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怪談マンスリーコンテスト・3月結果発表


最恐賞「パチンコときつねうどん」ミケとーちゃん

   
佳作「卒業生常連」黒谷丹鵺
  「卒業式」星野戦慄
       「学ランのボタン」鬼志 仁

▼最恐賞作品はコチラから読むことができます

総評コメント

3月ということで、今月のお題は「卒業」
ストレートに卒業式を扱った作品が6割、その他、精神的な何かからの卒業を扱った作品が4割という結果でした。

最恐賞は、パチンコ依存症から卒業する切っ掛けとなった不思議体験を「パチンコときつねうどん」(ミケとーちゃん)。心理描写をリアルに描きながらも冗長にならず、無駄のない文章構成が評価されました。

佳作1作目は、時代を越え何度も卒業アルバムに現れる忌まわしき存在「卒業生常連」(黒谷丹鵺)。こちらはタイトルセンスも秀逸でした。2作目はいじめっ子の卒業証書だけが黒く染まって見える不気味な怪異譚「卒業式」(星野戦慄)。2つの卒業の意味を掛け合わせたオチが良かったです。3作目は、亡くなった妻の遺品に潜む罠「学ランのボタン」(鬼志 仁)。二転三点する展開がドラマチックであり、1000文字怪談の可能性を見せてくれました。

その他、最終候補に「遅刻の理由」(雨水秀水)、「紅白幕」(卯ちり)「卒業制作」(ふうらい牡丹)「さようならタジマ先生。」(音隣宗二)「全員集合」(水曜)「クレヨンの少女」(緒方あきら)、「靄」(heavenly bodies)「名前」(影絵草子)「残っていた」(井川林檎)の9作。今月は接戦で、大変選考に悩みました。本当にどの作品が佳作になってもおかしくない、良作揃いであったと思います。
 
さて、卒業がテーマということで、今回は少ししんみりしたお話、抒情的な怪談が目立ちましたが、実話怪談という枠の中でセンチメンタリズムはどこまで表現してよいものか、これもひとつポイントになってくると思います。
多くの実話怪談は聞き書き恐怖譚、つまり自分以外の誰かが体験した話を取材して綴ったものになります。その場合、体験者の心情に寄り添って描写することは大事ですが、かといってその人になりきってしまってはもはや小説になってしまうという危険があります。
限りなく肉薄しながらも、入り込んで書き込み過ぎてはいけない。
やはり聞き手という第三者の視点で、怪の全貌を捉えんとする冷静な目をどこかに残さなければなりません。
それが、形式的には「~という」という表現になってくるのですが、勿論全部につける必要はなく、要所要所でそれがわかればよいのです。体験者から一歩引いて、客観的な視点に戻るということです。

例えば「怖かった。気づけば涙が頬を伝っていた。その時〇〇さんは悟った。ああ、これは呪いなのか……。」という文。
実際は体験者の〇〇さんから聞いた話なので、厳密には「怖かったという。気づけば涙が頬を伝っていたという。その時〇〇さんは悟ったという。」という伝聞表現になるかと思います。しかしそれでは文がうるさすぎるし、感情移入もできません。
文脈にもよりますが、1か所だけ「という」を使って「怖かった。気づけば涙が頬を伝っていた。その時〇〇さんは悟ったという。ああ、これは呪いなのか…。」とすれば、客観的な視点を保ちつつも、話の主人公(体験者)の心情に肉薄した感じが出せます。

実話怪談はその性質上、リアリティを支える一定のクールさが必要不可欠です。
その上で、体験者の心の動きを生々しく(リアルに)伝えるために、心情に寄り添った主観的表現が求められます。こうして寄りと引きのバランスをうまくとることで、抒情的な怪談も安っぽい芝居にならずに、深い余韻を残せることと思います。

次回、4月のお題は「植物」に纏わる怖い話。種子、草花、樹木……とかなり幅広くなりますので比較的投稿しやすいのではないでしょうか。この春、恐怖と不思議の息吹を感じさせるお話、お待ちしております!

4月期・募集概要

お題:植物に纏わる怖い話

原稿:1,000字以内の、未発表の実話怪談。
締切:2020年4月20日24時
結果発表:2020年4月29日
☆最恐賞1名:Amazonギフト3000円を贈呈。※後日、文庫化のチャンスあり!
佳作3名:ご希望の弊社恐怖文庫1冊、贈呈。

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