東北の拝み屋・郷内心瞳が怪異と対峙する大人気シリーズ第8弾『拝み屋備忘録 怪談人喰い墓場』著者コメント+収録話「墓吹雪」全文掲載
そこで待ち伏せしている怨霊の恐怖!
拝み屋の著者に託された曰くつき実話怪談集!
あらすじ・内容
東北の拝み屋・郷内心瞳のもとに寄ってくる怪異の数々をしたためた人気シリーズ第8弾。
・友人宅近くの丁字路にポツンとある墓石、その謎がわかったのは…「裏付け」
・親戚から譲り受けた勉強机、しかしその夜に奇妙なことが…「由来不明」
・空き家の探検でその家の縁の下に入り込んだら、そこには四つん這いの女がいて…「ムラサキおばさん」
・ある日起こった集団自殺以降、15年の間にさらに多くの人間が不審な死を遂げ、忌むべき場所とされたその墓地。やがて更地となり暗い噂は忘れられていたのだが…「人喰い墓場」
――など収録。
ここに綴られる墓場には死者は静かに冥ってはいないのだ。
著者コメント
1話試し読み
墓吹雪
寿美さんが小学二年生の頃、今から三十年ほど前の話だという。
秋の夕暮れ時、彼女は祖母に連れられ、近所の田舎道へ散歩に出掛けた。
家から少し離れた道端には、裏手に雑木林が広がる墓地がある。
ちょうど彼岸の時節で、ずらりとひしめく墓石の前には、菊や竜胆、千日紅といった色とりどりの仏花が、束になって供えられている。
「綺麗だねえ」
祖母と言葉を交わしながら墓地の前を歩いているとお供えの仏花が突然、ざわざわと音を鳴らして揺れ始めた。どの墓の前に立てられた花も、左右に大きく首を振っている。
風かと思ったが、違った。揺れ動いているのは墓地の中の仏花だけで、背後に広がる雑木林や辺りに生える草むらは、葉の一枚さえ微かに揺らぎもしていない。
何が起きているのか分からず、黙って様子を見ているうちにみるみる怖くなってきた。
祖母もぎょっと目を開いて固まっている。
ざわざわと鳴り騒ぐ仏花を見つめ続けていると、激しい揺らぎに耐えられなくなった花びらが、一斉に墓地の虚空へ吹き散らばった。
西日に薄く陰り始めた墓地の風景が一転、極彩色の吹雪のような様相に見舞われる。
それは思わずはっと息を呑むほど幻想的な光景だったが、同時に背筋が瞬時に粟立つ異様な現象でもあった。
墓地の虚空いっぱいを舞い交わす無数の花びらは、まもなく地面へくたりと落ちると、今度は墓地の地面いっぱいに色鮮やかなモザイク模様を形成した。
隣で唖然となっている祖母に道理を尋ねてみたのだが、祖母もこんな光景を見るのは生まれて初めてとのこと。只事ではないということ以外は、何も分からないと返される。
祖母が答えた「只事ではない」との言葉どおり、その後は何べん墓地の前を通っても同じ現象を目にすることはなかった。
だが、この日にたったの一度だけ目撃した仏花の舞い飛ぶ様子は、長い年月が経った今でも目蓋の裏に焼きついて離れないそうである。
―了―
★著者紹介
郷内心瞳 (ごうない・しんどう)
宮城県出身・在住。
郷里の先達に師事し、2002年に拝み屋を開業。憑き物落としや魔祓いを主軸に、各種加持祈祷、悩み相談などを手掛けている。
2014年『拝み屋郷内 怪談始末』で単著デビュー。「拝み屋備忘録」シリーズ『怪談双子宿』『怪談首なし御殿』『ゆきこの化け物』『怪談腹切り仏』『怪談火だるま乙女』『鬼念の黒巫女』『怪談死人帰り』(小社刊)のほか「拝み屋怪談」「拝み屋異聞」各シリーズなどを執筆。共著に『黄泉つなぎ百物語』『怪談四十九夜 地獄蝶』など。