2022年2月1日
【今日は何の日?】2月1日:テレビ放送記念日
日本のテレビ本放送が始まったのは、昭和28年(1953年)。この年の2月1日、NHK東京放送局でスタートしたことにちなんで制定された記念日です。
さて本日の怪談は……
「踏み板」
倉田さんは店舗の内装専門の職人である。
五十の坂を越え幾星霜。未だ独身の彼の趣味は、仕事の後の食べ歩きである。
酒が飲めない倉田さんはとにかく食べるほう専門で、美味いものがあると聞けば全国津々浦々何処にでも駆けつけるという熱心な食い道楽だ。
本人の談によれば、毎日仕事の現場から近場にある美味い店をネットで探し出し、その店に行くことだけを心の頼みに一日の仕事を頑張るのだ。そもそも家族に気兼ねなく美味いものを食いたいがために、男やもめの生活を貫いているのだと嘯く。
その日は現場の仕事を終えると、倉田さんは事前にネットで絶品と噂されている餃子屋に乗り付けた。もちろん現場から自宅への道すがらである。
機材を目一杯積み込んだバンを店近くのコインパーキングに駐めようと、駐車スペースにバックでそろそろ入庫する。タイヤが踏み板を乗り越え、車止めに突き当たった。ギアをパーキングに入れてエンジンを切る。
車を降り、愛車のドアを勢い良く閉めると、いそいそと店に向かった。
餃子は噂通りの絶品だった。仕事帰りじゃなくても足を伸ばしたくなる味で、これはいい店を見つけたとほくほく顔でコインパーキングまで戻った。
上機嫌のまま精算機のボタンを押し、指定された金額を支払った。
踏み板の下がる音が聞こえる。
だが、その音がいつまでも止まらない。モーターは動いているのだが、踏み板が下がり切らないようだ。
倉田さんは舌打ちして車の下を覗き込んだ。
案の定、踏み板はまだ上がったままだ。踏み板と地面の間に、キャベツを思わせる歪な球のようなものが挟まっていた。誰かが悪戯でもしたのだろう。蹴り跳ばして外そうと倉田さんが足を出しかけたとき、その丸いものが声を放った。
「おっさん、まさか酒飲んでないよな」
ぎょっとして再び覗き込むと、先ほど厨房にいた店主の頭が踏み板に挟まっていた。倉田さんが声を掛けようとすると、踏み板の下で白菜か何かのようにぐしゃりと潰れた。
その瞬間、周囲は強烈なニンニク臭に包まれた。
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「踏み板」神沼三平太『恐怖箱 百舌』