呪われた歌、曲、楽器…音楽に纏わる実話怪談『聞コエル怪談』編著者コメント&試し読み丸ごと1話
聞くと呪われる歌、演奏すると死ぬ曲、霊が憑いてる楽器……
音楽に纏わる空恐ろしい話を集めた実話怪談集!
あらすじ・内容
♪ドんぐりころころドんぶりこぉ……
ある日突然、頭の中で鳴り出した童謡。
気づくと彼は会社の机の上に立ち、熱唱を…
「どんぐりころころ」より
●出産した妻が無意識に口ずさむ子守歌。夫はその不気味な歌詞に聞き覚えが…「子守らない歌」
●身の回りで聞こえるメロディがすべて同じ曲に聞こえる異質な世界。果たしてそれは現実化…「緑閃光」
●トランペット奏者だけが何人も死んでいるブラスバンド。死者の共通点はある曲の演奏に…「この素晴らしき世界」
●質屋で格安で購入した高級三味線。弾くと赤ん坊の泣き声が…「泣き三味線」
●自宅で時々聞こえてくる民族音楽の打楽器演奏。微かな音の出どころは意外な場所に…「モーメント」
●あるホールの楽屋にある座ってはいけない椅子。座った者は必ず体調を崩し…「第三楽屋の出入り口」
●戦争から帰ってきた曾祖父の慰問袋にあった持ち主不明のハーモニカ。夜、机の上に置いておくと…「慰問袋」
●岸戦没者の引揚げ船に向かって「海ゆかば」を唄う少女の霊。偶然その歌声を聞いてしまった二人の漁師は…「水漬く屍」
他、聞くも地獄、奏でるも地獄の調べ38話収録!
編著者コメント
試し読み
「泣き三味線」つくね乱蔵
岩岡さんは三味線を趣味としている。始めたのは高校生の頃である。
町内会の催しで、内田という老人が弾いた津軽三味線に感動し、教えを乞うたのがきっかけだ。
元々才能があったのだろう、岩岡さんはめきめきと腕を上げていった。
色々な曲が弾けるようになったおかげで、欲が湧いてきた。内田の三味線のような高級品が欲しくなってきたのだ。
技術面や積んできた経験の差は当然ある。それは努力次第で何とかできるはずだ。どうにも埋められないのは楽器の差だった。
内田の三味線は、見るからに高級な材を使い、音の響きもまるで違う。
自分のは初心者向けのものだ。部品一つとっても、プラスチック製だったりする。皮も合成のもので、出てくる音は素人でも分かるぐらいに深みがない。どれほど完璧に弾いても、内田が出す音には遠く及ばない。
同じような物だと最低でも二十万円。高校生が出せる金額ではない。毎年のお年玉から貯金しているが、それも五万円ほどしかない。
選択肢としてはアルバイトで貯めるか、親に借りるかの二通りだ。
だが、それほど裕福ではない家計を考えると、親に甘える訳にはいかない。高校はアルバイトが禁じられている。
卒業するまで我慢だなと諦めかけた岩岡さんに、思いがけない奇跡が訪れた。
通学路にある質屋の飾り窓に、三味線が展示されていたのだ。見たところ、かなりの高級品のようだ。
ところが、値札には一桁間違えているとしか思えない数字が記されてある。もしかしたら、質屋の店主は三味線の価値が分からないのかもしれない。またとない機会に、岩岡さんは胸を躍らせながら店に入った。
「展示してある三味線、見せてほしいんですけど」
声が上ずりそうになるのを堪え、店主に話し掛ける。目の前に置かれた三味線は、予想通りの高級品だった。
棹は紅木、胴は花林、糸巻は黒檀だろう。内田が自慢する逸品と同じだ。作りも丁寧で、何よりも皮が素晴らしい。
三味線は、琉球から伝わった三線が元となっている。
蛇の皮を使う三線を改良していく課程で、いつしか猫や犬の皮が使われるようになった。どちらも、江戸時代に入手しやすい小動物だからだ。
皮は、僅かな傷があっても音色に影響する。また、若ければ若いほど皮が薄く、繊細な音色が得られる為、傷のない子猫が最も良いとされている。
