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禁忌を暴き、恐怖を浴びる。新たな挑戦、進化&深化したシリーズ最新刊!『怪談禁事録 朝が来ない』(営業のK)内容紹介&著者コメント&試し読み!

禁忌を暴き、恐怖を浴びる!

あらすじ・内容

見てはならぬモノ。行ってはならぬ場所。
禁忌には必ず隠された理由がある。それも恐ろしい理由が……。

◆東北の寒村で年に一度山から下りてくる狐面の行列。訪いを受けた家は…「山からやって来るモノ」
◆朝目覚めると娘の全身に無数の噛み傷。原因は一族の血筋に…?「狗神というもの」
◆山陰地方の入山禁止の山。人を喰うバケモノが棲むと言うのだが、騙されて踏み入った少年は…「ころがりわらし」
◆夜、海辺でキャンプをしていると、沖のほうから無人の小舟がやってきて…「舟葬」
◆財布の中に突如現れ、忽然と消えた白い紙。翌日、彼女の世界は光を失ってしまい…「朝が来ない」
◆夜、出かけて行く母と入れ違いに布団に入って来る老婆の歌う不気味な子守歌…「子守歌」
◆古民家に使われていた立派な柱を新居に使ったところ起こる怪異。実はとんでもない曰くが…「大柱だけ残した」
◆樹上で過ごすの恐怖の一夜。不気味な女が囁く「はむか、のむか」の意味とは…「サバイバルキャンプ」

他、著者渾身の取材による本能がアラートを発する最新最凶怪談全25話!

著者コメント

今作にも私なりの新たな挑戦が幾つも散りばめられています。
それを実感し楽しんでいただけたら幸いです。
色んな意味で過去最恐だと自負しております。

営業のK

試し読み

「雨とトラウマ」より抜粋

 真柴さんは雨が嫌いだ。
 いや、元々は雨が嫌いではなく、むしろ雨に濡れながら歩くのも好きだったし雨音を聞きながら眠るのも好きだった。
 それがガラリと変わってしまった。
 今では雨の日は一歩も外に出られなくなってしまった。
 部屋のカーテンを閉め、全ての鍵をかけて家に籠もる。
 音楽を大音量で聴いて、外から聞こえてくる雨音を完全に消す。
 それでも怖くて体の震えが止まらない。
 ……雨の日は……がやってくるから。
 そう震える彼女は一体どんな怪異に遭遇したというのだろうか?
 その内容をこれから書いていくことにする。

 彼女は都内の中学校で教鞭をとっていた二十九歳。
 それにしても教師という仕事は想像以上に忙しいようだ。
 朝早くから会議をこなしその後は授業と様々な事務作業、それが終わるとまた会議と部活動の顧問、それ以外にも生徒の親御さんへの対応もある。
 そしてそれは土日にも及ぶ時期もあるというのだから、まさに殺人的な忙しさだ。
 そんな感じだから帰宅が二十二時を回る日もざらにあった。
 疲れとストレスがどんどん溜まってきていることには気付いていたが、教師という仕事に誇りを持っていた彼女は意地でも休職だけはしたくなかった。
 だから発想の転換をしてみた。
 身体が疲れているならもっと体を動かせばいいし、ストレスが溜まっているならもっと癒やしを摂取すればいい、と。
 だから、それまでのマイカー通勤を止めて徒歩での通勤に変えてみた。
 歩いて四十分くらいの距離だったが、元々体力には自信があったから特に不安もなかった。
 そして実際に徒歩で通勤してみると、それまで見えなかったものが見えてきて新しい発見もよい刺激になった。
 新しい道やお店を見つけたり、きれいな街並みや風景を見つけたりする度に車通勤では決して感じられなかった感動を得られ、それが良い癒やしにもなった。
 そんな中でも雨の日はまた特別だった。
 雨の中を歩いているとまるで別の世界に迷い込んだような錯覚を感じられた。
 強い雨の日は水のトンネルを潜っているようだったし、小雨が降ればポツポツと傘に当たる雨が音楽のように聞こえて心地よかった。
 だから雨の中を歩いているだけで簡単に特別な自分時間を楽しむことができたし、そんな自分だけの世界は彼女にとってかけがえのない癒やしの空間を形作ってくれた。
 そして彼女にはもう一つのお気に入りがあった。
 それは歩いているうちに見つけた不思議な道。
 小さな池に並行して延びる道はやがて緩やかな下り坂になり、十メートルほどの平らな道には屋根がついており、それを過ぎるとまた緩やかに登り坂になる。
 道の両側にはコンクリートの壁があったが丸い穴が空いており、そこから池がしっかり見えた。
 池はとても幻想的な雰囲気を醸し出しており、それを見ながらトンネルのような道を歩く。そうしていると、まるで自分が池の中を歩いているような気分になって心が落ち着いた。
 人とすれ違うことも滅多になく、まるで自分専用の特別な道を歩いているように感じられるのも素敵だった。
 だから彼女はどんなに帰りが遅くなってもその道だけは必ず通るようにしていた。
 そしてその日も会議で遅くなった彼女は徒歩で学校を出た。
 途中でスーパーとレンタルビデオ屋に寄ったことで店を出る時には既に午後十一時を回っており、真っ暗な空からはシトシトと雨が降り出していた。
「やった! 雨が降ってる!」
 彼女はバッグの中から折り畳み傘を取り出すとワクワクしながら歩き出した。
 しかし雨の中を歩いていても、いつものようにワクワクしない。
 いや、それどころか空気がやたらと重く感じられ、傘に当たる雨音もどこか沈んだ音に聞こえた。
「どうしたんだろ? 今夜はなんかいつもと違う感じだなぁ。でもいいや。だったらさっさと家に帰って熱いシャワーを浴びて寝ちゃえばいいや!」
 そう思いながら件の池の近くまでやって来ると、いつもお気に入りのトンネルまでもが暗く見えて少し怖く感じられた。
 それでも彼女はその坂道をいつものように下っていった。
 どんなに落ち込んでいてもそのトンネルを潜るだけで幸せな気分になれていた。
 だからその時も、きっとそうだろうと思い込んでいた。
 しかしその道を下り始めるとすぐに違和感に気付いた。
 緩やかな下り坂のはずなのに妙に傾斜がきつく、そして長く感じられ、歩いている自分の足音が全く聞こえなかった。
 ――やっぱり何かがおかしい。いつもは素敵な道なのにこのまま下りていったら二度と上がって来られないような気がする。
 そう強く感じた彼女はその道を通らず迂回して家に向かおうと決めた。
 しかし、その刹那、雨は一気に強くなった。

※続きは書籍にて

著者紹介

営業のK(えいぎょうのけー)

石川県金沢市出身。
高校までを金沢市で過ごし、大学4年間は関西にて過ごす。
職業は会社員(営業職)。趣味は、バンド活動とバイクでの一人旅。
幼少期から数多の怪奇現象に遭遇し、そこから現在に至るまでに体験した恐怖事件および周囲で発生した怪奇現象を文に綴ることをライフワークとしている。
2017年『闇塗怪談』(竹書房)でデビュー。主な著書に「闇塗怪談」シリーズ全10巻、「怪談禁事録」シリーズ、多故くららとの共著に『霊鬼怪談 阿吽語り』がある。

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