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これまでの傑作と最恐「迎賓館」書き下ろし長編を掲載!『西浦和也選集 迎賓館』著者コメント、試し読み、朗読動画

これまでの傑作と最恐「迎賓館」書き下ろし長編を掲載!

内容・あらすじ

怪異と呪いを体現する人気怪談蒐集家・西浦和也が自身の怪談集よ
り、選りすぐった話に加筆したベスト版第2弾。

・日航ジャンボ事故の救助に携わった自衛官が体験した切ない怪異…「かわいいですね」
・駅に勤める男が不思議に思っていたのは事務室にぶら下げられた紙の札。その意味がわかった時…「本日人身事故あり
・とある港町にある映画館で深夜、誰もいないのに映画が上映されるのは…「最後の映画」など。

また、約30年前の警備会社勤務時代に自身が体験し、映画化もされた伝説的怪談「迎賓館」を書き下ろし完全版として初収録!

著者コメント

子供の頃から怪談が大好きで、周りの人から色々蒐集していた私が20代の半ば、直面した初めてと言っていい恐怖体験が「迎賓館」という話です。幸いなことに新耳袋で発表していただいて以降、映画化など様々な場所で取り扱っていただきました。

 長い間の無理がたたったのか、昨年来より体調崩し3回の入退院を繰り返すようになりました。そして今年は、危うく死の淵一歩手前まで行きました。
 そのため元気なうちにこの話を、自らの手で書き残さねばならないと思うようになりました。
 本作は足かけ3年にわたる話を、出来るだけの記憶を掘り起こし、後日談も含め、病床のベッドの上で書き残した完全版になります。
 改めて30年前を思い出すだけで、あの時の不思議な体験が思い起こされます。怪談ではありますが、最後にほっとする恐怖譚を、読後皆さんにも感じてもらえれば幸いです。
 また新作書き下ろしの「獅子の兜」なども収録しました。
 更に他の作品も、できるだけリライトを行い、わかりやすく書き直してありますので、新たな気持ちで楽しんでもらえれば幸いです。
 最初で最後の「迎賓館」の書き下ろし。どうぞ楽しんでください。

試し読み

獅子の兜

 Hさんが、まだ二十代の頃。
「ちょっとしたいさかいで、一時期、夫と別居して実家の近くに引っ越すことになった時のことなんです」
 親戚が持っている、使っていない古い家を貸してもらうことになり、保育園に通う娘とふたり、そこに住むことにした。
 建物は坂の斜面に建っており、地上二階、地下一階のような造りになっていた。
 一階には水周りや台所があり、地下には親戚が置いていった荷物が詰め込まれていた。
 そこでふたりは二階で寝ることにした。
 半年ぐらいは何事もなかったが、八ヶ月を過ぎる頃。
「かいだんのつきあたりのおへやにオシシがいるの」
 そう言って、娘が二階に上がるのを嫌がるようになった。
「オシシって、もしかして獅子舞ししまいのオシシ?」
「うん、あかいおかおなの。それがおへやのまんなかで、よこむいてるの」  
 二階の突き当たりの部屋といえば、自分たちの荷物が置いてある小さな部屋だ。しかし自分も何回も部屋をのぞいているが、そんなものは一度も見たことがない。
 毎日泣いて嫌がるため、結局、娘と一緒に一階の台所で寝るハメになってしまった。
「それは困ったわね。私が一度見てあげようか?」
 Hさんの話を聞いた保育園のママ友、さゆりさんが言った。
「私、ちょっとした霊感があるから、わかるかもよ」
「ほんと? それは助かるわ。よろしくお願いします」
 さゆりさんに霊感があっても、果たして娘の言うオシシが見えるかどうかは疑問だ。
 しかし、娘が二階に上がるのを嫌がる理由が少しでもわかればいいと思い、Hさんは家に彼女を招き入れた。

 さゆりさんは家に入るなり、話もそこそこに階段を上がり始めた。
 やがて、二階の突き当たりの部屋が見えるところまで来ると、階段の途中で立ち止まり、じっと目をらした。
「どう? 何か見える?」
 そう訊ねたHさんの目の前で、さゆりさんは腹を抱えて笑い出した。
「あはははは、獅子だよ、確かに獅子だ」 
「ホントに?」
「でも、ちょっと違うのよ。あれは生首よ」
「生首? 獅子舞の?」
「違う違う。赤い獅子のかぶとを被った男の生首。それが、こっちを向こうとしている……」
 さゆりさんの話では、この生首がゆっくりと階段の方に向きを変えていて、こちらを向いた時に目が合ってしまったら、悪いことが起きるかもしれないということだった。 
「なんとかできないの?」
「今日は準備してないから、今度来た時にはらってあげる。そうだ、来週の保育園の卒園式が午後からだから、午前中にやっちゃおう」
「うわぁ、ありがとう。じゃあ、よろしくね」 
 ということで、除霊は翌週、卒園式の日の午前中と決まった。

 卒園式前日、さゆりさんから確認の連絡をもらい、午前十時に家に来てもらう約束になった。
 当日の朝、娘とふたり、家でさゆりさんが来るのを待っていたが、十一時を過ぎても十二時を過ぎても連絡もなく、結局、さゆりさんは現れなかった。
 そろそろ、出かけないと保育園の卒園式に間に合わない、という時間になって、さゆりさんの家から電話がかかってきた。
 電話をかけてきたのは、さゆりさんの旦那さんだった。
「朝方、お宅に寄ってから卒園式に向かうと聞いていたんですが、まだ保育園に来てないんです。用事はまだ終わってませんか?」 
「えっ? さゆりさん、うちに来てないんですが……」
 結局、午後に行われた保育園の卒園式にも、さゆりさんは現れなかった。
 すぐに捜索願が出されたが、さゆりさんは見つからなかった。 
 後日、Hさんは夫の謝罪で和解し、再び同居することになり、借りていた家を引っ越した。
「私がうっかり除霊を頼んだから――さゆりさんが来られないように、生首に行方不明にされたんだと思うの……」
 Hさんは、元気なさげにそう話した。
 今もさゆりさんは、見つかっていないそうだ。

―了―

著者紹介

西浦和也 (にしうらわ)

不思議&怪談蒐集家。心霊番組「北野誠のおまえら行くな。」や怪談トークライブ、ゲーム、DVD等の企画も手掛ける。イラストレーターとしても活躍する。単著に「現代百物語」シリーズ、『西浦和也選集 獄ノ墓』『実録怪異録 死に姓の陸』『帝都怪談』、共著に『出雲怪談』『現代怪談 地獄めぐり』などがある。

シリーズ好評既刊

シリーズ第1弾! 獄ノ墓

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