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圧倒的恐怖。圧巻の面白さ。三代目最恐位・怪談界の帝王が贈る人気シリーズ、3年ぶりの新刊!!『厭談 畏ノ怪』(夜馬裕/著)著者コメント+収録作「陰摩羅鬼の蒼い爪」冒頭公開
幽霊に生者の悪意や人怖までもがハイブリッドされた悶絶必至の怪談たち。
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あらすじ・内容
気づいていますか?
あなたの背中にへばり憑く
死者の怨念、生者の悪意
三代目最恐位・怪談界の帝王が贈る人気シリーズ、3年ぶりの新刊!!
幽霊に生者の悪意や人怖までもがハイブリッドされた悶絶必至の怪談たち。
・元カレが忘れられず逢いに行っていると自白した恋人。だが、その場所は廃墟で…「神隠しマンション」
・教育実習で3年ぶりに母校に戻ってきた男子学生は、在学中に自分が捏造した学校の七不思議のひとつが 異様な存在感をもって広まっていることを知る。
嘘を証明しようと夕暮時の校舎裏に行くと…「屋上のミヨコさん」
・小学生の頃、父の実家でよく見た井戸の洗剤の不気味なローカルCM。
ある日一緒にCMを見ていた友達に異変が…「井戸は僕におまかせください」
・最寄り駅で流れる奇妙な駅員のアナウンス。
危険を知らせる注意喚起なのだが、よく考えると自分だけに関係のある予言じみた内容で…「駅神様」
・代々医者の一族の屋敷の奥にある鍵のかかった小部屋。そこに隠された恐ろしきものとは…「陰摩羅鬼の蒼い爪」
ほか、伝説の怪談「訳ありのバイト」を大幅に加筆した完全版「深淵に至る」も収録。
怪談界の帝王がおくる珠玉の全11話、待望のシリーズ第3弾!
著者コメント
本作は『厭談 祟ノ怪』『厭談 戒ノ怪』に続く『厭談』シリーズの三作目となります。前作の刊行時は出版社に勤めておりましたが、昼の仕事と執筆を両立させることは難しく、なかなか三作目にとりかかることができませんでした。
そんな私も今年の三月、五十歳を前にして会社を辞め、怪談師や作家などという、怪しげな職業に身を捧げることを決意しました。ですから本作は、「怖い話で生きていく」とという私の想いが詰まった一冊です。ぜひご一読いただければ幸いです。
試し読み
「陰摩羅鬼の蒼い爪」前半
亮馬さんは、五代も続く医者の家系に生まれた。
外科医だった父親は、地元で唯一の総合病院に勤務しており、亮馬さんが小学生の頃から、同級生の親や親戚に「先生の手術で助けてもらった」と感謝の言葉をかけられることも多く、そんな父親を尊敬すると共に、自身もまた医師になるのだろうと当たり前のように考えていた。
ところが父親は、「将来の夢は、お父さんみたいなお医者さん」と語る息子の姿になぜか喜ぶそぶりも見せず、「もっと自由に、自分の好きな道を選べ」としか言わない。
そんな父親の態度が不思議ではあったが、母親からは「お父さんは照れてるだけよ。貴方はおじいちゃんやお父さんみたいなお医者さんになってね」と言われ続けたので、小学校を卒業する頃には、「医者になる」以外の将来を想像することはなかった。
さて、亮馬さんが育った家は、曾祖父の代から居住する古い平屋の日本家屋で、彼が小学生の頃ですでに築七十年を超えていた。
ただ、定期的に改築や修繕を加えているので住み心地は良く、庭には立派な松の木や、鯉の泳ぐ池があり、金木犀の生け垣が周囲を囲っていた。
訪れた同級生たちが、庭師に手入れされた立派な庭や、十二部屋もある大きなお屋敷を見て驚嘆の声を上げるたびに、これも自分の一族が医師として人の役に立ってきたからこそできる生活なのだと思い、亮馬さんはいつも誇らしい気持ちになっていた。
子どものすることには両親共に鷹揚だったおかげで、亮馬さんや友だちが、壁と襖に仕切られ迷路のようになった家の中を走り回って遊んでも、危ないことをしない限り怒
られることはなかった。
とはいえ、遊びで入ってはいけない場所もあり、それは刃物や火がある台所と、両親の寝室、そして家の奥にある施錠された小部屋であった。
台所と寝室は、入ってはいけない理由が子どもにでもわかる。ただ奥の小部屋だけは、どうして立入禁止なのかがよくわからない。父親以外、部屋に入ってはいけないのだが、その理由を尋ねても、父親は「いずれお前には説明する」と暗い表情で言うばかりで、母親からは「この家に嫁いで来た時から、あの部屋に入っていいのは、おじいちゃんとお父さんだけだったの。一度頼んで見せてもらったけど、あなたより五代前のひいひいひいおじいちゃんが描いた、変なお化けの絵があるだけよ」と説明された。
