【第25話】火葬中の遺体から体液が噴き出す!? 意外と知らない遺体と水分のハナシ【下駄華緒の弔い人奇譚】
―第25話―
「遺体は水袋のようなもんだから」
火葬場で働き始めたとき、そう言われた事を今でも覚えています。確かに人間の60%は水分で出来ていると言われているらしいので、水袋と言われると、まあ確かになぁとは思いつつもどこか腑に落ちないまま毎日を過ごしていました。
ですが、数週間、数ヶ月、数年と月日が経っていくと「水袋」の意味がよく分かるようになりました。
火葬し出してしばらくすると遺体の全身が真っ黒の状態になります。が、決して乾いた黒ではなく湿った黒のイメージです。
全身の黒い皮膚の間にはヒビが入り、その間から透明ともピンクとも表現できる体液がドロドロと流れ出してきます。火を浴びているはずなのに遺体はびっしょり濡れています。
時には、お腹付近から勢いよく薄ピンク色の体液や血液がビューっと飛び出すことがあります。まるで噴水のようで飛び出す勢いは火葬炉内の天井まで到達することさえあります。
そう、まさしく水袋という表現は的を得ていました。
これだけ水分が多いので、ものすごい勢いの炎をもってしても火葬にはある程度時間がかかります。そして、それだけ水分が多いからこそ小さな事でも影響を受けやすいのです。
例えば、火葬中に棺の板がお腹付近に覆いかぶさったら、その付近の焼け具合が少し遅くなります。たった一枚の板であっても、火葬に影響を与えます。
それは、火葬する対象が多くの水分を含んでいるからこそです。元々、人は燃えにくいのです。なので、火葬中はなるべく遺体の上に何も乗っていない状態にするためデレキなどを使って体の上に乗っているものは早めにどかしてあげます。そうしないとなかなかスムーズに火葬が出来なくなってしまいます。
ある日、大量の本が棺の中に入っていて火葬するのにだいぶ手こずりました。本はもちろん紙なのですぐに灰になるのですが、その灰が火の通りを悪くし、なかなか体まで火が到達せず火葬時間が大幅に長くなりました。
お骨上げまでにはなんとか無事間に合いましたが、台と遺骨がまだ十分に冷やされておらず、お骨あげ中とても熱かったことを覚えています。遺族さんの額から落ちた汗の滴がジュッ…と音を立て、その熱さを物語っていました。
著者紹介
2018年、バンド「ぼくたちのいるところ。」のベーシストとしてユニバーサルミュージックよりデビュー。前職の火葬場職員、葬儀屋の経験を生かし怪談師としても全国を駆け回る。怪談最恐戦2019怪談最恐位。