【電子書籍】令和6年、1日1話の日めくり怪談集『ヒビカイー366日の怪談#2024』(加藤一/編著)元旦リリース決定!編著者コメント掲載
1年366日怪談が楽しめる大ボリューム本が電子書籍で発売決定!!
発売日は令和6年元旦!
内容紹介
一日一怪。366日「怖い」が楽しめる日めくり怪談集。
ゾクっとくる日、不思議な日、じんわり肝の冷える日、不安の棘が抜けない日……
4人の怪談作家が全国から聞き集めた色とりどりの恐怖をゆっくりじっくりご堪能あれ。
現在は入手困難な幻の文庫「恐怖箱 百聞「恐怖箱 百舌」「恐怖箱 百眼」「禍禍―プチ怪談の詰め合わせ」を再編し、文庫未収録の蔵出し怪談もを追加した令和の大合本、怒涛の874頁!
編著者コメント(加藤一)
どうも。怪談作家歴33年くらいの加藤です。
日めくりカレンダーって、そういえば昔は一家にひとつくらいあって、子供がそれを捲るのを楽しみに……しているのはだいたい松の内くらいまでで、2月に入る頃には捲るのに飽きていて、怒られながら忘れた分をまとめて破る、というのが昭和の定番だった気がします。
さて、本書は怪談日めくりカレンダー的なコンセプトで、一日に一話ずつ小粒の怪談を読んでもらおう、というコンセプトで、noteの竹書房怪談文庫公式で2022年2月から展開されていた『日々怪談――ヒビカイ――』の電子書籍版です。
というより、元々ヒビカイは、恐怖箱の百物語シリーズ「百式」の初期三部作+加藤が2004年に二見書房で上梓した『禍禍――プチ怪談の詰め合わせ』から選んだ話を展開するものでしたが、あの企画365日分でしたよね。この4冊合わせると、実は365話じゃ足りないくらいあるんですよ。未収録怪談も含めて394話。
『禍禍』もですが、これに神沼三平太さん、高田公太さん、ねこや堂さんのクセ者怪談作家お三方とともに編んだ百式初期三部作の『恐怖箱 百聞』『恐怖箱 百舌』『恐怖箱 百眼』を合わせた4冊は、実を言うとこれまで電子書籍にはなっていませんでした。
竹書房が電子書籍と紙の文庫本のサイマル配信(同時発売)を始めたのは2016年頃からなのですが、それより以前に発売された文庫本の中には、電子復刻されていないものがまだあと80冊くらいあるんです。実質的に絶版になっている本もたくさんありまして、古本屋ですら手に入らないものもちらほら。でも、編集済みマスターデータは僕の手元にある。
となると、やはり読んでいただきたくなるじゃないですか。
よーし、どうせなら合本にしようぜ! 大合本!
全部まとめて一冊にしよう! 紙の文庫本じゃできないことやるぜ! 電子専売の電子復刻本だしね! 書いたけど何でか入れなかった未収録怪談あったよね。それも入れよう!
……と、調子に乗っていたら、874頁というバカみたいな分厚さになりました。これが紙の本だったら、京極夏彦先生に迫れる厚みです。
「幾らで売るんですか? えっ、2800円?」
竹書房、強気だなあw と思いますが、御安心下さい! その他の怪談文庫作品同様、Kindle Unlimitedでも読めます!
前述の通り、未だ電子書籍化されていない既刊、絶版本はまだまだたくさんありまして。
今後はこれらの埋もれた(今や入手困難な)作品群を逐次電子化していきたい、と考えています。例えばつくね乱蔵さん、雨宮淳二さん、松村進吉さん、久田樹生さん他、今やベテラン作家となった面々が、10数年前に怪談作家公募企画『超‐1』でデビューしたときの応募作品が収録された作品集とか、未だに電子化されてないんですよ。
人気作家となった洋介犬さんが、うえやま洋介犬だった頃に西浦和也さんとタッグを組んで出した『妖幽戯画』なんかも未だ電子化されていません。今読んでも全然遜色なくて面白いのに。
こうした怪異伝承怪談のいいところは、存外古びない、ということ。
体験者の記憶を漁って、昔の話を思い出していただくことが多いせいもありましょうが、時を経ても時代を重ねても、「体験者が確かに実在していた、あのすこぶる怖い話」というのは、飽きず朽ちず繰り返し読めるものです。
今回、再編集のために著者一同で全作に目を通し直したんですが、
「こんな話あったっけ」
「すっかり忘れていた」
「やっぱこの話、何度読んでも最高だわ」
という具合に盛り上がりました。
これは読者の皆様にも我々同様盛り上がっていただきたい。何度も読んでいただきたい。
といった訳で、電子復刻シリーズ、ハレの第一巻たる『ヒビカイ』を、2024年1月1日というこれまたおめでたい日に電子版のみの刊行の運びとなりました。
是非買って、いやサブスクでいいので読んでいただければ、と思います。
試し読み(ボーナストラックより)
「笑い鼠」神沼三平太
桑田さんは専門学校時代に、友達の実家に遊びに行った。友達の出身地は散居村と呼ばれる集落形態で有名な地域だ。広い田んぼの中に防風林に囲われた一角があり、その内側に屋敷が建てられている。案内された屋敷は古くて立派な造りだった。