実際のところ、奥の小部屋は室内にも拘らず、閂と南京錠で施錠されており、鍵は父親が手元で厳重に管理していた。
平素は息子に対してにこやかな父親が、小部屋のことを訊かれた時だけは険しい表情になるのが怖くて、小学生の亮馬さんは小部屋が存在しないかのように過ごしていたのだが、やがて中学生にもなると、親に怒られるよりも好奇心のほうが勝ってしまい、どうしても父親が隠している小部屋の中を覗きたくなってしまった。
幸いと言うべきか、南京錠はダイヤル式ではなく、素人でも開けやすいシリンダー式だった。そこで亮馬さんは雑誌で読んだ「万一の際の鍵の開け方」という記事を元に、穴にうまく入る同じ太さの針金を二本用意し、うち一本を直角に折り曲げて開錠する方向へ押して、もう一本でシリンダー内のピンを動かしていくという方法を、親の目を盗みながら何度も試し、とうとう小部屋の鍵を開けることに成功した。
軋む閂をそうっと外し、静かに戸を押し開けると、そこは壁も床も板張りされた、四畳半ほどの小部屋であった。
入口以外は壁で囲まれているが、庭に通じる細い通気管が設けられているので、閉め切っていても黴臭さはない。室内には埃ひとつないので、おそらく父親が定期的に掃除をしているのだろう。祭壇や蝋燭が設けられ、古文書などが積み上がっているような、おどろおどろしい部屋を想像していたので、亮馬さんは拍子抜けしてしまった。
部屋の中はがらんとしており、小さな床の間に飾られた一幅の掛け軸がある以外、他
には何も置かれていない。
母親から「お化けの絵の掛け軸」と聞かされていたので、柳の下に黒髪の女といった幽霊画を想像していたのだが、描かれているのは、口から火を噴く、老人のような顔をした鳥の姿の物の怪けであった。
老人のような顔は口元だけ鳥の嘴のように伸びており、頭頂部は禿げているものの、後頭部には炎のように逆立つ毛が生えている。頸から下は羽毛に覆われており、鋭く尖った爪や大きな羽は、鷲や鷹のような猛禽類の姿そのものだ。そして口からは、青白い炎のようなものが、斜め下方向に吹き出していた。
母親によれば、五代前の当主が百年以上前に描いたものだというが、墨らしきもので
書かれたその姿は、まったく色褪せておらず、今にも動き出しそうな生々しさがある。
日光に晒すことなく大切に保存してきたのだろうが、それにしても驚異的な鮮やかさで、口から吹く青白い炎など、部分的に彩色までされていた。
横幅五十センチ、縦幅一八〇センチほどある大きな掛け軸には、この奇妙な姿の物の怪しか描かれておらず、背景などは一切ない。何のために描かれたのか、なぜこの掛け軸をとりわけ大切に保管しているのか、いくら眺めてもまったく理解できなかった。
好奇心を満たすどころか、亮馬さんの中で謎はますます深まってしまったが、この話を友人に聞かせるついでに、絵を思い出しながらノートに描いて見せたところ、オカルト好きの友人から、「それは『おんもらき』という妖怪ではないか」と指摘された。
図書館で妖怪にまつわる本を探してみると、まさに友人の言った通りで、江戸中期に活躍した浮世絵師、鳥山石燕の妖怪画集『今昔画図続百鬼』に描かれている「陰摩羅鬼」という妖怪の姿が、掛け軸の絵と瓜二つであった。おそらく五代前の当主は、鳥山石燕の陰摩羅鬼を真似て描いたに違いない。
この陰摩羅鬼という妖怪は、中国や日本の古い書物にも登場する物の怪で、中国の古書『清尊録』からの引用によれば、「姿は鶴のようで、体色が黒く、眼光は灯火のようで、羽を震わせて甲高く鳴く」とされている。
経典『大蔵経』によれば「新しい屍の気が陰摩羅鬼になる」とされており、どうやら
充分な供養を受けていない、新鮮な人の死体から出た気が、怪鳥の姿をとって現れたものが陰摩羅鬼という妖怪であるらしい。
陰摩羅鬼の名の由来は諸説あり、仏教で悟りを妨げる魔物の「摩羅(魔羅)」に「陰」や「鬼」の字をつけることで、鬼あるいは魔物であることを強調した名称であるという説や、障害を意味する「陰摩」と「羅刹鬼」が混じり合ったという説などあるが、何にせよ禍々しいことに変わりはなく、人の命と健康を預かる医師の家系で、代々の家宝にするような縁起物とは思えなかった。
ただ、「きちんと弔われず、成仏できない魂が、邪悪な姿となって現れる」ため、読経を怠る僧侶への戒めとして語られていた側面があったと知り、亮馬さんは「人の命を
