稀代の怪談蒐集家・煙鳥。決して表舞台に出ない彼のネタ帳を吉田悠軌・高田公太が再取材して世に出す、実話怪談界待望の書!『煙鳥怪奇録』試し読み
実物の煙鳥取材ノートも公開!
消えない伝説となった恐怖の数々が文字に刻まれて登場。
内容・あらすじ
実話怪談の配信者としてネット界で長年暗躍し続けてきた男、煙鳥。
その圧倒的な取材力はマニアの間でも評価が高く、彼の語る怪談は文句なしに面白い。
一方、決して業界の表舞台に出てこない謎めいた存在でもあった。
今回、彼の怪談を本という形に残すべく二人の作家が手を挙げた。
吉田悠軌と高田公太。
二人が伝説の怪談を再取材、事件のあらましを再検証の上、綴り上げた。
中古で緑の机を買ってから見舞われる不幸、逃れるには…「机と海」
猿を撃てないマタギが語った奇妙な理由…「生活」
新興宗教の信者6人が惨殺された家の怪…「食い違い」
酒で苦しむ男に幽霊がくれた不思議な水…「一杯」
廃屋に泊まってから見る悪夢。それは舟にぎっしり積まれた手首…「白色の蓋」
特養老人ホームの入居者だけに見える魔の子供…「みどりさん」
全部屋が回廊で繋がる奇怪な古民家の恐怖…「回廊の家」
墓参りで白い服を着た女を見たら死期が近い。一族に伝わる因縁とは…「白い服の女」
他、全28話収録。
巻頭言より
初めまして、怪談収集家、怪談配信者の煙鳥と申します。
僕は十数年前から現在まで、自分で収集した怪談を語るインターネット配信をしております。
皆さんの身の回りで、ディープに怪談を語り合える人はいますでしょうか。
僕はいませんでした。インターネットの広い海で出会うまでは。
僕が怪談を収集し始めたのは高校生のときからです。 当時、前の席は謂わば学校のプロムクイーン「ナミちゃん」でした。
ある日の放課後、ナミちゃんは「実は私、前にこんなことがあって」とクラスのイケてる友達に怪談らしきものを語っていました。
僕は会話に入っていたわけではないので、その会話に真剣に聞き耳を立てていました。
話が終わった後、どうしても詳しく聞いてみたくてたまらなくなり「あの、俺そういう話大好きで、聞いて集めてて……もうちょっと聞かせて」とつい早口でがっついてしまった僕にナミちゃんは「え……? 集めてる? 何かちょっとキモい」と引き気味に笑い、周りのイケてる友達も〈怖い話好きすぎて流石にキモイわ〉と笑ったのでした。
ナミちゃんや周りの友達にそこまで悪意はないはず(そうだと信じています)ではありますが、今考えるとこのがっつきは流石にちょっとキモいです。
でも、高校生の僕はかなり落ち込んだのでした。
そうだよな。怪談なんかが大好きで、何かの役に立つわけでもなく、誰かの不思議な体験を聞き集めてるって流石に堂々と言えないし、ちょっとキモいよな。
今でも、そのときのナミちゃんの顔をよく覚えています。
それでも、僕は怪談を聞き集めてノートに記録し続けることを辞められませんでした。
それほど怪談が大好きで大好きでたまらなかったのです。
月日は流れて大学生になり念願の一人暮らしを始めた僕に、父親がノートパソコンを買ってくれました。
そのノートパソコンを使ってインターネットの掲示板を巡っていた頃、インターネットラジオによる怪談配信と出会ったのです。
この回線の向こうに、僕と同じような人がいる。怪談なんてディープなものを真剣に語り合える人を、仲間達をインターネットの海でついに見つけたのです。
顔も名前も知らない怪談を愛する同志達よ、こんなところにいたのか。
たまらなく嬉しくなった僕は、思い出に一回だけ配信しようと思い、仕送りが詰まっていた段ボールの上にノートパソコンを置き、七百円くらいで買ったマイクを接続し、怪談を記録したノートを手にインターネット配信を始めました。
まさかそれから十数年、怪談配信をし続けることになるとは当時は思いませんでした。
怪談配信をしている中で出会ったのが、吉田悠軌、高田公太の二人です。「煙鳥怪奇録」は、僕が聞き集めた怪談をこの二人が再構成して文章化した一冊です。
二人の文章による怪談は、まるで僕の怪談に新たな命が吹き込まれたかのようでした。
今回、彼らによって新たな命を得た怪談の中には、配信を飛び出してドラマや漫画の原作になった怪談も含まれています。
怪談を集め始めた頃の僕は、まさか聞き集めた怪談ノートからドラマや漫画になったり一冊の本になったりするなど考えもしませんでした。
あの日、キモいと言われた怪談で誰かを楽しませることができる日々が来るなんて。
可愛い女の子に心を折られ、怪談を辞めなくてよかったと心から思っています。
今、二人の手によって生まれ変わった怪談ノート「煙鳥怪奇録」を紐解きます。
怪談提供・監修 煙鳥
試し読み
朗読動画
3/27 18時公開予定
著者プロフィール
吉田悠軌 Yuki Yoshida/著者
怪談サークルとうもろこしの会会長。怪談の収集・語りとオカルト全般を研究。著書に『現代怪談考』(晶文社)、『オカルト探偵ヨシダの実話怪談』シリーズ(岩崎書店)、『一生忘れない怖い話の語り方』(KADOKAWA)、「恐怖実話」シリーズ『 怪の残滓』『怪の残響』『 怪の残像』『怪の手形』『怪の足跡』『怪の遺恨』(以上、竹書房)、「怖いうわさ ぼくらの都市伝説」シリーズ(教育画劇)、『うわさの怪談』(三笠書房)、『日めくり怪談』(集英社)、『禁足地巡礼』(扶桑社)、共著に『実話怪談 牛首村』『実話怪談 犬鳴村』『怪談四十九夜 鬼気』など。月刊ムーで連載中。オカルトスポット探訪雑誌『怪処』発行。文筆業を中心にTV映画出演、イベント、ポッドキャストなどで活動。
高田公太 Kota Takada/著者
青森県弘前市出身、在住。O型。実話怪談「恐怖箱」シリーズの執筆メンバーで、元・新聞記者。主な著作に『恐怖箱 青森乃怪』『恐怖箱 怪談恐山』、共著に『奥羽怪談』『青森怪談 弘前乃怪』『東北巡霊 怪の細道』、加藤一、神沼三平太、ねこや堂との共著で100話の怪を綴る「恐怖箱 百式」シリーズ(以上、竹書房)などがある。2021~22年にかけて、Webで初の創作長編小説「愚狂人レポート」を連載した。(https://note.com/kotatakada1978/)
煙鳥 Encho/怪談提供・監修
怪談収集家、怪談作家、珍スポッター。「怪談と技術の融合」のストリームサークル「オカのじ」の代表取り締まられ役。広報とソーシャルダメージ引き受け(矢面)担当。収集した怪談を語る事を中心とした放送をニコ生、ツイキャス等にて配信中。 怪談収集、考察、珍スポットの探訪をしてます。VR技術を使った新しい怪談会も推進中。共著に『恐怖箱 心霊外科』『恐怖箱 怨霊不動産』『恐怖箱 亡霊交差点』(以上、竹書房)がある。