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現在進行形の厭ナ話、絶望まみれの恐怖譚!『血反吐怪談』(つくね乱蔵)内容紹介&著者コメント&試し読み1話「切り過ぎ」公開!

今年最後、最凶の厭怪談が登場!

あらすじ・内容

現在進行形の厭ナ話、絶望まみれの恐怖譚39話!
「何故、肉片が動くのだ。」
今も肉片は新鮮なままで現れる。いっそ、食べてしまおうか――
収録作「新鮮」より

決してスッキリとは終わらない〈厭〉がいつまでも後を引く…。
◆家族二人ずつで居間に出入りするという奇妙な日常生活、その理由とは…「村越家のルール」
◆移住した古民家の屋根裏にある謎の引き戸は…「猿専用」
◆回収しても何度もゴミ集積所に現れるフランス人形はかなりヤバい代物で…「ギロチン人形」
◆正式な手続きを踏まずに神像の身を削り取ってお守りを作ってしまった結末は…「聖域」
◆自慢の娘の衣服にある時から血痕が付くようになり…「血の娘」

ほか、血反吐を吐くほどの救いようのない絶望が次々と襲う最凶怪談全39話を収録!

著者コメント

今回の単著、あえて厭の字を外した。ありがたい事に『厭といえば、つくね乱蔵』のイメージが浸透している。わざわざタイトルに載せなくても、厭系なのは明らかなのである。
もちろん、今回も厭系なのだが、一筋縄ではいかない話を集めてある。
どうか、年末年始を血塗れで過ごしていただきたい。

試し読み

「切り過ぎ」

  祐子さんは結婚して、今年で四年目。
 夫の孝さんは大学の同級生である。ゼミもクラスもサークルも同じだった。
 孝さんは特待生に選ばれるほどの優秀な頭脳の持ち主だ。
 スポーツも万能で、テニスサークルのキャプテンを務めていた。
 素人離れした外見は、モデル事務所からスカウトされたほどだ。
 実家も資産家で何不自由ない学生生活を謳歌できるのだが、それに甘んじることなく学費も生活費もアルバイトで稼ぎ、質素な生活を営んでいた。
 高級なブランド品ではないが、清潔感が溢れる服が暮らしぶりを現している。
 誰にでも分け隔てなく優しく、子供が大好きで、料理も得意という完璧な男性だ。
 当然ながら、只事でなくモテる。本人にその気は一切ないのだが、常に周りを女性が囲んでいる状態だ。
 対する祐子さんは、見た目そこそこ、運動は大の苦手、勉強は中の下をうろついている。
 本人自らが言うには、嫉妬深くて猜疑心も独占欲も強い。
 孝さんの周りどころか、同じ空気を吸う資格もないような女性だ。
 祐子さん自身もそれはよく分かっており、自分には縁がない世界の人だと思っていた。
 早い話、芸能人に憧れるのと同じレベルだ。
 こうして一ミリも接点がないまま、二人は卒業した。
 孝さんは一流の商社、祐子さんはそこそこの会社で社会人デビューを果たした。
 本来なら、それで終わりの話だ。ところが、縁結びの神様の気紛れか、この二人が町中で偶然出会ってしまったのである。
 誰に対しても分け隔てなく接してきた孝さんは、当然のように声を掛けてきた。
 コーヒーでも奢るよと夢のような言葉を投げてきた。
 たったそれだけのことなのだが、祐子さんには運命と思えた。
 孝さんは、新人ながら大きなプロジェクトを任されているとのことだ。
 夫にするならこんな人がいい。この人しかいない。
 日頃のストレスのせいか、祐子さんは正常な判断ができなかった。
 自分の能力や容姿を棚に上げ、孝さんを取り巻く女達を除去すれば良いと思い込んだ。
 容量の少ない脳を加熱するほど使い、様々な手段を考えたが、いずれも上手く行きそうにない。
 こうなったら神頼みしかない。
 思い出したのが、故郷にある縁切り地蔵である。
 山道をひたすら登った先に、ぽつんと立っている地蔵だ。
 この地蔵に頼むと、ありとあらゆる縁を切ってくれると言われていた。
 DVに悩む女性や、職場の人間関係に悩む人が頼ってくる。
 願を掛ける日数が長ければ長いほど効果があるとのことだ。
 祐子さんは、思い切って職場を辞めて、実家に帰った。
 アルバイトしながらお地蔵さんに通う日々が始まった。
 虚仮の一念恐るべしである。祐子さんは願掛けを百日続けた。
「どうか、孝さんと関わりがある女性との縁を切ってください。私との縁だけ残してください」
 そう祈っておいて、まめに孝さんに連絡する。
 しつこくない程度に顔を見せに行く。これを百日続け、見事に彼女の座を射止めたのである。
 そこからは、とんとん拍子に話が進んで、結婚という最終目的まで到達した。
 天にも昇る気持ちの祐子さんは、ここで安心してはならないと自らを戒めた。
 この先きっと、言い寄ってくる女が現れるに違いない。
 まずは願いが成就したお礼を兼ねて、お地蔵さんを訊ねる。
 念には念を入れよとばかりに、更なる願を掛けた。
「ありがとうございました。おかげで幸せな人生を送れそうです。最後にお願いなんですが、これから先もずっと、孝さんに関わる女性との縁を切り続けてください」

 そう祈りを捧げてから二日後。
 孝さんの母親が亡くなった。健康そのものの女性だったのだが、原因不明の急死であった。
 悲しむ暇もなく、続けてお姉さんが事故に遭ってこの世を去った。
 葬式が続き、落ち着く間もなく今度は姪が溺死した。
 どう考えても、お地蔵様の力である。
 祐子さんもそれは認めている。ただ分からないのは、発生した事態の重要度だ。
 言い寄ってきた女性達は、他の男性と結婚したり、違う街へ引っ越したり、会社を退職したりで済んでいた。
 今回、全員が死んでしまったのは何故か。
 取材の最後にこんなことを訊かれた。
「この違いって何なんでしょうね」
 思うところを正直に答えさせてもらった。
 決定的に違う点として、亡くなられた人達は全員、孝さんと血縁関係にある。
 例えば、親子の縁を切ろうとしても、法律的には不可能である。
 それほど血の繋がりというのは強い。
 そういう人と縁を切る一番確実な方法は、どちらかが死ぬことだ。
「あ」
 一言だけ呟いて、祐子さんは黙り込んだ。
 今現在、孝さんに関係する女性は、殆どいなくなってしまった。
 落ち着いた状況なので、祐子さんはとりあえず様子を見ているそうだ。
 ちなみに祐子さんは、二度妊娠している。
 どちらも女の子で死産だった。

※他エピソードは書籍にて

著者紹介

つくね乱蔵  Ranzo Tsukune

福井県出身。第2回プチぶんPetio賞受賞。実話怪談大会「超-1/2007年度大会」で才能を見出されデビュー。内臓を素手で掻き回す如き厭な怪談を書かせたら右に出る者はいない。
主な著作に『絶厭怪談 深い闇の底から』『つくね乱蔵実話怪談傑作選 厭ノ蔵』『恐怖箱 厭満』『恐怖箱 厭福』『恐怖箱 厭熟』『恐怖箱 厭還』『恐怖箱 厭獄』など。
その他主な共著に『病院の怖い話』『山海の怖い話』、「投稿 瞬殺怪談」「怪談四十九夜」「怪談五色」「恐怖箱テーマアンソロジー」の各シリーズ、『アドレナリンの夜』三部作。
ホラーライトノベルの単著に『僕の手を借りたい。』がある。

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