしき正体…「鴉の王」ほか、34話収録。
著者コメント
動物怪談といえば、一般的には犬猫か、狐狸の話が大半だろう。
植物怪談といえば、御神木を伐って祟られる話が多いと思う。
本書もその類いの話を全体の四分の一程度は収録しているが、残りの四分の三はできるだけマニアックな生き物の話を収録できるように、現時点ででき得る最大限の努力をした。
それだけに、多くの読者が今まで読んだことがないような本、ほかの作家にはなかなか書けない本に仕上がっていると思う。
怪談が好きな方にはもちろんのこと、これまで怪談を読んだことがなかった生き物好きな方にもぜひ、読んでいただきたい一冊である。
試し読み1話
「ヒョウモントカゲモドキの夢」(「死んでしまった動物たち」より)
女子大生のJさんは、中学生の頃から三頭のヒョウモントカゲモドキ(レオパードゲッコー)を飼っていた。これはインド、パキスタン、アフガニスタンの岩山が多い砂漠に生息するヤモリの仲間である。昆虫が主食で、コオロギやミルワーム(ゴミムシダマシの幼虫)を与えると、よく食べる。性質がおとなしい上、尾を除いた体長が雄で十六センチ、雌で十三センチ程度までと、大きくならないことから、飼いやすい爬虫類として知られている。本来の体色は黄色と黒の豹柄だが、さまざまな色彩の品種が作出されている。
しかし、Jさんは東京の大学に進学し、地元を離れてペットの飼育が禁じられているマンションに住むことになったため、実家の母親Mさんに飼育を頼んでいた。Mさんも動物が好きで、大事に世話をしてくれていたらしい。
だが、二〇二一年の十二月、Jさんは未明に嫌な夢を見た。彼女は実家にいて、ヒョウモントカゲモドキがいる水槽を覗く。すると、二頭がこちらに近寄ってくるのだが、〈おはぎ〉と名づけた雌だけは奥のほうにいて、目を閉じてぐったりとしている。
「どうしたの、おはぎ?」
と、呼びかけながら掌に乗せてみると、おはぎは目を開けて、「今までありがとう」と日本語で言い、再び目を閉じた。
死んでしまったのである。
そこで覚醒したJさんは気になって、夜明け前にLINEでMさんにこう伝えた。
『おはぎが死んじゃう夢を見たんだけど、様子を見てくれない?』
夜が明けてから返信があった。
Mさんが様子を見に行くと、本当におはぎが死んでいたのだという。飼育下では十五年ほど生きるといわれているが、入手したときには既に成体になっていたので、寿命だったのかもしれない。とはいえ、二日前に餌を与えたときにはよく食べて、体調が悪いようには見えなかったので、Mさんは驚き、落胆していたそうである。
―了―
朗読動画
3/25 18時公開予定
著者プロフィール
戸神重明 Shigeaki Togami
群馬県出身在住。単著に「怪談標本箱」シリーズ(『生霊ノ左』『雨鬼』『死霊ノ土地』『毒ノ華』)、『上毛鬼談 群魔』『群馬百物語 怪談かるた』『恐怖箱 深怪』。その他、『田舎の怖イ噂』『恐怖箱 煉獄怪談』『怪 異形夜話』など共著多数。地元の高崎市で怪談イベント「高崎怪談会」を主催、その傑作選を纏めた『高崎怪談会 東国百鬼譚』では初の編者も務めた。多趣味で昆虫、亀、縄文土器、スポーツ観戦、日本酒などを好む。Twitterアカウント@togami10