現在では犬、カンガルー、羊、合成皮などが使われる。岩岡さんの愛器も合成皮である。
だが、目の前のこれは、かなり高級な皮だ。これほどきめ細やかで滑らかな皮は、内田の家でも見たことがない。
正規品として買ったなら、百万円を超える可能性もある。それほどの品なのに、店主は全く興味がないようで、帳簿の整理をしている。
岩岡さんは学生証を差し出し、店主に取り置きを頼んだ。すぐに金を持ってくるからと言い残し、全力疾走で帰宅した。
何事かと戸惑う母親に事情を説明する。母親は、笑って了承してくれた。
貯金を全額引き出し、息を切らして質屋に戻る。目を丸くして見つめる店主にお金を渡し、岩岡さんはとうとう念願の三味線を手に入れた。
再び息を切らして自室に戻り、ケースを開け、まずはじっくりと眺めた。やはり、この部屋にあるのがおかしいぐらいの高級品だ。
取り出して調子を合わせ、弾いてみる。憧れていた音が部屋中に広がり、岩岡さんは恍惚となった。
弾ける曲を次から次へと奏でていく。何十回と繰り返し弾き込んだ曲のはずなのに、全く別物に聞こえてくる。
夢中で弾き続けていた岩岡さんは、部屋のドアをノックする音で我に返った。
「ちょっといい?」
母親である。ドアを開けると、母親は室内を見渡しながら妙なことを言った。
「変ねぇ、赤ちゃんの泣き声が聞こえたのよ」
「赤ちゃんの泣き声って、どんな感じの」
「ええとね、一人じゃなくて何人も泣いてた」
確かに聞こえたんだけど、と母親は首を捻りながら戻っていった。
気が付けば一時間以上も弾いている。岩岡さんは、取りあえず三味線をケースに片付けて勉強に取りかかった。
翌日は三味線の練習日である。岩岡さんは、買ったばかりの自慢の愛器を内田に見せた。
内田の顔色が瞬時にして変わった。恐る恐る手に取り、暫く舐め回すように見ていた内田は、深い溜め息をついた。
「弾いてもいいかい」
返事も待たずに内田は得意な曲を弾き始めた。鳥肌が立つほど凄い音だ。
これが自分の三味線なのだ。岩岡さんは泣きそうになったという。
満足したのか、内田は再び深い溜め息をついて三味線をケースに戻した。
「岩岡君、これ、売る気はない?」
岩岡さんは優しく微笑み、丁寧に断った。
それほど愛している三味線なのだが、岩岡さんは人前で弾いたことがない。
最初の頃は何度か披露したことがあるのだが、その都度、何人かがこう言うのだ。
「三味線から赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる」
一々抗うのも面倒なので、人前で弾くのを止めてしまったそうだ。
その代わり、部屋で弾きまくる。毎日、気が済むまで弾く。気が付いたら朝ということも頻繁にある。
父親は呆れているのか、何も注意しない。最近では会話すらなくなった。
母親は、赤ちゃんが泣いてる、泣いてるのよと喚き散らしながら家を飛び出した。
それきり帰ってこないので、誰に遠慮することもないという。
ー了ー
◎編著者紹介
加藤一Hajime Kato
1967年静岡県生まれ。老舗実話怪談シリーズ『「超」怖い話』四代目編著者。また新人発掘を目的とした実話怪談コンテスト「超-1」を企画主宰、そこから生まれた新レーベル「恐怖箱」シリーズの箱詰め職人(編者)としても活躍中。近著に『「弔」怖い話 六文銭の店』、主な既著に『「弩」怖い話ベストセレクション 薄葬』、「「忌」怖い話」「「超」怖い話」「「極」怖い話」の各シリーズ(竹書房)、『怪異伝説ダレカラキイタ』シリーズ(あかね書房)など。
◎共著者
雨森れに
つくね乱蔵
渡部正和
服部義史
久田樹生
神沼三平太
雨宮淳司
高田公太
丸太町小川
松本エムザ
内藤駆
橘百花
高野真
ねこや堂
三雲央