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2022年2月10日

【今日は何の日?】2月10日:布団の日

ふ(2)、とん(10)の語呂合わせにちなみ、全日本寝具寝装品協会が2月10日を布団の日として記念日に制定しております。

 さて、本日の怪談は――

「美髯公伝」


 香港返還前に華僑の方から伺った話である。

 彼は三国志に出てくる関羽を信仰しているのだという。華僑は元々関羽信仰の篤い山西省の商人達を祖にしていることもあり、彼らの中では割と一般的なのだそうだ。確かに横浜中華街にも立派な関帝廟がある。

 その人が社長を務める会社のオフィスビルにも、小さいながらも立派な関帝廟が設えてあり、また関羽の立像も祀られている。

 当時、会社ではビルの建築なども手がけていたが、あるときマンションを建てる際に、敷地にあったお社を、正式な手続きを経ずに取り壊してしまった。

 その日から、夜になると真っ白な服を着た、髪の長い女が夢枕に立つようになった。

 寝ていると女が馬乗りになって首を絞めてくる。

 朝になって嫌な夢を見たと思って鏡を見ると、首に、はっきりと赤黒い指の跡が付いている。自分の手よりもひと周り小さい手の跡を見て、これは何かの呪いに掛かっていると思い至った。

 そこで関帝廟で、ただひたすら「関羽様、悪霊を追い払って下さい」と念じ続けた。

 深夜、寝ていると再び女が現れた。

 仰向けに寝ている自分に覆い被さるようにしてぎゅうぎゅうと首を絞めてくる。必死になって藻掻いても、指先の力が緩む気配がない。

 もう駄目だと思ったそのとき、女の背後に巨大な影が現れた。天井に頭を擦るのではないかというほどの背、厚みのある立派な体躯。黒々とした立派な髭を胸元まで伸ばした、赤い肌をした武人の姿であった。

 関羽であった。

 関羽は息を吸い込み始めた。ひゅうひゅうという音とともに、室内に強い風が巻き起こった。覆い被さっていた女は、その風とともに関羽の口に吸い込まれていった。

 女が消えると関羽も消えた。

 それ以来、女は二度と現れることはなかった。

「美髯公伝」神沼三平太『恐怖箱 百舌』

☜2022年2月9日 ◆ 2022年2月11日☞