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『13日の金曜日』『悪魔のいけにえ』『ハロウィン』『エルム街の悪夢』『悪魔のサンタクロース 惨殺の斧』『スクリーム』ーー名作ホラー/スラッシャー映画へのオマージュ満載のメタ・ミステリー!「ファイナルガール・サポート・グループ」11月17日(木)発売

書誌情報

 本作は、さまざまな殺人鬼による殺戮事件で最後にひとりだけ生き残った女性(=ファイナルガール)たちを主人公に、その後の人生や、中年になった彼女たちを新たに狙う殺人計画を描いたサスペンス・ミステリーである。基本設定は、〝ホラー/スラッシャー映画のフランチャイズが現実に起こった大量殺戮事件をもとに製作され、実在のファイナルガールたちが社会的有名人になっている世界〟という凝ったもの。著者グレイディ・ヘンドリクスは、親友に取り憑いた悪魔を祓おうとする女子高校生や、地元のヴァンパイアに立ち向かう読書クラブの主婦たちの物語を書いてきた人だけあって、本作も全編にホラー/スラッシャー映画への愛情とリスペクト、そしてオマージュが詰まっている(登場人物の名前はすべて何かしらのスラッシャー映画にリンクしている!)。
 とはいえ、この小説は読み手をホラー/スラッシャー映画のファンに限定してはいない。著者いわく、「何よりミステリーとしておもしろい内容を目指したので、〝キャンプ場で若者を殺す殺人鬼〟とか〝人びとを夢の中で殺す殺人鬼〟といったおおよその概念や、パロディなどで知ったイメージを持っていれば十分。オマージュ要素はイースター・エッグ探しの気分で楽しんでほしい」とのこと。
 それでも、元ネタがわかったほうがメタフィクションの楽しさをより堪能できるのはまちがいないので、ホラー/スラッシャー方面にあまり詳しくない読者のために、作中に出てくる架空の映画フランチャイズだけでも元ネタをここで明らかにしておこう。このジャンルの映画をそれなりに観ている読者は、以下のネタバレ部分はどうか無視していただきたい。

『サマー・スローター』

 舞台は夏のレッドレイク・キャンプ場。息子が溺死したことで若者たちに恨みを抱いた親がキャンプ指導員たちを血祭りに上げていく。原案である事件のファイナルガールは、エイドリアン・バトラー。
 元ネタは『13日の金曜日』(一九八〇)。クリスタル・レイク・キャンプ場で息子ジェイソンを溺死で失った母親が若者を殺しまくる。ファイナルガールのアリスを演じたのは、エイドリアン・キング。

『パンハンドル・ミートフック』

 テキサスの田舎で墓荒らしが多発する中、五人の男女が墓の無事を確かめるためにワゴン車で向かい、ハンセン一家に捕らわれてしまう。彼らは狂気の一家で、人間を切り刻み、人体で物品を作る。原案である事件のファイナルガールは、マリリン・トーレス。
 元ネタは『悪魔のいけにえ』(一九七四)。ファイナルガールのサリーを演じたのは、マリリン・バーンズで、殺人一家のメインキャラクター、レザーフェイスを演じたのは、ガンナー・ハンセン。『悪魔のいけにえ』の通称は〝テキサス・チェーンソー〟だが、『パンハンドル・ミートフック』のパンハンドルはテキサス州北西部、ミートフックは食肉用の鉤を意味し、どちらも〝地域名+道具〟のタイトルになっている。

『ベビーシッター・マーダーズ』

 少年時代に犯した殺人で精神科施設に収容されていた男ニックが脱走し、ハロウィンの夜にマスクをかぶって故郷の街で殺戮を繰り返す。犠牲者は若いベビーシッターたちを含む多数。ニックは警官に銃で撃たれて二階から落下するものの姿を消し、やがてファイナルガールのダニィ・シップマンに仕留められる。
 元ネタは『ハロウィン』(一九七八)。事件が起きるハロウィンの夜、主人公たちはベビーシッターのアルバイトをしている。殺人鬼マイケル・マイヤーズを演じたのは、ニック・キャッスル。