預かる医師という職業として、自戒の念をもって陰摩羅鬼の絵を祀ってきたのではないか」と前向きに解釈し、当時はそれ以上、深く考えることをしなかった。
一度コツをつかむと、簡単に南京錠を開けられるようになったので、亮馬さんは時折小部屋に忍び込んでは、陰摩羅鬼の掛け軸を眺めるようになった。
とはいえ、決して絵の魅力の虜になった訳ではない。むしろ、生々しい不気味さに慣れることができず、何度見ても厭な気持ちにさせられる。
それでも繰り返し見てしまうのは、絵が微妙に変化しているように思えるからだ。
だんだんと、羽毛に立体感が出てきているような。
薄墨だったはずの細い線が、黒く濃く太い輪郭になっているような。
彩色の施されている箇所が、徐々に、徐々に増えてきているような。
気のせいだと自分に言い聞かせてはみるものの、見るたびに、絵が以前よりも生々しくなり、鮮やかな存在感を放っているように思えて仕方ないのだ。
亮馬さんは中学校を卒業するまで、父親の目を盗んでは小部屋に忍び入り、陰摩羅鬼の掛け軸が僅かに変化していく様を追い続けた。
事態が急変したのは、亮馬さんが県内一の進学校へ入学し、高校生になった春のこと。
ある日突然、何の前触れもなく、父親が「もう医者を辞める」と言い出した。
当然、母親は猛反対したが、父親は勤めていた総合病院を退職すると、開業するわけでも再就職するわけでもなく、ただひたすら家に居て、昼は庭いじり、夜は何時間も掛け軸の小部屋に閉じ籠もるという生活をするようになった。
母親や亮馬さんが理由を訊いても、父親は何ひとつ語ろうとしない。そればかりか、笑顔をほとんど見せなくなり、家族と会話をしようとしなくなった。
心配した母親が精神科の受診を勧めても、「医者は役に立たん」「放っておいてくれ」と投げ遣りに言うばかり。
それなりの貯蓄があったので、すぐに生活に困るようなことはなかったが、父親の身勝手な態度に嫌気が差した母親は、大喧嘩の末、代々議員を輩出しているという、やはり資産家の実家へと帰ってしまった。
高校への通学を考えて母親には付いて行かなかった亮馬さんが、高校二年生の夏を迎える頃、子どもには何の相談もないまま、両親が離婚したことを知らされた。
お嬢様育ちの母親は、第二の人生を優雅に過ごしたかったのだろう、離婚に伴い親権を放棄して、市会議員である実父の秘書として新たな人生を送るという。そのため亮馬さんは、すっかり様子のおかしくなった父親と二人暮らしを続けざるを得なくなった。
とはいえ、父親の雇った家政婦が家事の大半をやってくれたので、生活面で困ることはなかったのだが、将来の進路については、なぜか医者をめざすことを猛反対され、父親からは「医学部に進学するなら、学費は一切支払わない」とまで言われてしまった。
ただ、その理由を尋ねると、父親は決まって口を閉ざしてしまう。
そして口をへの字にぎゅっと結んで目を瞑り、今にも泣き出しそうな顔をするので、それ以上はどうしても食い下がることができなかった。
実際、父親の泣き声が、奥の小部屋から聞こえてくることもあった。
閉めた戸の向こうから、「申し訳ありません」「お赦しください」と何度も謝りつつ、時に激しく嗚咽し、時には静かに啜り泣く父親の声が漏れ聞こえてくる。
そんな時、亮馬さんはどうにもやるせない気持ちになるのだが、それでも戸を開けて父親に声をかけようとは思わなかった。
というのも、亮馬さんは心底恐ろしかったのだ。
掛け軸に過ぎない陰摩羅鬼の、しかし、今にも飛び立ちそうな色鮮やかさが。
そして何より、妖鳥の足元で艶やかに光る、鋭く尖った青い爪が。
―続きは書籍にて―
著者紹介
夜馬裕(やまゆう)
怪談師。怪談作家。3代目怪談最恐位(怪談最恐戦二〇二〇優勝)。カクヨム異聞選集コンテスト大賞。第7回幽怪談実話コンテスト優秀賞。インディと怪談師ユニット「ゴールデン街ホラーズ」を結成中。映画、猫、海の生き物、料理が好き。著書に『自宅怪談』(イースト・プレス)『厭談 祟ノ怪』『厭談 戒ノ怪』(竹書房)、監修・執筆に『代々木怪談-ノベルアップ+夏の夜の怪談コンテスト傑作選-』、漫画原作に『厭談夜話』(漫画:外本ケンセイ/小学館)、その他共著多数。アマゾンプライムのChannel恐怖にて「夜馬裕のスジなし怪談」を主宰、DVD作品に「圓山町怪談倶楽部」「怪談最恐戦」各シリーズ、「怪奇蒐集者(コレクター)」シリーズ他多数。
シリーズ好評既刊
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