2021年12月15日
【今日は何の日?】12月15日:観光バス記念日
1875(明治8)年12月16日に、東京都北区王子で王子製紙株式会社の前身にあたる抄紙しょうし会社の工場が営業を開始。このことにちなんで制定された記念日です。
さて、今日の一話は?
「一人乗り」
「お爺ちゃん、今日はご機嫌ね」
祖母はベッドの上で身体を半分起こしている祖父にそう声を掛けた。
「おお、実はな、そこの窓からタクシーが来るんだよ」
そのタクシーに乗り込むと、病室の白い壁が一気に開け、そのまま空に舞い上がるのだと。
「眺めが良くてな、そりゃあもう気持ち良いんだ」
行きたい場所を口にすれば、望むままに何処へでも連れていってくれると目を細める。
「あら、そんなに楽しいなら私も一緒に行きたいわ」
「婆ちゃんは駄目だ」
祖父は残念そうに首を振る。
「あれは一人乗りだからなぁ」
その一週間後、祖父は長患いを感じさせぬ穏やかな顔で旅立った。
祖父が亡くなる前日、墓参りのために本家に赴いた母の言葉を今も時々思い出す。
「この辺で婆ちゃんを楽にしてあげて。そろそろ迎えに来てもいいんじゃないですか、爺ちゃんはあなたの息子でしょう?」
曾祖父の仏前で、そう呟いた。
翌日、祖父は送り火に送られるように息を引き取った。
八月十五日、盆送りの日だった。
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――「一人乗り」ねこや堂『恐怖箱 百眼』