2022年2月13日
【今日は何の日?】2月13日:苗字制定記念日
今は国民誰もが持つ苗字ですが、江戸時代は武士と貴族しか苗字を使っておらず、一般人は名前しか持つことができませんでした。
明治になり、1870年9月19日に「平民苗字許可令」が出され、誰もが苗字を名乗って良いことになったものの、識字率も低く、さほど苗字は浸透していきませんでした。そこで、1875年2月13日、今度は「平民苗字必称義務令」が布告されました。これによって、許可から義務へと一歩踏み込み、すべての国民が苗字を名乗ることになっていったのです。
2021年の珍しいレア苗字ランキング(名字由来net様より)
鬼滅のオンパレードですね!
さて、本日の怪談は――
「たぁすけてぇー!」
「たぁすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――!」
真夜中。
根元のアパートに絶叫が響き渡った。
「わっ! なんだ。なんだなんだ!?」
驚いて枕元の目覚まし時計を見ると、午前一時を指している。
断末魔の絶叫、助けを求める叫びだ。
寝入りばなの根元は、すわ事件か、俺もついに第一発見者としてワイドショーに出る日が来たかと内心ワクワクしながら、アパートの廊下に躍り出た。
が、他の部屋からは誰も出てこない。
叫び声もその一度きりで、続きもない。
どうやら痴話喧嘩か何かのようだ。
「くそう、つまんねえことで俺を起こしやがって……」
その翌日の真夜中。
「たぁすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――!」
再び叫び声が聞こえた。
「またかよ!」
絶叫は、どうやら隣の部屋から聞こえるらしい。
「どうかしましたかー!?」
壁越しに叫び返してみても、返事はない。
「たぁすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――!」
真夜中の絶叫は、ほぼ毎日続くようになった。
時間はまちまちで、宵の口のこともあれば明け方近くのこともある。
ただ決まって、「たぁすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――!」と叫ぶ。
一度や二度はまあ、許す。根元だって友人と部屋で騒ぐこともある。
しかし、こう毎日毎日続いたのではたまったものではない。
その日、とうとう意を決して隣人に文句を言うことにした。
仕事を早めに切り上げて、夕方、隣人が帰るのを部屋の入り口で待つ。
そういえば、隣人とは滅多に顔を合わせることがないので、学生らしいということ以外は何も知らなかった。
外階段を登る足音が聞こえてきた。どうやら帰ってきたようだ。
根元はドアを開け、隣人を呼び止めた。
「ちょっと!」
「なんすか?」
ギターケースを背負った茶髪の男は不審そうに振り向いた。
「あんた、夜中に叫ぶのやめてよ。うるさいんだよ」
「知らねえっすよ」
「知らないはずないだろう。あんたんとこから、毎晩毎晩〈たすけて〉って」
しかし、隣人は「知らない」の一点張り。
「だから、知らねぇったら知らねーつぅの。しつけーよ、オッサン!」
つかみ合い寸前。
「と、とにかく。女連れ込むのもあんたの勝手だし、どんなプレイしてんのか知らないけど、死人が出るような遊び方はやめろよな!」
根元は大人のゆとりを見せるため、捨て台詞を残して詰問を切り上げた。
「たぁすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――!」
結局、この叫び声はその後も毎晩続いた。
そのたびに壁に蹴りを入れていたのだが、収まることはなかった。
そのうち、隣人が引っ越していった。
挨拶はなかったので、引っ越しの理由は知らない。きっと就職か何かだろう。
週末、トラックに荷物を運び込むために階段を上り下りする騒がしい足音が一日中続き、陽が暮れる頃には静かになった。
――その夜。
「たぁすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――!」
誰もいない隣の部屋から、絶叫が聞こえてきた。
「たぁすけてぇー!」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』