リアル呪術戦!現代に息づく呪いと神秘の怪異譚『現代異談 首塚の呪術師』著者コメント&収録話「転倒」全文掲載
「あれはイズナ使いだ…」
憑き物を操る見鬼に仕掛けられた現代の呪術戦。
首塚で行われていた驚愕の儀式とは?
――表題作「首塚の呪術師」より
内容紹介
異形・あやかしの類は人の強い想いに魅かれてやって来る。
想いこそが心霊現象や、念の異形といったものを生み出すのだ……。
・飲み会の写真で背後に写る生霊は自分を執拗に付け回しているネットストーカーの男で…「青い男」
・ある事故に遭遇してから視えるようになった女子高生が通学バス内で体験した恐怖…「紐」
・人間によって住み慣れた場所を突然追われたあやかし達の怒り…「井戸と楠」
・将門の首塚で祭壇を組み、怪しげな呪術を行う男。 男に目を付けられた著者は旧友を使い魔にされ、壮絶な呪術戦を仕掛けられる…「首塚の呪術師」 など、現代に息づく呪いと神秘の怪異譚全22話収録。 著者自身の戦慄〈魔〉体験!
著者コメント
1話試し読み
転倒
筆者がまだ二十代の頃の話である。
ちょうど一度目の転職をしたばかりで、漸く仕事にも手慣れてきた辺りの頃。職種は自動車関係であったが、そこの先輩社員の飯山さんと同時に仕事上がりとなった。先輩といっても飯山さんは当時の私より四つ年下で、二十歳になったばかり。仕事はできるが大変気性の激しい性格で、裏の顔は元暴走族のリーダー。
やはり強面が売りだった職場の所属長とも平気でぶつかり合うという、正真正銘「イケイケ」のノリの方で、当時の私は、とんでもないところに就職したなと思っていた。
その飯山さんと、ロッカールームで着替えていると、
「えっ?」
上着を脱いだ飯山さんの上半身、胸のど真ん中から腹部にかけて、一文字に切り裂いたような、巨大な手術痕が目に入ったのである。
「飯山さん、それどうしたんですか?」
「ああ、これな……」
飯山さんは、らしくない苦笑いをしながら、巨大な手術跡の謂われを語ってくれた。
私が配属になる二年前、既に飯山さんはその職場で働いていたが、裏の顔は暴走族のリーダーである。無免許で後輩達を引き連れて七五〇バイクを乗り回し、首都高や湘南で暴走していたという。いつか事故を起こすからと所属長からこっぴどく叱られても「自己責任っスから」と強気で取り合いもしない。
その日の夜も飯山さんは後輩十数人を引き連れて、鎌倉・湘南周辺を爆走していたそうである。その途中に、あの心霊現象で有名な「小坪トンネル」があった。
「小坪トンネル」といっても、現在は「新道」と「旧道」が存在する。
彼等が通り掛かったのは頭上に火葬場があるという、あの「曰く付き」のトンネルの方である。
「いいかぁ、お前らぁ!」
飯山さんは、小坪トンネルの手前でバイクを止めると、
「もたもたしてんじゃねえぞ、今夜は飛ばすからな。お前らぁ、気合い入れて、死ぬ覚悟でついてこいやぁ!」的な檄を飛ばし、そのままトンネル前に鎮座している、工事の事故犠牲者のために建立されたというお地蔵様に向かって小便を放った。
当時「小坪トンネルの怪談」といえば「フロントガラスに手形が付いた」という女性タレントCの強烈な体験談がマスコミを賑わしていて、心霊関係に疎い人間でもテレビや雑誌で一度は耳にしているという、そんな場所である。
「やっぱり飯山先輩は凄えゃ!」と後輩達は大盛り上がり、甲高い排気音と奇声を張り上げて、十数台のバイクは国道を疾走し始めた。
ところが。
先頭を切っていた飯山さんの七五〇のハンドルが、突然左へと引っ張られた。
バイクは火花を散らしながら横転し側壁に激突、慌てた後輩達が駆け付けると、ハンドルが飯山さんの腹部を貫通していたという。
「こいつはそんときの手術痕なんだよ。術後も三日三晩意識がなくて、医者も助からないかもなんて言ってたらしいぞ。俺は怖いもんなんかないけど、お化けだけにはもう手は出さねえよ。お前もお化け舐めちゃ駄目だぜ?」
飯山さんは照れ臭そうに笑って、話を締めてくれた。
―了―
著者紹介
籠 三蔵(かご・さんぞう)
埼玉県生まれの東京都育ち。山野を歩き、闇の狭間を覗く、流浪の怪談屋。尾道てのひら怪談大賞受賞。主な著書に『方違異談 現代雨月物語』『現代雨月物語 物忌異談』『現代雨月物語 身固異談』『現代雨月物語 式神異談』、共著に『高崎怪談会 東国百鬼譚』(ともに竹書房)がある。