『デッドリー・ドリーム』

 殺人鬼の名前はドリームキング。夢と現実のあいだで超常的なできごとが起こる(小説内で詳しくは語られない)。原案である事件のファイナルガールは、ヘザー・デルーカ。
 元ネタは『エルム街の悪夢』(一九八四)。ファイナルガールのナンシーを演じたのは、ヘザー・ランゲンカンプ。

『スレイ・ベル』

 クリスマスイブの夜、里親に育てられていたリッキーがサンタクロースの扮装をし、手斧で殺人を犯していく。彼はファイナルガールのリネットを半裸の状態で壁に飾られたシカの角に突き刺す。リッキーが警官に射殺されたあと、精神科施設に入っていた弟ビリーも殺人鬼となってリネットを襲撃する。タイトルはクリスマスのシャンシャン鳴る鈴スレイ・ベル(sleigh bells)と〝殺す〟という意のスレイ(slay)をかけている。
 元ネタは『悪魔のサンタクロース 惨殺の斧』(一九八四)。孤児院で暮らすビリーがサンタ殺人鬼となり、犠牲者を壁のシカの角で串刺しにするシーンがある。ビリーが警官に射殺されるのを目撃した弟リッキーは、続編の『悪魔のサンタクロース2/鮮血のメリークリスマス』(一九八七)で精神科施設を脱走して殺人鬼になる。

『スタブ』

 原案である事件のファイナルガールは、ジュリア・キャンベル。マスク&ローブ姿の殺人鬼〝ゴースト〟が高校生たちを殺しまくるが、その正体はジュリアのクラスメイトの男子ふたり。彼女が大学生になったとき、またしてもクラスメイトがゴースト事件を模倣して大量殺人事件を起こす。
 元ネタは『スクリーム』(一九九六)。高校生を殺しまくる殺人鬼がかぶるマスクは通称〝ゴーストフェイス〟で、ファイナルガールのシドニーを演じたのは、ネーヴ・キャンベル。続編『スクリーム2』(一九九七)では劇中で書かれた小説が映画化されるが、そのタイトルが『スタブ』。
 
 本作は現在、HBO Maxでテレビシリーズ化の企画が進行しており、今のところシャーリーズ・セロンと『IT/イット』シリーズのアンディ・ムスキエティ監督が製作にたずさわることがアナウンスされている。このふたりのタッグが実現すれば、ホラー/スラッシャー要素はもちろんのこと、本作中に描かれているジェンダー、民族性、レズビアン、ミソジニー、エイジズムといった女性を取り巻く今日的なテーマも深く掘り下げたドラマになるのではないだろうか。完成がとても楽しみである。
 
──入間 眞
 
(「訳者あとがき」より抜粋)

著者プロフィール

グレイディ・ヘンドリクス Grady Hendrix

ニューヨーク在住の小説家・脚本家。
著作に『Horrorstor』『My Best Friend's Exorcism』『We Sold Our Souls』、『吸血鬼ハンターたちの読書会』(早川書房刊)などがある。また、70年代から80年代のホラー系ペーパーバック・ブームの歴史をたどったノンフィクション『Paperbacks from Hell』が高く評価されている。本作をはじめ著作の多くが映像化企画が進行中である。
・主な映像化作品(進行中企画も含む)
The Final GIrl Support Group[原作]企画進行中
Horrorstör[原作・脚本・製作総指揮]企画進行中
The Black Room [原作]プリ・プロダクション
My Best Friend's Exorcism[原作]撮影完了
2019「サタニックパニック」Satanic Panic[原案・脚本・製作総指揮]

試し読み!『ファイナルガール・サポート・グループ 』
[グレイディ・ヘドリクス] 〝1・2章〟を全文公開!

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