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群馬県の歴史と史跡に纏わる怖い話『群馬怪談 怨ノ城』著者コメント・試し読み・朗読動画

県内の城に纏わる伝奇から
縄文の土偶怪談、戦中の心霊奇談まで
群馬の歴史・史跡怪談!

内容・あらすじ

毒島城の呪
前橋城の妖
高崎城の幽
藤岡城の幻
箕輪城の奇
倉賀野城の魔

縄文、古墳時代の遺跡から、鎌倉~江戸期の数々の城跡を有する北関東の雄、群馬県。
その歴史と史跡に纏わる伝奇と実話怪談を集めたご当地怪談の決定版。
鎌倉時代、毒島城の合戦に現れた白大蛇の怪(伊勢崎市)、
軍配山古墳に立つ兵たちの霊(玉村町)、藤岡城の城址に建つ小学校の怪(藤岡市)、
武将の首が祀られた神社に詣でた後に見た斬首の夢と謎の首痛(館林市)、
空襲から防空壕を守った幻の僧侶(前橋市)、
触れた者に祟りをなす長野業盛の墓他、箕輪城落城に纏わる怪異(高崎市)、
古戦場に家を建てた人の地獄の末路(渋川市)、
縄文時代に疫病を鎮めたハート形土偶の不思議な夢など収録。

編著者コメント

  2020年に箕輪城の語り部、吉田知絵美さんとお会いしたことから、群馬の歴史をテーマにした怪談集を編みたくなった。
 共著者は新鮮なメンバーにしたくて、本書がデビューとなる五名を起用した。
 歴史は研究者によって異説が多く、執筆には苦戦したが、類書がない珍奇な怪談集に仕上げることができたと思う。
 なお、本書では「毛野国」を「体毛が多い人が住む地」と書くなど、少数派の説も採用したことをお断りしておきたい。

試し読み1話 

第二話 怒り仏と業盛   吉田知絵美/著

 春風に 梅も桜も 散り果てて
      名のみぞ残る 箕輪の山里

 箕輪城落城が、目の前に迫っていた。敵に降る選択肢はない、覚悟は決まっていた。室である藤鶴姫、まだあどけない亀寿丸を、家臣たちが上手く逃がしてくれているはずだ。箕輪長野家はここで潰えよう。しかし、先への望みはきっとある。家臣に防ぎ矢を任せ、持仏堂に籠もり、先祖の位牌を拝み、若き城主長野業盛は自刃した。
 戦後の処理は滞りなく進み、新たな城代を迎え、城下は日常を取り戻してゆく。旅僧の法如は、新たな城代に願い出て、城を枕に果てた業盛の亡骸を譲り受け、井野川左岸の大円寺(現在の高崎市井出町)に葬った。
 いつの頃だろうか、街道整備に伴って、村がまるごと、東に移った。寺も移ったが、業盛の墓は河原のそばに置かれたままになった。石塔は、草に被われた。業盛の墓がいつから『怒り仏』と呼ばれるようになったか、定かではない。土地の人は、「敵の地である、甲府を睨んで怒っている」と言った。「怒りに触れれば祟りが起こる」と。ある日、転げ落ちてしまった石塔の頭の部分を元に戻した男が、数十メートル先で倒れ、重い病を患ったらしい。
 その後、怒り仏は大正と平成、二度の整備を経て現在に至る。平成の整備においては「怒り仏では、業盛公も浮かばれめえ」と平仮名で、『なりもりぼえん』と名付け、周囲の箕輪城、長野氏ゆかりの寺の住職を、宗派の垣根を取りはずして集まり、法要を執り行った。今でも、有志の方が心を尽くし、花木を手入れし環境を整えたり、交流ノートがあったりと、悪しき雰囲気は感じられない。
 ただ、こんな話を聞いたことがある。私の知人が『なりもりぼえん』に入った途端、携帯電話が誤作動を起こし、シャッターが切られる音がするので、画像を確認すると画面全体に〈赤〉の色が記録されていた。墓にカメラを向けると、そこに映ってはいけない何かが映っていたので怖くなって、慌てて消したという。
 何が映っていたのか訊ねたが、ついぞ教えてはもらえなかった。

 今も、怒り仏は、甲府を睨んでいる。

ー了ー

朗読動画

6/27 18:00 公開予定

著者紹介

戸神重明 Shigeaki Togami

群馬県出身在住。著書『いきもの怪談 呪鳴』『上毛鬼談 群魔』他多数。編著『高崎怪談会 東国百鬼譚』。

江連美幸 Miyuki Ezure

群馬県出身在住。歴史好きな霊能者、浄霊師。「高崎怪談会」に三度出演。

撞木 Syumoku

群馬県出身在住。元タウン誌記者。「高崎怪談会」にスタッフとして参画。本書にて商業書籍デビュー。

高橋幸良 Yukiyoshi Takahashi

人形劇俳優で劇団主宰。JOMO童話賞受賞。劇作、演出、ナレーション、実体験の怪談語りを得意とする。

堀内圭 Kei Horiuchi

群馬県前橋市出身。「高崎怪談会2」より出演、参画。秘境の地〈群魔〉にて現在も怪談を探し続ける。

吉田知絵美 Chiemi Yoshida

高崎市在住。関東戦国史好き。CD「きつね火の箕輪城」「資正讃歌」作詞歌唱担当。箕輪城語り部の会会員。

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