遊んでいると、思ったよりも時間が過ぎるのが早かった。気付けばもう電車の時間だった。しかし、友達に押し切られ屋敷に泊まることになった。
ご家族に歓待されて夕飯をごちそうになった。
夜十一時を過ぎ、桑田さんは客間に布団を敷いて友達と並んで寝ることになった。
客間は十畳以上ある部屋だが、襖で仕切られたその部屋には家財道具がまるでなかった。
屋敷自体が広いこともあり、ここではこれが普通なのかと気にせず床に就いた。
旅の疲れもあったのだろう。すぐに意識が落ちた。
ふと桑田さんは夜中に人の声で目が覚めた。大勢の声が桑田さんのことを話している。
この家には、友達のご両親とお兄さんしか住んでいないはずだ。明らかに人数が多い。
薄目を開けて声のするほうを見ると、拳よりも一回り大きいぐらいの丸いものが、部屋の隅に沿って一列にずらりと並んでいた。ネズミか何かだろうか。
目が闇に慣れると、それには、尻尾だけではなく手足すらないのが分かった。丸い毛玉だ。毛玉が人の声で会話していた。
暫くすると毛玉は会話を終え、部屋の隅に集まって柱を垂直に上り始めた。
天井に穴はないが、毛玉は柱と天井の角に吸い込まれるように次々に消えていく。
全てが天井に吸い込まれるかと思われたそのとき、その最後の一匹が振り返った。
毛玉には目に当たる物もなかった。薄目で見ていると、その表面が割れて、ぱっくりと口が開いた。半月形に開いた口の中に、白く人間の歯のようなものがあった。
「お前、見えとるか?」
はっきりとした人間の言葉だった。桑原さんはそれに答えず、寝ている振りをした。
するとその毛玉は、人を小馬鹿にするように嗤い、
「お前は要らん」
と言って天井の角に消えた。
その後も、暫く天井裏から小声で桑原さんを値踏みする声が続いた。
桑原さんは、自分が一方的に値踏みされていることにカチンと来て声を上げた。
「ほっとけ! こっちからお断りだ!」
すると声がぴたりと止み、天井を揺するような大笑いが響いた。家全体が揺れていた。
地震だ。桑原さんは上半身を起こし、隣で寝ているはずの友達を確認した。
どうも友達は意識があるようだった。だが目も開かず、声を掛けても返事もしない。
狸寝入りだ。顔を近付けてみると、瞼の下で目が動いている。不信感を抱いたが桑原さんは諦めて布団を被った。
翌朝、友達はそのことには一切触れなかった。
夜に地震があったかと桑原さんが訊いても、知らないという。
桑原さんは首を傾げたが、トイレに行く途中の廊下で偶然、友達のお母さんが、
「あんな気の強いの、そりゃ要らんわ」
とお兄さんに話すのを聞いた。その言葉に、家族全員が何かを隠していると確信した。
桑原さんは、朝食をいただいた後に逃げるようにその屋敷を出た。
何かを試されたようで気持ち悪く、それ以来友達とは疎遠になってしまった。
ただ、専門学校の卒業のときに、その友達から謝られた。
何か訳があったのなら聞いてあげれば良かったと、今では少し申し訳なく思っている。
―了―
著者紹介
加藤一(かとう・はじめ)
1967年静岡県生まれ。老舗実話怪談シリーズ『「超」怖い話』四代目編著者。また新人発掘を目的とした実話怪談コンテスト「超-1」を企画主宰、そこから生まれた新レーベル「恐怖箱」シリーズの箱詰め職人(編者)としても活躍中。近著に『「弔」怖い話 六文銭の店』、主な既著に『「弩」怖い話ベストセレクション 薄葬』、「「忌」怖い話」「「超」怖い話」「「極」怖い話」の各シリーズ、「怪異伝説ダレカラキイタ」シリーズなど。
神沼三平太(かみぬま・さんぺいた)
神奈川県茅ヶ崎市出身。大学や専門学校で非常勤講師として教鞭を取る一方で、全国津々浦々での怪異体験を幅広く蒐集する。著書に『実話怪談 揺籃蒐』『実話怪談 凄惨蒐』、ご当地怪談の『甲州怪談』『湘南怪談』、三行怪談千話を収録した『千粒怪談 雑穢』など。最新作は若本衣織、蛙坂須美との共著『怪談番外地 蠱毒の坩堝』、その他共著に「恐怖箱 百式」シリーズなどがある。
高田公太(たかだ・こうた)
青森県弘前市出身、在住。O型。実話怪談「恐怖箱」シリーズの執筆メンバーで、元・新聞記者。主な著作に『絶怪』『恐怖箱 青森乃怪』『恐怖箱 怪談恐山』、編著者として自身が企画立案した『実話奇彩 怪談散華』、煙鳥・吉田悠軌と組んだ「煙鳥怪奇録」シリーズ、その他共著に『奥羽怪談』『青森怪談 弘前乃怪』『東北巡霊 怪の細道』、「恐怖箱 百式」シリーズなどがある。
ねこや堂 (ねこやどう)
九州在住。実話怪談著者発掘企画「超-1」を経て恐怖箱シリーズ参戦。現在、お猫様の下僕をしつつ細々と怪談蒐集中。B型。主な著書に『実話怪談 封印匣』、共著に「恐怖箱 百式」シリーズ、『追悼奇譚 禊萩』、「現代実話異録」シリーズなど。ーズ既刊