2022年2月22日

【今日は何の日？】2月22日：猫の日

猫にゃんにゃんにゃん、で有名な猫の日です。
アニコム損害保険株式会社が発表している2021年度人気品種ランキングによりますと、TOP５は
1位　スコティッシュ・フォールド
2位　マンチカン
3位　混血猫
4位　アメリカン・ショートヘア
5位　ノルウェージャン・フォレスト・キャット
だそうです。みんな可愛いですね。

　さて、本日の怪談は――

「指」

　宇垣が携帯を買い換えたのは割と最近のことだ。

「通話ができればいい」と言い張って、ずいぶん型遅れの携帯を使い続けていたのだが、そろそろ限界と思っていた矢先にトイレに落とした。

「ケータイくらい、いい加減に買い換えろよ。いい機会だよ。世の中の時流に乗ったものにしろっていうことだよ、それは」

　友人の口車に乗せられて買った新型の携帯は、カメラ付きのもの。

　それまでカメラ付き携帯など興味もなかった宇垣だが、一度新型を手にしてしまうといろいろと機能を使ってみたくなる。

　これまでとは打ってかわって、人物だ、スナップだ、猫だ、車だと撮り始めた宇垣は、 〈カメラ付き携帯で写真の面白さに目覚めた男〉とまで言われた。

　そのくせ「もっと高性能なデジカメを買おう」というところには進まずに、「せっかく買ったんだから、このカメラ付き携帯で極めよう」という方向に行ってしまうところが、宇垣という男の性格を表しているとも言える。

　その日のテーマは「風景」に決めていた。

　車を出して近辺を走ってみる。

　街中の風景に飽きた宇垣は、友人と二人で郊外の山道を目指した。

　小さな山が連なる見晴らしのいいカーブに車を停めると、すっかりお気に入りになった携帯を取りだし、そこからの景色を撮った。

　たかが携帯のカメラにすぎないのだが、宇垣は携帯を縦に横にと動かしては一丁前にアングルを決めてからシャッターを押した。

　――シャギッ！

「あれ？」

　保存された画像を見ると、画面の端に肌色の棒が写っている。

「指が入っちゃった。もっぺん撮り直し」

　もう一度シャッターボタンを押す。

「あれぇ？」

　また指が写っている。

　携帯に付いているカメラのレンズの位置が微妙なためか、確かに最初のうちは指ばかり撮ってしまっていた。が、ずいぶん使い込んだ今は、レンズの位置も覚えたはずだ。

「おかしいな……」

　何度撮り直しても指が写る。

　アングルを変えても持ち方を変えても同じだ。

　レンズを確かめてみるが、それには何の問題もない。

　撮り直した画像は、どれもこれも画面の下辺の少し左辺りから右上に向かって、景色を横切るように指が写っている。

「なんか、指が写るんだよな」

　友人は「どれ」と、訝しむ宇垣の携帯を覗き込んで小さく叫んだ。

「げ！　指じゃねーよ、これ！」

　言われて宇垣もよくよく画面を確認してみた。

「え？」

「よく見ろよ！　これ、女じゃん！」

「うわ、マジ！」

　指と思い込んでいた細いものは、確かに女だった。

　確認してみると、それまでに写っていた〈指〉は、すべて同じ女だった。

　ガードレールから俯瞰した山の中腹辺りから、宙に向かって生えたような不自然な位置、不自然な縮尺。

　その女は、何もない宙にぽつねんと浮いていた。

　それっきり、宇垣は携帯のカメラ機能を封印してしまった。

「携帯は通話ができりゃいいんだよ。他の機能なんかなくたっていいんだよ」

　宇垣のポリシーは元の鞘に戻った。

◆

「指」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』

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